○警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律等の円滑かつ適正な運用について(通達)

令和5年12月19日

達(捜一)第453号

[原議保存期間 10年(令和16年3月31日まで)]

[有効期間 令和16年3月31日まで]

みだしのことについて、次のとおり定め、令和5年12月19日から施行することとしたので、誤りのないようにされたい。

なお、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律等の施行について(平成25年3月22日付け達(捜一)第108号。以下「旧通達」という。)は、廃止する。

第1 趣旨

警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律等の運用等については、旧通達により示してきたところであるが、関係法令等の一部改正に伴い、新たに本通達を発出し、引き続き適正な運用を図るものである。

第2 関係法令等

(1) 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年法律第34号。以下「法」という。)

(2) 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律施行令(平成25年政令第49号。以下「令」という。)

(3) 国家公安委員会関係警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律施行規則(平成25年国家公安委員会規則第3号。以下「施行規則」という。)

(4) 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律第6条第3項の規定による解剖の実施の委託に係る国家公安委員会が定める基準を定める件(平成25年国家公安委員会告示第6号。以下「告示」という。)

(5) 死体取扱規則(平成25年国家公安委員会規則第4号。以下「規則」という。)

第3 法、令、施行規則及び告示の概要

1 目的等

(1) 目的

警察等が取り扱う死体について、調査、検査、解剖その他死因又は身元を明らかにするための措置に関し必要な事項を定めることにより、死因が災害、事故、犯罪その他県民生活に危害を及ぼすものであることが明らかとなった場合にその被害の拡大及び再発の防止その他適切な措置の実施に寄与するとともに、遺族等の不安の緩和又は解消及び公衆衛生の向上に資し、もって県民生活の安全と平穏を確保することを目的とする(法第1条関係)

(2) 礼意の保持及び遺族等への配慮

警察官は、死体の取扱いに当たっては、礼意を失わないように注意するとともに、遺族等の心身の状況、その置かれている環境等について適切な配慮をしなければならない(法第2条及び第3条関係)

2 死因又は身元を明らかにするための措置

(1) 死体発見時の調査等

ア 警察官は、その職務に関して、死体を発見し、又は発見した旨の通報を受けた場合には、速やかに当該死体を取り扱うことが適当と認められる署の署長にその旨を報告しなければならない(法第4条第1項関係)

イ 署長は、アの報告又は死体に関する法令に基づく届出に係る死体(犯罪行為により死亡したと認められる死体又は変死体を除く。ウにおいて同じ。)の死因及び身元を明らかにするため、外表の調査、死体の発見された場所の調査、関係者に対する質問等の必要な調査をしなければならない(法第4条第2項関係)

ウ イの調査に当たっては、医師又は歯科医師に対し、立会い、死体の歯牙の調査その他必要な協力を求めることができる(法第4条第3項関係)

(2) 検査

ア 署長は、(1)アの報告又は死体に関する法令に基づく届出に係る死体(犯罪捜査の手続が行われる死体を除く。以下「取扱死体」という。)の死因を明らかにするために体内の状況を調査する必要があると認めるときは、その必要な限度において、(ア)から(カ)までの検査を実施することができる(法第5条第1項及び令第1条関係)

(ア) 体内から体液を採取して行う出血状況又は当該体液の貯留量の確認

(イ) 心臓内の複数の部分から血液を採取して行うそれぞれの色の差異の確認

(ウ) 体内から体液、尿その他の物を採取して行う薬物等に係る検査

(エ) 体内から血液又は尿を採取して行う身体の疾患に伴い血液中又は尿中の量が変化する性質を有する物質に係る検査

(オ) 死亡時画像診断

(カ) (オ)のほか内視鏡その他口から挿入して体内を観察するための器具を用いて行う死体の異状の確認

イ アの検査は医師に行わせるものとする。ただし、専門的知識及び技能を要しない(ウ)の検査(通常死体を傷つけることがない方法により体液、尿その他の物を採取し、かつ、国家公安委員会規則で定める簡易な器具を用いて当該物から薬物等を検出するものに限る。)については、警察官に行わせることができる(法第5条第2項及び令第2条関係)

ウ イの簡易な器具は、体内から体液、尿その他の物を採取した場所において、単純な操作で速やかに薬物等を検出することができる器具とする(施行規則第2条関係)

エ アの場合において、取扱死体が変死体であるときは、刑事訴訟法第229条の規定による検視があった後でなければ、アの検査を実施することができない(法第5条第3項関係)

(3) 解剖等

ア 署長は、ウの法人又は機関に所属する医師その他法医学に関する専門的な知識経験を有する者の意見を聴き、取扱死体の死因を明らかにするため特に必要があると認めるときは、解剖を実施することができることとし、当該解剖は医師に行わせるものとする(法第6条第1項関係)

イ 署長は、アの解剖を実施するに当たっては、遺族がないとき、遺族の所在が不明であるとき等一定の場合を除き、あらかじめ、遺族に対して解剖が必要である旨を説明しなければならない(法第6条第2項関係)

ウ 署長は、国立大学法人、公立大学法人、学校法人その他の法人又は国若しくは地方公共団体の機関であって、国家公安委員会が厚生労働大臣と協議して定める基準に該当すると都道府県公安委員会が認めたものに、アの解剖の実施を委託することができる(法第6条第3項関係)

エ ウの国家公安委員会が定める基準は、次のいずれにも該当することとする(告示関係)

(ア) アの解剖を実施するために必要かつ適切な施設及び機械器具が確保されていること。

(イ) アの解剖に関し相当の学識技能を有する医師が確保されていること。

(ウ) (イ)の医師によってアの解剖が実施されること。

(エ) アの解剖の実施に関する事務によって得られた情報が適切に整理保管されること。

オ (2)エは、アの解剖を実施する場合について準用する(法第6条第4項関係)

カ ウの委託を受けた法人又は機関の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者であって、解剖の実施に関する事務に従事したものは、当該事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない(法第7条第1項関係)

キ カに違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(法第15条関係)

(4) 身元を明らかにするための措置

ア 署長は、取扱死体の身元を明らかにするため必要があると認めるときは、その必要な限度において、血液、歯牙、骨等の当該取扱死体の組織の一部(以下「資料」という。)を採取し、又は当該取扱死体から人の体内に植え込む方法で用いられる医療機器を摘出するために当該取扱死体を切開することができる(法第8条第1項関係)

イ アの措置は、医師又は歯科医師に行わせるものとする。ただし、血液の採取、爪の切除及び毛髪の抜取りについては、警察官に行わせることができる(法第8条第2項及び令第3条関係)

ウ (2)エは、アの措置について準用する(法第8条第3項関係)

(5) 記録書の作成

(1)イ、(2)ア、(3)ア、(4)ア、3(2)ア又は3(2)イのいずれかの措置を執ったときは、当該措置の結果その他必要な事項を記載した記録書を作成しなければならない(施行規則第1条関係)

3 その他

(1) 関係行政機関への通報

ア 署長は、2(1)イ、2(2)ア又は2(3)アの措置の結果明らかになった死因が、その後同種の被害を発生させるおそれのあるものである場合において、必要があると認めるときは、その旨を関係行政機関に通報するものとする(法第9条関係)

イ アの通報は、次の事項について行うものとする(施行規則第3条第1項関係)

(ア) 死亡の日時及び場所(不明のときは、推定の日時及び場所)

(イ) 警察官が死体を発見し、若しくは発見した旨の通報を受け、又は署長が死体に関する法令に基づく届出を受けた日時

(ウ) 2(1)イ、2(2)ア及び2(3)アの措置の結果明らかになった死因

(エ) 通報する必要があると認めた理由

(オ) (ア)から(エ)までに掲げるもののほか、参考となるべき事項

ウ 署長は、アの通報を行ったときは、通報記録書を作成しなければならない。(施行規則第3条第2項関係)

(2) 死体の引渡し

ア 署長は、死因を明らかにするために必要な措置が執られた取扱死体について、その身元が明らかになったときは、速やかに、遺族その他当該取扱死体を引き渡すことが適当と認められる者に対し、その死因その他参考となるべき事項の説明を行うとともに、着衣及び所持品と共に当該取扱死体を引き渡さなければならない。ただし、当該者に引き渡すことができないときは、死亡地の市町村長に引き渡すものとする(法第10条第1項関係)

イ 署長は、アの取扱死体について、その身元を明らかにすることができないと認めるときは、遅滞なく、着衣及び所持品と共に当該取扱死体をその所在地の市町村長に引き渡すものとする(法第10条第2項関係)

第4 規則の概要

1 領事機関への通報

署長は、第3の2(1)アの報告又は死体に関する法令に基づく届出に係る死亡者が外国人であることが判明したときは、遅滞なく、その旨を当該死亡者が死亡の際国籍を有していた国の領事機関に通報するものとする(規則第2条関係)

2 指紋及び掌紋による身元照会

(1) 署長は、取扱死体の身元を明らかにするため必要があると認めるときは、当該取扱死体に係る死者身元照会依頼書を作成し、鑑識課長にこれを送付することにより、警察庁刑事局犯罪鑑識官(以下「犯罪鑑識官」という。)に対し身元照会を行うことを依頼することができる(規則第3条第1項関係)

(2) (1)の依頼を受けた鑑識課長は、当該死者身元照会依頼書に係る電磁的方法による記録を作成し、犯罪鑑識官に対し、当該記録を電磁的方法により送信することにより、身元照会を行うものとする(規則第3条第2項関係)

(3) (2)の身元照会を受けた犯罪鑑識官は、当該身元照会に係る電磁的方法による記録とその保管する指掌紋記録とを対照し、その結果を当該身元照会をした鑑識課長に回答しなければならない(規則第3条第3項関係)

(4) (3)の回答を受けた鑑識課長は、直ちに、当該回答の内容を(1)の依頼をした署長に通知しなければならない(規則第3条第4項関係)

3 死体DNA型記録の作成等

(1) 署長は、資料を採取した場合において、当該取扱死体の身元を明らかにする必要があると認めるときは、科学捜査研究所長に当該資料を送付することにより、当該資料のDNA型鑑定を嘱託することができる(規則第4条第1項関係)

(2) (1)の嘱託を受けた科学捜査研究所長は、当該嘱託に係る資料のDNA型鑑定を行い、その特定DNA型が判明した場合において、署長から(4)の対照をする必要があると認められる旨の通知を受けたときは、当該資料の特定DNA型その他の警察庁長官が定める事項の記録(以下「死体DNA型記録」という。)を作成し、これを犯罪鑑識官に電磁的方法により送信しなければならない(規則第4条第2項関係)

(3) 科学捜査研究所長は、(2)の送信をしたときは、当該死体DNA型記録を抹消しなければならない(規則第4条第3項関係)

(4) (2)の送信を受けた犯罪鑑識官は、当該死体DNA型記録に係る特定DNA型と犯罪鑑識官の保管する被疑者DNA型記録及び特異行方不明者等DNA型記録に係る特定DNA型とを対照し、その結果を当該送信をした科学捜査研究所長に通知しなければならない(規則第4条第4項関係)

(5) (4)の通知を受けた科学捜査研究所長は、直ちに、当該通知の内容を署長に通知しなければならない(規則第4条第5項関係)

4 死体DNA型記録の整理保管等

(1) 犯罪鑑識官は、死体DNA型記録の送信を受けたときは、これを整理保管しなければならない(規則第4条の2第1項関係)

(2) 犯罪鑑識官は、死体DNA型記録の保管に当たっては、これに記録された情報の漏えい、滅失又は毀損の防止を図るため必要かつ適切な措置を講じなければならない(規則第4条の2第2項関係)

(3) 犯罪鑑識官は、その保管する死体DNA型記録が次のア又はイのいずれかに該当すると認めるときは、当該死体DNA型記録を抹消しなければならない(規則第4条の2第3項関係)

ア 3(4)の対照をした場合において、当該死体DNA型記録に係る特定DNA型が犯罪鑑識官の保管する特異行方不明者等DNA型記録に係る特定DNA型に該当し、当該死体DNA型記録に係る取扱死体が当該特異行方不明者等DNA型記録に係る特異行方不明者であることが判明したとき。

イ アに掲げるもののほか、死体DNA型記録を保管する必要がなくなったとき。

5 死体の引渡し

(1) 署長は、取扱死体以外の死体について、当該死体を引き渡したとしてもその後の犯罪捜査に支障を及ぼすおそれがないと認められる場合において、当該死体の身元が明らかになったときは、速やかに、遺族その他当該死体を引き渡すことが適当と認められる者に対し、その後の犯罪捜査又は公判に支障を及ぼさない範囲内においてその死因その他参考となるべき事項の説明を行うとともに、着衣及び所持品と共に当該死体を引き渡さなければならない。ただし、当該者に引き渡すことができないときは、死亡地の市町村長に引き渡すものとする(規則第5条第1項関係)

(2) 署長は、(1)の場合において、その身元を明らかにすることができないと認めるときは、遅滞なく、着衣及び所持品と共に当該死体をその所在地の市町村長に引き渡すものとする(規則第5条第2項関係)

6 書面の徴取

署長は、第3の3(2)又は第4の5による引渡しを行ったときは、死体及び所持品引取書を徴さなければならない(規則第6条関係)

7 本籍等の不明な死体に係る報告

戸籍法(昭和22年法律第224号)第92条第1項の規定による報告は死亡報告書に本籍等不明死体調査書を添付して行うものとし、同条第2項の規定による報告は死亡者の本籍等判明報告書により行うものとする(規則第7条関係)

8 母の不明な死産児に係る通知

死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号)第9条の規定による通知は、母の不明な死産児に関する通知書により行うものとし、当該通知を行った場合において、死産児の母が明らかになったときは、遅滞なく、同条に規定する市町村長に対し、その旨を通知しなければならない(規則第8条関係)

第5 運用上の留意事項

1 法の規定による措置の的確かつ確実な実施

法の趣旨を踏まえ、綿密な死体観察及び現場観察、関係者からの事情聴取、裏付け調査等、死体取扱時における基本調査の更なる徹底に努めること。また、死体の外表からの観察のみでは死因が明らかにならない場合には、法に基づく検査又は解剖の実施を積極的に検討すること。

2 刑事訴訟法との関係

刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第229条に基づく検視は、死体の状況を外表から検査する処分とされており、検視を実施する前に死体を傷つける措置等を行うべきではないことから、取扱死体が変死体である場合には、同法に基づく検視を実施した後でなければ、法に基づく検査、解剖又は身元を明らかにするための措置を実施することができない点に注意すること。また、法に基づく各種措置は、犯罪捜査の手続が行われる死体以外の死体を主な対象としていることから、これらの措置を実施する過程で犯罪の嫌疑が生じた場合には、刑事訴訟法にのっとり、速やかに犯罪捜査の手続を開始すること。

3 医師及び歯科医師との連携

法第4条第3項においては、医師又は歯科医師に対して必要な協力を求めることができることとされており、具体的には、調査への立会い、患者の既往症に関する情報の提供、歯牙の調査等が考えられるほか、法第5条の検査は原則として医師に、法第8条の身元を明らかにするための措置は原則として医師又は歯科医師に行わせることとされていることからも、法の施行に当たっては、医師及び歯科医師の協力を得ることが不可欠である。したがって、法に規定する各種措置を適切に実施できる医師及び歯科医師の協力を確保するとともに、これら医師又は歯科医師との定期的な会合の開催、合同研修会の実施等により連携強化を図ること。

警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律等の円滑かつ適正な運用について(通…

令和5年12月19日 達(捜一)第453号

(令和5年12月19日施行)

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