○国選弁護人となろうとする者に対する氏名の開示に関する被害者への意向確認等の実施について(依命通達)
令和6年2月5日
達(刑総)第20号
[原議保存期間 5年(令和11年3月31日まで)]
[有効期間 令和11年3月31日まで]
みだしのことについては、令和6年2月15日から実施することとしたので、誤りのないようにされたい。
記
1 趣旨
刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和5年法律第28号。以下「改正法」という。)が公布され、逮捕状に代わるものの公布の請求を始めとする被害者等の個人特定事項(氏名及び住所その他の個人を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を秘匿する制度(以下「個人特定事項秘匿制度」という。)の施行により、一定の場合には、刑事手続において被害者等の個人特定事項を被疑者及び被告人並びに弁護人に対し、明らかにしないことがあり得ることとなった。
その結果、検察官が勾留請求に際し勾留状に代わるものの交付等請求を行った事件について、国選弁護人となろうとする者は、受任前に被害者の氏名を把握し、これに基づいて他の受任事件等との利益相反の有無につき確認することが困難となり、ひいては、円滑な国選弁護人選任手続の実施が困難となることが想定される。
国選弁護人の円滑な選任は、被疑者の権利保護の観点から重要であることはもとより、国選弁護人が円滑に選任され、被害回復に向けた交渉等を含む弁護活動が速やかに開始されることが被害者の権利利益の保護の観点からも有益な場合も少なくないこと等を踏まえ、一定の事件について、国選弁護人となろうとする者に対する氏名の開示に関する被害者の意向等を確認するよう努め、その結果を検察官に伝達することとするものである。
2 確認要領
(1) 対象事件
改正法による改正後の刑事訴訟法(昭和23年法律第131号。以下「刑訴法」という。)第201条の2第1項第1号に該当する被害者(以下「措置対象被害者」という。)の個人特定事項につき秘匿する必要があるとして、同項に基づき、逮捕状の請求と同時に逮捕状に代わるものの交付を請求し、逮捕状が発付されるとともに逮捕状に代わるものの交付を受けた上で、被疑者を逮捕した事件
(2) 手続
ア 措置対象被害者に連絡を行う者(以下「連絡担当者」という。)は、原則として、対象事件につき被疑者を逮捕した旨の連絡をする際に、措置対象被害者に対し、その氏名を、当該被疑者に知らせない条件の下、その国選弁護人となろうとする者に対して開示することの可否について意向を確認するよう努めること。
イ 意向確認の結果(同人の意向を確認できなかった場合を含む。)については、別紙「国選弁護人となろうとする者に対する氏名の開示に関する意向確認書」(以下「意向確認書」という。)を作成すること。ただし、事件を検察官に送致するまでの間において、措置対象被害者に連絡等をする際に同人の意向を確認することも差し支えない。
ウ 作成した意向確認書については、送致(付)書類の末尾に編綴すること。
なお、措置対象被害者が、国選弁護人となろうとする者に対して氏名を開示することには同意しなかったものの、国選弁護人となろうとする者に伝達可能な情報として、措置対象被害者と関係のある弁護士名や弁護士事務所名につき陳述した場合には、当該情報を意向確認書のその他の参考事項欄に記載すること。
3 留意事項
(1) 措置対象被害者への意向確認を実施する際に同人に説明すべき事項については、別紙2を参考にすること。
(2) 国選弁護人となろうとする者が正式に国選弁護人を受任した場合には、当該国選弁護人は、弁護人に対して勾留状の謄本ではなく「勾留状に代わるもの」の謄本を交付する措置(刑事訴訟規則第150条の5第6項)又は弁護人に対して起訴状の謄本ではなく「起訴状抄本等」を送達する措置(刑訴法第271条の3第4項、第271条の4第5項)がとられる場合を除き、原則として、措置対象被害者の個人特定事項を知り得る立場にある。そのため、措置対象被害者の意向確認を行うに当たっては、同人が氏名の開示に同意しなければ、同人の氏名が将来においても国選弁護人となろうとする者に知られることはない旨の誤解を生じさせないよう、改正法の趣旨並びに措置対象被害者が氏名の開示に同意した場合及び同意しなかった場合の一連の流れについて理解した上で、同人の意向を確認すること。
(3) 本運用は、措置対象被害者の意向が最大限尊重されるべきであり、同人が氏名開示について同意しない意向を示した場合に、確認を実施する者が、同意するよう説得する必要はない。
また、例えば、措置対象被害者が、国選弁護人となろうとする者に対して氏名を開示することで、自らの名前が被疑者及びその関係者に知られること又は自らが犯罪の被害に遭ったことが広く世間に知られることへの不安を述べた場合などには、同人の不安を除去し、その心情を安定させるために
・ 弁護士は、法律上、職務上知り得た秘密を漏らしてはならないこととされていること(弁護士法第23条)
・ よって、国選弁護人となろうとする弁護士が、被疑者及びその関係者を含む第三者に対して、被疑者には伝えない条件の下で知った被害者の名前を知らせた場合には、所属弁護士会による懲戒処分や刑事罰(刑法第134条(秘密漏示罪))の対象となり得ること
といった情報を提供することは差し支えない。
別紙1
略
別紙2
1 あなたが被害を申告した事件の被疑者が逮捕されました。被疑者には、弁護人を依頼する権利があります(憲法第34条、刑事訴訟法第30条)。また、被疑者が逮捕に引き続き勾留を請求された場合等において貧困等の事由により自ら弁護人を選任することができないときは、裁判官に対して弁護人の選任を請求することができ、この場合には、裁判官は被疑者のために国選弁護人を付することとされています(刑事訴訟法第37条の2)。
2 弁護士は、依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件や、事件の当事者との間に特別の関係がある事件については、その職務を行うことができません。
よって、あなたが相談又は委任している弁護士やあなたと特別の関係がある弁護士は、原則として、あなたが被害に遭った事件について被疑者の弁護人となることはできません。
3 そのため、弁護士は、被疑者の弁護人に就任するに当たって、あなたから相談や依頼を受けていないことや、あなたと特別の関係がないことを確認する必要があります。この確認を実施するために、あなたの氏名を、被疑者に知らせないことを条件として、被疑者の弁護人になろうとする弁護士に伝えることに同意しますか。
4 あなたの氏名を弁護人となろうとする弁護士に伝えることに同意しない場合であって、検察官が被疑者の勾留を請求するのと同時にあなたの氏名等の個人特定事項を被疑者に知らせない措置を請求するときには、捜査機関や被疑者のために国選弁護人を選任する裁判官等があなたの氏名を含む個人特定事項を弁護人となろうとする弁護士に伝えることはありません。
しかし、当該弁護士が弁護人に就任した場合には、裁判官に請求すれば、原則としてあなたの氏名等の個人特定事項を知ることができます。
5 これからの刑事手続において、被疑者に対しては、最終的には裁判官の判断によることとなりますが、あなたの氏名等の個人特定事項を知らせない措置を講じることができます。被疑者に対して、あなたの氏名等の個人特定事項を知らせたくない場合には、事件を担当する警察官や検察官に相談してください。