○再被害防止への配慮が必要とされる事案における逮捕状の請求等について(通達)

令和4年12月1日

達(刑総)第512号

[原議保存期間 10年(令和15年3月31日まで)]

[有効期間 令和15年3月31日まで]

みだしのことについては、次の点を部下職員に周知徹底し、再被害防止に万全を期されたい。

1 趣旨

先般、神奈川県内において、ストーカー行為に端を発し、被疑者が以前交際していた女性を殺害する事件が発生した。この被疑者は、過去に被害者に対する脅迫事件の被疑者として逮捕されていたが、捜査員が被疑者に逮捕状を示す際に、逮捕状に記載された被害者の結婚後の氏名や自宅住所を読み上げたこと等から、これをきっかけに当該被疑者が被害者の住所等を特定することにつながったのではないかとの報道がなされたところである。

刑事手続においては、逮捕状により被疑者を逮捕するには、被疑事実の要旨を記載した逮捕状を被疑者に示さなければならず(刑事訴訟法第200条第1項、第201条第1項)、また、被疑者を逮捕したときは、直ちに犯罪事実の要旨を告げるなどしなければならない(同法第203条第1項)。これらの手続は、被疑者を逮捕するに当たり、被疑者に理由なく逮捕されるものではないことを保障するものであるから、逮捕状に示される被疑事実の要旨や、逮捕時に告知される犯罪事実の要旨は、犯罪事実を特定し、他の犯罪事実との識別が可能な程度に具体的かつ明確に特定することが求められ、特に犯罪事実の特定は、被疑者にとって十分なものであることが必要である。

他方、逮捕状に記載された被疑事実の要旨や逮捕時に告知される犯罪事実の要旨の内容によっては、事件の被害者等が被疑者に知られたくない情報が被疑者に認識されるおそれがある。そこで、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案、性犯罪、組織犯罪その他の再被害防止への配慮が必要とされる事案においては、逮捕状請求の段階において、被疑事実の要旨の記載方法について、被疑者に知られるべきでないと思われる被害者等に関する情報を記載しないこととするなどの配慮が必要である。

2 被疑事実の要旨の記載について

被疑事実の要旨の記載に当たっては、犯罪事実が特定され、他の犯罪事実との識別が可能でなければならないことに十分留意しつつ、当該事案において、再被害防止への配慮の必要性が高いかどうかを検討し、

① 被疑者に知られていない被害者の氏名ではなく、被疑者が了知している旧姓や通称名等を用いること

② 被疑者に知られていない被害者等の住所、居所を記載しない、又は「○○県内において」等の概括的な表記にとどめること

等、その表記方法について事案に応じて柔軟に検討すること。

3 被害者等の意向への配慮について

被害者等が自己に関する情報について被疑者に知られたくない旨の意向を示した場合には、上申書、供述調書、捜査報告書等において当該意向を記録化すること等により、各所属内において確実に周知するとともに、検察官や裁判官に伝達するなどの配慮をすること。

4 報告等

再被害防止への配慮が必要とされる事件については、逮捕状を請求する際に事件主管課に報告するとともに、関係所属への連絡を徹底して情報の共有と再被害の未然防止を徹底すること。

再被害防止への配慮が必要とされる事案における逮捕状の請求等について(通達)

令和4年12月1日 達(刑総)第512号

(令和4年12月1日施行)

体系情報
刑事部
沿革情報
令和4年12月1日 達(刑総)第512号