○「警戒の空白」を生じさせないために当面特に取り組むべき課題について(依命通達)

令和5年2月27日

達(生環)第53号

[原議保存期間 1年(令和6年3月31日まで)]

[有効期間 令和6年3月31日まで]

みだしのことについては、次のとおり実施するので、効果的な諸対策を推進されたい。

1 趣旨

近年、サイバー空間の利用を前提とする様々な技術・サービスが登場し、新型コロナウイルス感染症の影響もあって社会のデジタル化が加速化する中、インターネット上の様々な問題が顕在化してきたところであるが、とりわけ、在宅時間の増加等を背景として、オンラインカジノでの賭博事犯が社会問題化している状況にある。

また、風俗警察において扱うことが多い、売春をしている女性や外国人労働者をめぐる問題も、近年関係する制度の改正が行われるなどして、基本的な考え方に変化が生じつつある。令和4年5月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和4年法律第52号)」が制定されたが、同法は、女性をめぐる課題が生活困窮、性暴力・性犯罪被害、家庭関係破綻など複雑化、多様化又は複合化していることを踏まえ、困難な問題を抱える女性の支援の根拠法を、売春をなすおそれのある女子の保護更生を目的とする売春防止法から脱却させ、民間団体との協働といった視点も取り入れた新たな支援の枠組みを構築するものである。

外国人労働者については、我が国の深刻な人手不足対策に対応するため、平成31年4月から、即戦力となる外国人材の受入れ制度が新たに開始されたところである。今後我が国では、少子高齢化が更に進展し、人手不足が一層深刻化することが予想される中、政府においては外国人材の受入れに関する制度の在り方について更なる議論が開始されているところ、外国人との共生社会の実現に向けた環境整備を一層推進していくことが政府全体の重要課題となっている。

このような社会情勢や考え方の変化に対応せず、漫然と前例踏襲の取組を続けているだけでは、国民からの信頼を得られないだけでなく、「警戒の空白」が生じ、治安確保に支障を生ずる事態になりかねない。

他方、風俗警察においては、「風俗警察の当面の活動重点及び配意事項について(依命通達)(令和4年4月22日付け達(生環)第27号)等を踏まえ、主に違法営業の排除による風俗環境の浄化を推進しているところ、これらの重点に引き続き取り組む中で限られた警察力で風俗環境の浄化という目的を達成していくためには、こうした取組が風俗環境の浄化に真に資するものとなっているのか、あるいは、風俗環境上の課題の解決に資するものとなっているのかについて、よく考慮して取組を進めていく必要がある。

このような認識の下、以下に風俗警察の運営において「警戒の空白」を生じさせないために当面特に取り組むべき課題を記したので、これを踏まえた取組を推進されたい。

2 当面の課題

(1) 賭客の検挙にとどまらない無店舗型オンラインカジノでの賭博事犯の取締り及び実態解明の推進

前文記載のとおり、とりわけ賭客が自宅のパソコン等からアクセスして賭博を行う「無店舗型」のオンラインカジノについては、アクセス数の大幅な増加及びこれに伴う依存症の問題が強く指摘されており、オンラインカジノサイトのサーバーが国外に所在するなどの捜査上の障壁が存在するものの、警察として積極的に取締りを行い、賭博事犯の抑止を図っていく必要がある。

各署においては、サイバーパトロールはもとより、被疑者や参考人の取調べ、押収品の精査等を通じて端緒情報の収集を進め、賭客の検挙に努めるとともに、これにとどまらず、国内に介在する決済代行業者による資金の流れを徹底して捜査し、オンラインカジノの運営に関与するグループの解明及び検挙並びに犯罪収益の剝奪に努めること。

また、オンラインカジノでの賭博行為の違法性については、警察庁において作成したポスターを活用するなどして広報啓発に努めるとともに、他部門を含む警察職員に対しても周知し、オンラインカジノに関する相談等にも適切に対応できるようにすること。

(2) 困難な問題を抱える女性や外国人労働者からの搾取を行う悪質な事犯の取締りの推進

前文で記載した昨今の制度改正や考え方の変化を踏まえれば、従来より取締りを行ってきた売春事犯、風俗関係事犯、又は外国人労働者に係る雇用関係事犯等のうち、困難な問題を抱える女性や外国人労働者の弱い立場につけ込み、性的搾取や労働搾取を行い、不法な利益を得るといった、人身取引事犯に該当し得る悪質な事犯にこそ警察力を集中的に投入していく必要がある。

各署においては、売春事犯、風俗関係事犯、又は外国人労働者に係る雇用関係事犯等を認知した際には、売春している女性、不法就労外国人等及びそれらを直接雇用する雇用主にのみ目を向けるのではなく、その背後にある搾取の構造に着目し、背後組織やブローカー等の捜査を徹底し、その実態の解明及び検挙に努めること。また、こうした事案に関連し、大幅な円安等の経済状況が進んだ場合、国内で勧誘され、悪質なブローカーの斡旋を受けるなどして、日本の女性が海外で売春をし、ブローカー等に不当に金銭を搾取されるような事案の発生も懸念されることから、売春をする女性の募集を行うウェブサイトやSNS等での情報収集をするに当たっては、この種の事案の可能性も念頭に置くとともに、困難な問題を抱え、支援を要すると思われる者を捜査等で扱った場合には、積極的に関係行政機関へ取り次ぐなどの取組を進めること。

(3) 各署の実態に即した課題設定及び課題の解決に資するための取締りの推進

風俗環境の実態は地域ごとに様々であり、限られた警察力で真に風俗環境の浄化に資する取組を進めていくためには、風俗環境上特に問題となっている事項に集中的に警察力を投入する必要がある。各署においては、管内の風俗環境において「警戒の空白」を生じさせないため、様々な活動を通じて把握する地域住民の声やこれまでの取締状況等を踏まえ、あらかじめ明確に課題を設定し、その課題の解決に資するための取締りに重点を置くこと。

3 留意事項

(1) 刑事部門との連携

「風俗営業等に関与する犯罪者グループ等の取締りの推進について(依命通達)(令和5年1月11日付け達(組対、生環)第6号)で示しているとおり、前記2のいずれの課題に取り組む場合でも、事案の背後に潜む犯罪者グループ等の取締りを指向することから、刑事部門との連携が必要になる。捜査の過程で連携をすることはもとより、事案の背後に潜む犯罪者グループ等の検挙も視野に入れた捜査をするためには、捜査の当初から連携して戦略的に捜査方針を立てる必要があるほか、前記2(3)の課題設定に当たっては、風俗環境上の問題が生じている場合には背後に犯罪者グループ等が関与している場合が多いことから、犯罪収益の剝奪に向けた捜査や不動産の提供等違法営業を側面から支える者等の捜査を効果的に推進するためにも、課題の設定自体を連携して行うことも検討すること。

(2) 情報の蓄積と更なる取組への活用

風俗警察における事件捜査を風俗環境上の課題の解決のための手段として捉えると、事件捜査の過程で得られた情報はその事件の検挙に活用するのみならず、課題の解決に向けた更なる取組に向けて有機的に活用することが求められる。このため、各警察署においては、とりわけ事案の背後に潜む犯罪者グループ等及びその風俗営業への関与の実態の解明に関するもの等、事件捜査の過程で得られる情報については、結果的に検挙に至らなかったものも含め組織的に蓄積し、更なる取組に活用するとともに、本部にも積極的に報告すること。

(3) 効果的かつ効率的な対応策の検討

風俗警察部門においては、国民からの情報提供によるものをはじめ、様々な違反情報に接することとなるが、この際、例えば、事件担当部門が情報を入手したために、違反情報に対し事件化の手段しか検討しないこととなるのは適当ではない。違反の内容や悪質性を踏まえつつ、行政指導、行政処分、事件化といった複数の対応策の中で、違反状態の解消という効果が得られるもののうち、最も人員や時間を要しない効率的な方法は何か、違反情報があった営業者以外にも同種の違反があり得る場合には広く違反状態の解消を図らなくてよいか、という点も考慮した上で最適な対応策を検討すること。

「警戒の空白」を生じさせないために当面特に取り組むべき課題について(依命通達)

令和5年2月27日 達(生環)第53号

(令和5年2月27日施行)

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