○取調べの録音・録画について(通達)

令和元年5月22日

達(刑総)第197号

みだしについては、別紙のとおり制定し、令和元年6月1日から実施することとしたので運用上誤りのないようにされたい。

なお、取調べの録音・録画の試行指針の制定について(平成28年9月27日付け達(刑総)第339号)は、廃止する。

1 趣旨

この度、令和元年6月1日から、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号)」及び「犯罪捜査規範及び通信傍受規則の一部を改正する規則(平成31年国家公安委員会規則第6号)」施行されることに伴い、取調べの録音・録画(平成31年4月26日付け警察庁丙刑企発第113号)が制定されたことから、本通達を制定するものである。

2 概要

(1) 録音・録画制度の概要及び運用上の留意事項を定めた。

(2) 精神に障害を有する被疑者に係る取調べ等の録音・録画における努力義務について定めた。

別紙

取調べの録音・録画について

1 録音・録画制度の概要及び運用上の留意事項(刑事訴訟法(昭和23年法律第131号。以下「法」という。)第301条の2及び犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号。以下「規範」という。)第182条の3第1項関係)

(1) 録音・録画制度の概要

ア 制度対象事件

(ア) 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件(イ)短期1年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件

イ 録音・録画義務

アに掲げる事件について、逮捕若しくは勾留されている被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは、ウ(ア)から(エ)までのいずれかに該当する場合を除き、録音・録画しなければならない。

ウ 例外事由

(ア) 記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき。

(イ) 被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。

(ウ) 当該事件が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第3条の規定により都道府県公安委員会の指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき。

(エ) (イ)及び(ウ)に掲げるもののほか、犯罪の性質、関係者の言動、被疑者がその構成員である団体の性格その他の事情に照らし、被疑者の供述及びその状況が明らかにされた場合には被疑者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあることにより、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。

エ 検察官の証拠調べ請求義務

制度対象事件について、検察官は、法第322条第1項の規定により証拠とすることができる書面であって、当該事件についての取調べ(逮捕又は勾留されている被疑者の取調べに限る。)又は弁解の機会(以下「取調べ等」という。)に際して作成され、かつ、被告人に不利益な事実の承認を内容とするものの取調べを請求した場合において、被告人又は弁護人が、その取調べの請求に関し、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べたときは、その承認が任意にされたものであることを証明するため、当該書面が作成された取調べ等の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述及びその状況をイにより記録した記録媒体(以下「録音・録画記録媒体」という。)の取調べを請求しなければならない。ただし、ウの例外事由に該当することによりイによる記録が行われなかったことその他やむを得ない事情によって当該録音・録画記録媒体が存在しないときは、この限りでない。

検察官が上記義務に違反して、録音・録画記録媒体の取調べを請求しないときは、裁判所は、決定で、当該書面の証拠調べの請求を却下しなければならない。

(2) 録音・録画制度運用上の留意事項

ア 録音・録画すべき取調べの範囲

録音・録画制度では、逮捕又は勾留の理由とされている被疑事実(罪名)が制度対象事件であるか否かを問わず、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べが制度対象事件についてのものである場合には、司法警察職員に録音・録画の義務が課せられる。

したがって、制度対象事件以外の事件で逮捕若しくは勾留されている被疑者を取り調べるとき又は制度対象事件以外の事件で逮捕されている被疑者に対し弁解の機会を与えるときであっても、取調べが制度対象事件に及ぶ見込みがある場合については録音・録画を行うこと。

イ 例外事由の適用

例外事由に該当するか否かは、第一次的には捜査機関が、その取調べ等の時点を基準として、それまでに収集した証拠や把握した事実関係、当該取調べ等における被疑者の供述等に基づいて判断することとなる。

当該判断は、公判において裁判所の審査の対象となり得るが、例外事由適用後に判明した事情は考慮されないことに留意すること。

2 精神に障害を有する被疑者に係る取調べ等の録音・録画(規範第182条の3第2項関係)

(1) 録音・録画の努力義務

警察官は、逮捕若しくは勾留されている被疑者が精神に障害を有する場合であって、その被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは、必要に応じ、取調べ等の録音・録画を実施するよう努めなければならない。

(2) 実施判断

「精神に障害を有する」被疑者とは、知的障害、発達障害、精神障害等、広く精神に障害を有する被疑者のことをいう。

「必要に応じ、取調べ等の録音・録画を実施するよう努めなければならない」と規範に規定された趣旨を踏まえ、上記の障害を有する被疑者であって、言語によるコミュニケーション能力に問題があり、又は取調べ官に対する迎合性や被誘導性が高いと認められるものについては、事件における証拠関係、被疑者に与える精神的負担や供述への影響等を総合的に勘案した上で、可能な限り広く取調べ等の録音・録画を実施すること。

なお、発達障害を始め、障害の中には、専門家による判断も難しいものがあり、診断に相当の期間を要するものもあることから、被疑者の障害の有無に係る判断を早期に行うことが困難な場合には、専門家による判断を殊更待つ必要はなく、個別事案に応じて、一定程度その可能性が疑われると判断できた段階で規範第182条の3第2項の対象として取り扱って差し支えない。

(3) 特性への十分な配慮

精神に障害を有する被疑者に係る取調べ等の録音・録画の実施に際しては、規範第168条の2(精神又は身体に障害のある者の取調べにおける留意事項)の規定に基づき、被疑者の特性を十分に理解し、適切な方法により取調べを行うこと。具体的には、取調べ時間、被疑者に対する発問方法や取調べ官の態度に配意するとともに、供述の任意性、信用性等に疑念を抱かれないよう供述調書の作成方法等を工夫すること。

3 1及び2に該当しない場合の録音・録画

1及び2に該当しない場合の録音・録画については、個別の事案ごとに、被疑者の供述状況、供述以外の証拠関係等を総合的に勘案しつつ、録音・録画を実施する必要性がそのことに伴う弊害を上回ると判断されるときに実施することができる。

4 録音・録画を実施する際の留意事項

(1) 録音・録画を実施する事件の捜査主任官は、当該事件の担当検察官と緊密に連絡をとること。

(2) 録音・録画の実施に際しては、被疑者に録音・録画をすることを告知すること。

(3) 録音・録画を実施した際には、速やかに録音・録画状況報告書(規範別記様式第18号)を作成すること。

5 録音・録画記録媒体の取扱い

録音・録画記録媒体の保管・管理の具体的な方法等については別に定める。

6 警察庁への報告

刑事総務課は、各事件の捜査主任官とも連携し、録音・録画を実施した結果について把握した上で、速やかに警察庁刑事局刑事企画課に報告を行うこと。

取調べの録音・録画について(通達)

令和元年5月22日 達(刑総)第197号

(令和元年6月1日施行)

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令和元年5月22日 達(刑総)第197号