○被害者の心情に配意した性犯罪捜査の更なる推進について(通達)

令和5年10月10日

達(捜一、刑総)第382号

[原議保存期間 5年(令和11年3月31日まで)]

[有効期間 令和11年3月31日まで]

みだしのことについては、次のとおり推進することとしたので、適切な対応に努められたい。

なお、被害者の心情に配意した適切な実況見分等の実施について(令和2年1月24日付け達(捜一)第13号)及び被害者の心情に配意した性犯罪捜査の徹底について(令和3年5月31日付け達(捜一)第197号)は、廃止する。

1 基本方針

性犯罪(刑法(明治40年法律第45号)に規定された不同意性交等罪、不同意わいせつ罪等の性的欲求等に基づく身体犯等をいう。以下同じ。)については、県本部主管課において、署が受理した性犯罪被害の相談や届出の内容等を迅速かつ確実に把握できるようにし、その認知等の段階から適切な指導等を行うものとする。

また、捜査段階における二次的被害の防止や被害者の精神的負担の緩和に努め、被害者の心情に配意した性犯罪捜査を推進するものとする。

2 性犯罪捜査指導体制の整備・充実

(1) 性犯罪への組織的対処

性犯罪に関する規定の適切な運用を図るとともに、より適正かつ緻密な性犯罪捜査を推進するため、性犯罪については、署で受理した相談等の内容に関し、署の関係部門で共有するほか、県本部主管課でも確実に把握するなどにより、組織的に対処がなされるようにすること。

(2) 性犯罪捜査指導官の任務

福島県警察の組織に関する訓令(平成4年県本部訓令第3号)第41条第2項に規定する性犯罪捜査指導官は、性犯罪捜査が適正に推進されるよう性犯罪捜査に係る指導等を行うものとする。

(3) 性犯罪指定捜査員の指定

福島県警察性犯罪指定捜査員の指定について(令和元年7月9日付け達(捜一)第253号)に基づき、署員の中から広く性犯罪指定捜査員を指定し、性犯罪捜査に係る知見を踏まえ、性犯罪捜査を適切に推進する上で必要となる活動を行うものとする。

3 適切な性犯罪捜査の推進

(1) 被害者のプライバシー等への配意

性犯罪の相談や被害の届出に際しては、被害者のプライバシー等の保護に配意し、人目に付かずに被害者が安心して話すことができる環境を整備するとともに、適切な場所を選定すること。また、被害の相談や届出があった場合は、被害者の立場に立ち、被害者の体調等に配意しながら、医療機関への早期受診の要否を判断するとともに、証拠の保全等の必要な事項についても丁寧に説明すること。さらに、屋外において被害者への対応を行う必要がある場合は、人目に付かないようにするなど、適切な方法での実施に配慮すること。

なお、捜査書類の作成に当たっては、被害者の保護及び再被害防止に配意し、性犯罪の被害者に関する情報の取扱いに細心の注意を払うこと。

(2) 被害の届出への適切な対応

性犯罪の被害者に被害の届出意思がある場合は、迅速・確実な被害の届出の受理について(令和4年10月11日付け達(刑総)第457号)に基づき、届出の時点における申告の内容が、明らかに犯罪の構成要件に該当しないと判断できる場合、又は明白な虚偽若しくは著しく合理性を欠くものである場合を除き、即時受理することとしているが、この受理の原則に反した取扱いがなされることのないよう、署の捜査員等に至るまで、組織的かつ適切な対応をすること。

即時受理とは、被害の届出があった場合に間を置かずにこれを受理することをいい、また、「明白な虚偽又は著しく合理性を欠くものである場合」とは、被害の届出人から聴取した内容から容易に判断し得るものをいい、改めて捜査又は調査を行い検討することを意味するものではないことに留意すること。

なお、治療のために被害者が直ちに医療機関を受診する必要がある場合等、被害者のために必要な措置を届出の受理に先行させる場合はこの限りではない。また、被害者が被害の届出を躊躇している場合は、被害者の意向を尊重するなど、適切に対応すること。

(3) 適切な証拠保全の実施

ア 性犯罪被害の相談等があった場合の対応

性犯罪被害の相談や届出があった場合は、被害者の体調等に配意しながら、医療機関への早期受診の要否等を判断するとともに、証拠保全等の必要な事項について丁寧に説明し、被害者が被害の届出を躊躇している段階であっても、被害者の心情に配意し、証拠資料の採取等の必要な捜査を行うこと。

イ 被害者に対する睡眠導入剤等の薬物の使用が疑われる性犯罪への対応

被害者からの聴取結果や被害前後の状況から被害者に対する睡眠導入剤等の薬物の使用が疑われる性犯罪の捜査においては、使用された薬物によっては短時間で体外に排出されるものもあることから、被害者の同意を得た上で、被害者の心情に十分に配意した方法により、速やかに採尿や採血を実施し、鑑定に付すこと。

採尿や採血の実施の要否を判断するに際しては、被害者が意識があるように行動していても、薬剤性の健忘症状により被害時の記憶が欠落している場合があるほか、アルコールとの併用によって、当該症状が強化される場合があることに留意すること。

ウ 性犯罪の証拠保全に係る資機材の整備・充実

被害者の着替え等衣類を含む性犯罪証拠採取セット、採尿・採血セット、簡易薬物検査キット等資機材について、必要に応じ、整備・充実を図ること。

エ 医療機関等における性犯罪証拠採取キットの整備

当初、警察への被害の届出を躊躇した性犯罪の被害者が、後日警察への届出意思を有するに至った場合に備え、協力の得られた医療機関等に性犯罪証拠採取キットを整備するなど、被害者の希望に応じ、証拠の採取・保管を行うことができる体制の整備を推進すること。

(4) 適切な実況見分等の実施

実況見分等を実施する必要がある場合には、被害者の精神的負担の軽減や二次的被害の防止に配意の上、その範囲、場面、方法等について十分に検討すること。

また、実況見分等の実施に際しては、原則として、被害者を写真撮影することはせず、実況見分等が被害者の指示・説明に基づいて実施されたことについては、その旨を実況見分調書等に記載するほか、被害者の供述調書に録取するなどして明らかにすること。

特に、被害状況の再現については、一般に、被害状況等が撮影された画像等の被害状況を明らかにする客観的な証拠がある場合や、犯行態様が単純で被害者等の供述により被害状況が明らかとなる場合には、被害状況の再現を実施する必要性は低いと考えられることから、個別の事件ごとに、必要に応じて検察官と協議した上で、被害状況の再現の要否等を判断すること。

なお、被害状況の再現を実施する場合は、警察官等が被疑者・被害者の代役となって実施することとし、被害者本人に被害者役を行わせないこと。

(5) 捜査の過程における二次的被害の防止

捜査の過程における被害者への対応に際しては、その目的、理由、必要性等を丁寧に説明し、被害者の身体的・精神的な負担を軽減するためにも、被害者の理解と協力を得た上で行うこと。

被害者からの事情聴取等に当たっては、対応する警察官の性別に関する希望をあらかじめ聴取して適切に対応するとともに、繰り返し重複した事情聴取が行われることのないよう、担当捜査員を指定するなどして必要最小限の回数で聴取するよう努め、被害者のプライバシーに関することを聴取する際には、その理由や必要性等を丁寧に説明すること。

また、事情聴取や実況見分等の各種捜査において被害者の協力を求める際には、所要時間の見込みを伝えるとともに、被害者の体調等に応じて途中で休憩を入れるなど、被害者の負担を軽減するための必要な措置を講じること。

さらに、被害者からの事情聴取の際やその供述に基づき被害届や供述調書を作成する際には、立証上必要な場合を除き、被害者に羞恥心を抱かせるような用語の使用を避けること。

4 指導教養の充実・推進

(1) 指導教養の充実

県本部主管課においては、関係部門と連携の上、幅広い職員に対し、性犯罪に直面した多様な被害者の心理や対応要領等について、様々な機会を利用して継続的に指導教養を推進すること。

性犯罪捜査に関する専科教養、研修等の実施に当たっては、心理学や精神医学等の専門的な知見を有する外部有識者による講演、性犯罪に直面した多様な被害者の心理等を踏まえた講義のほか、被害者の事情聴取の場面を設定したロールプレイ、医療機関等への同行要領等の実践的な指導を実施するなど、より一層内容の充実を図ること。

(2) 警察職員に対する指導教養の推進

性犯罪の相談や被害の届出は、夜間・休日を問わずになされることから、性犯罪捜査を担当する警察官のみならず、様々な職員がその対応に当たる可能性があることを念頭に、刑事部門の警察官及び性犯罪への対応に当たることが想定される職員に対し、被害の届出への適切な対応を始め、性犯罪捜査に係る留意事項について指導教養を行うこと。

特に、署において性犯罪捜査を担当する捜査幹部に対し、被害者の心情に配意した性犯罪捜査に係る教養を継続的に実施するなど、適切な捜査指揮がなされるようにすること。

5 適切な被害者支援の実施

性犯罪の被害者からの相談や被害の届出に際し、公費負担制度のほか、被害者の希望に応じ、県ワンストップ支援センター(性暴力等被害救援協力機関「SACRAふくしま」をいう。)等による支援策の教示等、必要な支援を推進すること。

被害者の心情に配意した性犯罪捜査の更なる推進について(通達)

令和5年10月10日 達(捜一、刑総)第382号

(令和5年10月10日施行)

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沿革情報
令和5年10月10日 達(捜一、刑総)第382号