福島県警察 犯罪被害者支援特集

福島県警察本部

インタビューInterview 03

PANSAKU「そのままのあなたでいいんだよ」と伝えてほしいです

プロフィール
■ 今、このページを見ている被害者の方、あるいは被害者を支えたいと思っている方にメッセージをお願いします。

<ぱん>
 今、私はみんなの前で歌を歌って自分の性犯罪被害を明かす活動をしているけれど、決して乗り越えるために努力して頑張ったとか、人一倍打れ強い訳ではなく、たまたま私の周りには被害に遭った私を受け入れてくれる人間関係や環境があったからで、私がレイプされた人間であることが恥ずかしいとか思わないからしているんです。これも自分の一部だって受け入れられるようになったからです。
 だから、被害者の人が、どういう状況で被害に遭ったのかとか、どういう性格なのかということよりも、周りの人がその人にどういう風に声をかけるか、どういう風に寄り添うかということが、被害者の人が生きようとするのか、死にたいと思い続ける日々を過ごすのかを紙一重で分けるんだと最近思っています。被害に遭うと、ひとりで孤独に苦しんでしまうと思うんだけど、だからこそ、本当に傷ついた心に伝わって欲しいメッセージは、「一人じゃないよ、絶対にあなたのことを心配して思っていてくれる人がたった一人でもいるよ。自分を責めないで。あなたは悪くないよ」ということです。



− ひとりじゃないよ、あなたは悪くないよと伝えることが大切なんですね。
<ぱん>
 はい、それが一番伝えたいことです。とにかく本当に孤独なんですよね、被害者の人って。やっぱり自分に責任があると思っているから、周りにつらいって言えないんですよね。助けてって言えなくて。被害者の人が最初の一歩を踏み出すためには、やっぱり周囲の人が手を差し出して「大丈夫、あなたは悪くない」って言ってあげること。そこから被害者の人は起きてしまった現実に少しずつ時間をかけながら向き合えるんじゃないかなと思います。反対に、傷ついた本人だけが精神的に闘って克服するものだと遠巻きに見ていられるのはつらいものです。


− 遠巻きに見ているのではなく、近づいて声を掛けるということですね。
<ぱん>
 最初の段階では、そうです。自分の存在をありのまま受け止められる経験を繰り返しながら、少しずつ自分で何とか歩き始めようという段階では、距離感やスタンスは変わってくると思います。私の場合は、最初にSAKUちゃんのお父さんが「おまえは悪くない」って言ってくれたから、完全に心が閉じなかったんだ、引き籠もったりしなかったんだな、と最近わかりました。だから、最初に誰が、どう関わるかって大事だなって思います。


− 以前も、周りの人たちのサポートのおかげで今の自分があるとおっしゃっていました。
<ぱん>
 私はラッキーな人間なのかもしれません。私が被害に遭った時、私は公的な支援が世の中に存在していることを知らなかったし、そういう情報すらもらえなかったんです。電話番号はもらったかもしれないんですが、本当にかけていいのかわからないって感じだったんです。でも、元々あった人間関係の中で自然に支援を受けることができました。「身近な人に支えられる」。それっていわゆる『社会的支援』として行き着く先にある理想的な形ですよね。お金を払ってこの時間は受け止めてもらえますよっていう契約の中で回復したのではなく、本来の日常生活の中の関わりの中で癒されていったんですから。
P10404031.jpg でも、顔見知りの人からの被害など周囲には知られたくないという人もたくさんいます。家族や友人の関係からちょっと離れた、ちゃんと知識をもった専門家からサポートしてもらうことも、大切な「支援」の形だと思います。近すぎると傷つけ合っちゃうし、お互いしんどくなっちゃうこともあるし。
 私はレアなケースかもしれません。でもその分、自分も周りも葛藤した経験があります。だから今、とても実感を伴って被害者支援って何だろうって考えます。ちゃんと理解している専門家だけが被害者の人を支えればいいんじゃなくて、私たちひとり一人が持っている心や絆、理解が最終的には被害者を救うんだと思います。



■ 被害に遭って、助けを求めたいと思いつつも一歩踏み出せないという方に対して、ぱんさんから何を伝えたいですか。
<ぱん>

 上手く言えませんが、助けを求めている方に関しては、あなたはどういう状況でこのページを見てくれているかわからないけれど、私たちの【STAND】という歌にもある、“あなたという存在はかけがえのない存在なんですよ”ということが伝わればいいなと思います。


■ では、SAKUさんから、被害者の方や被害者を支えたいと思っている方にメッセージをお願いします。
P10404203.jpg<SAKU>
 正直に言ってしまえば、被害者支援はそんなに簡単なことではないんです。被害者は、それだけ大きな心の傷を負ってしまっているから心も敏感だし、人によっては周りから声を掛けられることが本当の本当は嬉しいはずなのに、口では拒絶してしまう人もいます。そんなとき、一回拒絶されるとショックというか・・・そういう壁にぶち当たる支援者もいると思います。
 でも、一番大事なのは、【ひとり一人が大切な存在である】ということを軸にして、ぶれないようにして支援して行くということなんじゃないかなって思います。その軸があれば、一回拒絶されたとしても、もう近寄らないようにしようというのではなく、相手の立場も考えられるようになるんじゃないかと思うんです。被害者には、それぞれタイミングや回復へのプロセスがあるじゃないですか。それは人によってペースが違うし、様子を見ながら手を差し伸べてあげられたらいいんじゃないかなと思います。
 もう一つ重要なのは、じゃあ、どうやって支えようかと考え始めること自体が、社会を変えていくことにつながるということです。そんなの関係ないでしょ、と思った時点で自分たちは変わることはできないけれど、どうしたらいいんだろうと疑問を持ち始めた時点で、自分たちは学ぼうとするし、被害者の人にどんな風に接すればいいのかも勉強できます。だからまず考え始めること、そのスタート地点に立つこと自体が素晴らしいことだと思うんです。


− それが支援の第一歩だと。
<SAKU>
 そう、一歩だと思います。私も最初、ほとんど無知でしたから。私もぱんちゃんのことがあるまで、一度も被害者という立場を考えた事がなかったんです。今の時代、被害者にどんな風に声をかけるかを学ぼうとすれば、インターネットでも学べるし、ぱんちゃんみたいに声をあげている人もいるし、どう声をかけるかっていうアイディアは出てくると思うんです。


− 何かしたいと思うこと自体、大きな一歩ですね。
<SAKU>
 そうですね。気になるのは、何かしたいという思いが強いゆえに、支援者が自分のキャパシティー(容量)をオーバーしてまでやろうとする傾向があることです。支援者にも支援者を支えてくれる信頼できる人が必要だなと思います。被害者に対する支援者、支援者に対する支援者とダブルで。そうすれば、支援者もひとりで抱えなくて済むし。秘密厳守してもらわなければならないから、それは信頼できる人である必要があるけれど。それだけ性被害は深い傷を負わせると思います。


■ 性被害の傷の深さを知ると、周りの人も遠巻きにして近づけないかもしれません。
<ぱん>
 周りも変なことを言って傷つけちゃったら…と思って、どう接したらいいかわからないかもしれないですよね。
<SAKU>
 でも、結局はコミュニケーションというか、信頼関係だと思うんですよね。被害者と支援する人との信頼できる人間関係があっての回復だよね。支援者が失敗しても、被害者が許してくれたらもう一度やり直せるものね。
<ぱん>
 私は支えてもらっているんだから、私のこと傷つけないでよって被害者がバリアをつくってしまうというか・・・。こんなつらい思いはあなたにはわからないという思いは、被害者の中に無くはないんです。でも、そうじゃないって被害者の人も気づく必要があるというか・・・。私が世界で一番不幸なんだと思っていたら、周りの優しさも受け入れられない。助ける・助けられるじゃない、本当の信頼関係が結ばれたときに、お互いが成長できるという感じがします。私たちがそうでした。
<SAKU>
 ぱんちゃんが被害に遭ったとき、「鍵をかけていなかった」と聞いて、だから被害に遭ったんだという思いが、頭をよぎりました。でも、父親から「それは違う、言ってはいけない」と止められてはじめて「そうだ、そういう問題じゃなかった」と気づいたんです。ようやく最近になって、そのことをぱんちゃんに打ち明けることができました。
<ぱん>
 最初、自分のことに必死だったから、SAKUちゃんが葛藤していることに気づかなかったんです。「私はかわいそうじゃないんだ」とわかったとき、「私は私で歩き出さなきゃいけないんだ」と思ったとき、SAKUちゃんの葛藤もわかったというか。
 あのとき私は99.9%悪くなかったと思える自分がいるけど、でも0.1%は「車の鍵を掛けておけばあんな目に遭わなかった」と思う自分がいて、だから今でも講演で、鍵を掛けてなかったって一言を言うことができないんです。過去に言ったことはあるけど、相当備えがある中で言ったというか。私の中で恐れがあって。実際、「だからあなたはレイプされた」って責められてきたから。
 状況だけ見れば、被害者のここに落ち度があったから被害に遭ったって一見思えてしまう。でもそれが本当の原因ではない、そういう次元の話ではないということは、自然に知ることはなかなかできないんです。ある程度の知識を得なければ、そのことを理解するのは難しいと思います。周囲の人が性犯罪被害という悲しい現実を、「被害者のここが悪かったから、だから被害に遭ったんじゃないか」って思って処理しようとする。「でも本当は、加害者が鍵をこじ開けたり、すみませんって声を掛けて騙したりしてやろうと思えばどんな方法でもやれたわけだし、それはひとつの要因であって責められるべきことではない」って小笠原さん(小笠原和美元福島県警警務部長)から言ってもらい、私の中の0.1%がなくなったんです。

<SAKU>
 ぱんちゃんと同じように、私もそのことに気づくまで時間がかかりました。被害者の人と周囲の人が本当の意味で信頼関係を結ぶまでには、これ以外にもたくさん葛藤があると思います。決して簡単じゃない。でも、やっぱりとても大切なことだと思えました。P10403672.jpg
<ぱん>
 世の中に、自分が悪いから周りに言えないっていう被害者がどのくらいたくさんいるだろうかって思います。「助けて」って言ったら、「お前のここが悪かったからだ」って言われてしまうから、どうしようもなくて、自分が起こしてしまったことだと処理していくしかなくて・・・。でも、それは、あまりにつら過ぎる現実です。でも、そうじゃないよって言ってもらった時点で、景色が変わってくるというか。
 私の場合、私が立ち向かうべきは、私がどんな服装で、どんな行動をしていたかといった取り戻せないミスに悩むことではなくて、私は悪くなかったんだ、この傷ついた自分からもう一度スタートを切ろうと決意することで、それを周りが共有してくれることが大事なんだと気づきました。改めて自分の道のりを振り返ると、確かにそうでした。自分ばっかりかわいそう、私の中にもそういう弱い気持ちもあるけれど、そこに留まっている自分はやっぱり時間が止まっているんだなって思って。起きてしまったことをどう捉えるかで、悲しい出来事を希望に繋げることができると思います。

<SAKU>
 でも、全部時間が必要だよね。被害直後に希望に替えられるかっていうと無理だしね。
<ぱん>
 そうだね。それは無理だね。いま、振り返ってみれば、ということだけど。


■ 最後に、一番嬉しかった言葉、一番心に響いた言葉を教えてください。
<ぱん>
 そうだなあ・・・。やっぱり自分が悪いと思っていたから、P10404131.jpg「あなたは悪くないよ」ってその気持ちを打ち消してくれた言葉が最初は一番大きかったですね。でも、長いスパンで言うと、私の存在そのものを受け入れてくれるような、「何があったとしても、『ぱんちゃん』は『ぱんちゃん』としてそこに存在していていいんだよ。大切な存在なんだよ。生きていていいんだよ。生きていてくれてありがとう」という言葉です。
 私は被害に遭って、自分の価値が信じられなくなって、自己肯定感がなくなってしまいました。性暴力被害では、自分の存在がわからなくなったり卑小に感じる傷がつくことがあるんです。だから、自分の存在が受け入れられている、頑張らなくても傷だらけの自分が周りに受け入れられているっていうメッセージは、今でも私の支えになっています。今でもグラグラしてして迷いが出てきてしまうことがあるけど、どんな自分でもここで生きている自分がなにより大事だと思えなきゃだめだよなって。「ありのままでいいんだよ」って言葉が嬉しかったです。



− なるほど。
<ぱん>
 他に私が助けられたなと思ったのは、自分が一番乗り越えたいと思っているのに乗り越えられなくて、周りもだんだん、「まだそんなところで傷ついているの?」って思っているとき、ある人が、「人間の心っていうのは、インスタントじゃないんだよ、そんな簡単じゃないんだよ」って言ってくれたことです。立ち直ったぞって前向きに生きてます感を出してアピールしないと周りのお荷物になるんじゃないかって思っていたけど、それを聞いたら無理して頑張らなくてもいいんだと楽になりました。
 あと、すごくうれしかったのは、レイプ被害に遭ってしまったという変えられない過去の出来事も全部ひっくるめて、「ぱんちゃんを愛しているよ」と言われたことがあって・・・それは、泣けました。あの嫌な出来事を人生から切り取って、切り取った中で頑張ろうって思っていた自分に、いや切り取らなくていいんだよと、これもあなたの一部だよって言ってくれて。一生懸命生きてきて、でも突然レイプされてしまったけど、それもあなたの一部で、それで傷ついているあなたも大事だよって言ってくれたとき、「ああ、よかった〜」ってホッしたっていうか。被害者の人って、傷ついた自分をどこかで切り離したいと思っていているから、「そうじゃない、そのままのあなたでいいんだよ。泣いてもいいんだよ」って伝えてもらえることは大切だと思います。本当に向き合わなければいけないことを自分ひとりで受け入れるのはとても難しいことだから。一番って言って、いろいろ言ってしまいましたね(笑)


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