○ストーカー加害者等に対する新たな施策の実施について(依命通達)
令和6年5月14日
達(少対)第311号
[原議保存期間 5年(令和12年3月31日まで)]
[有効期間 令和12年3月31日まで]
みだしのことについて、次のとおり定め、令和6年5月14日から施行することとしたので、所属職員に周知徹底し、適切な運用に努められたい。
記
1 趣旨
ストーカー事案については、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、加害者が被害者に対して強い危害意思を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれがあるところ、被害者の安全確保をより確実なものとするためには、加害者対策及び被害者の保護対策の更なる強化を図る必要がある。
この度、一部の都道府県警察において、新たな施策の試行を実施した結果、当該施策が加害者の再発防止に有効であると認められたことから、県警察においても当該施策を実施するものである。
2 新たな施策
(1) ストーカー加害者に対する連絡(以下「加害者連絡」という。)
(2) ストーカー加害者に対する治療等の有用性の教示の原則化(以下「治療等の教示」という。)
(3) ストーカー被害者に対する危機意識の醸成(以下「危機意識の醸成」という。)
3 実施要領
別添1から3のとおり
別添1
加害者連絡の実施要領
1 目的
ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「法」という。)に基づく禁止命令等の措置を講じた加害者に対し、警察官による連絡を行うことにより、加害者の近況等や被害者への執着の程度等を把握し、加害行為の再発防止及び再被害防止措置に係る支援の向上を図ることを目的とする。
2 対象
禁止命令等の措置を講じた加害者を対象とする(加害者連絡の実施について、適当でないと認める者を除く。)。
3 実施所属
実施主体となる所属(以下「実施所属」という。)は、禁止命令等の措置を講じた所属とする。
なお、複数の署が事案に関係する場合は、被害者等の保護の観点から少年女性安全対策課と関係署が協議の上、適当な実施所属を指定できるものとする。
4 体制等
(1) 所属長
実施所属の所属長は、警部以上の者を連絡責任者に指定し、本業務が適正に行われるよう必要な指示を行うものとする。
(2) 連絡責任者
連絡責任者は、ストーカー事案を担当する捜査員の中から連絡担当者を指定し、加害者連絡の状況を把握の上、本業務について必要な措置を講ずるものとする。
(3) 連絡担当者
連絡担当者は、連絡責任者から必要な措置に関する指示を受け、本要領に基づいて加害者連絡を実施するとともに、適宜、その実施状況を連絡責任者に報告するものとする。
5 要領
(1) 被害者への説明
禁止命令等の発出に際し、加害者連絡を実施する旨を被害者に説明する。
(2) 命令の実施
禁止命令等をする際に、法第5条第1項第1号の命令に併せて、同項第2号に係る事項として、「警察からの電話連絡、面談要請に応じること。」旨を命じること。
また、禁止等命令書を交付する際に、加害者に対し、加害行為の再発防止を図るため、電話又は面談により、禁止命令等の措置を講じた加害者の近況等や被害者への執着の程度等を確認する旨を説明すること。
(3) 実施手段
電話又は面談により、加害者本人に対して実施する。
ただし、加害者の年齢や性格、境遇等の事情により、加害者本人に直接連絡することが適当でないと認める場合は、加害者の家族や同居する者、その他加害者の動静に詳しい者から加害者の近況等を聴取するように努めること。
(4) 確認事項
加害者連絡を実施する場合は、加害者の住居、職業、連絡先、被害者に対する執着の程度等の近況のほか、加害者の言動や生活の様子、その他必要事項を可能な範囲内で確認し、再被害防止措置に有益と認められる情報が得られるよう努めること。
(5) 実施期間等
実施期間は、禁止命令等の有効期間内とし、適宜の回数実施すること。
なお、実施回数及び実施時期については、加害者の言動や性格、加害者と被害者の関係性、被害者への連絡状況等を考慮し、少年女性安全対策課と関係署が協議の上、方針を決定するものとする。
(6) リスク評価と被害者への対応
加害者連絡を通じて得られた加害者に関する情報に基づき、再被害防止の観点から、その都度、加害者の再犯性や報復のおそれの有無等についてリスク評価を行うこと。また、必要に応じて、被害者に講じた保護措置の見直しを行うとともに、被害者に加害者の近況や被害者への執着の程度等を必要な範囲で伝達すること。
被害者への伝達に当たっては、加害者のプライバシーに関する紛議事案が起こることのないよう十分に配意すること。
(7) 対応結果の記録等
ア ストーカー事案指揮簿
ストーカー加害者は、ストーカー行為等の規制等に関する法律に係る事務処理要領の制定について(令和4年3月11日付け達(少対)第118号)に定められたストーカー事案指揮簿により、所属長の指揮を受け、禁止命令等の措置を講じた者であるため、加害者連絡の開始時及び終結時にも同ストーカー指揮簿により指揮を受けて実施すること。
イ 連絡経過票
加害者連絡に係る記録(被害者への伝達事項を含む)については、別記様式「連絡経過票」を活用の上、上記(4)の確認事項のほか、加害者連絡を継続又は終結とした措置結果について適切に記録しておくこと。
なお、作成した連絡経過票は、実施所属の所属長に報告後、ストーカー事案指揮簿に編綴し、保管することとする。
6 留意事項
(1) 実施の判断
実施所属は、禁止命令等の措置を実施する方針が定まった段階で加害者連絡の実施の可否を検討すること。
なお、下記のいずれかに該当する場合は、少年女性安全対策課と関係署が協議の上、加害者連絡を実施しない又は打ち切るものとするが、加害者連絡を打ち切る場合は、その旨を被害者に説明すること。
ア 加害者連絡の実施又は継続について、被害者から拒否された場合
イ 加害者連絡を実施又は継続することが、再発の防止の妨げになると明らかに認められる場合
ウ その他、加害者連絡の実施又は継続について、所属長が適当でないと認める場合
(2) 加害者に連絡が取れない場合等の措置
加害者に連絡が取れない又は面談に応じない場合は、禁止命令等の法第5条第1項第2号に係る事項に違反したこととなり、加害行為の再発のおそれが高いものとなる。そこで、加害者の家族等に連絡するなど、可能な範囲内で加害者の現状確認に努めるとともに、被害者等の現状確認を確実に実施し、必要な被害者等の保護措置を講じた上で、その経過を記録すること。
(3) 禁止命令等有効期間延長処分を講じた場合
禁止命令等の有効期間の延長の処分を講じた場合は、改めて加害者連絡の継続の必要性について組織的に検討すること。
(4) 関係都道府県警察との連携
加害者連絡を実施するに当たり、他の都道府県警察と情報共有する必要性が認められる場合は、少年女性安全対策課を通じて関係都道府県警察と連携を密にし、間隙が生じないよう適切に対処すること。
その場合は、人身安全関連事案への対応上の留意事項について(令和5年2月7日付け達(少対)第22号)に定められた人身安全関連事案連絡票等を活用すること。
(5) 被害者個人情報の保護
加害者連絡では、被害者等のプライバシーに配意するとともに、連絡担当者の言動等により、被害者等の秘匿避難先等が加害者に察知されないよう十分注意すること。
7 報告
署において加害者連絡を実施した場合は、その都度、関係記録と共に少年女性安全対策課に報告すること。
別記様式
略
別添2
治療等の教示の実施要領
1 目的
ストーカー加害者には、被害者への強い支配意識や執着心等の特徴があり、これらを取り除くためには、専門家による精神医学的・心理学的手法に基づくカウンセリング又は治療(以下「治療等」という。)が有効な手段になり得ると考えられることから、ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「法」という。)に基づく警告又は禁止命令等の措置を講じた加害者に対し、地域精神科医療機関等(以下「医療機関等」という。)における治療等の有用性を教示することにより、事態の沈静化に配意した対応を執るとともに、被害者の真の安全安心を確保することを目的とする。
2 対象
警告又は禁止命令等の措置を講じた加害者を対象とする。
3 実施所属
実施主体となる所属(以下「実施所属」という。)は、警告又は禁止命令等の措置を講じた所属とする。
4 要領
(1) 治療等の教示
実施所属は、警告又は禁止命令等の発出に際し、加害者に対して説明用のリーフレット等を交付し、医療機関等における治療等が有用な場合がある旨を教示すること。
この場合において、ストーカー事案の加害者に関する地域精神医療等との連携の推進について(令和4年12月28日付け達(少対)第581号)も踏まえ、効果的な運用を図ること。
(2) 医療機関等の一覧の呈示又は交付
治療等の教示により、治療等を希望する又は治療等を行う意思のある加害者には教示に併せて、別途、少年女性安全対策課から提供する医療機関等の一覧を加害者に呈示又は交付すること。
(3) 実施報告
治療等の教示を実施した結果については、ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(令和5年2月22日付け達(少対)第50号)に定められた調査等報告書に記録し、実施所属の所属長に報告するとともに、少年女性安全対策課に報告すること。
なお、作成した調査等報告書については、ストーカー事案指揮簿に編綴し、保管すること。
5 留意事項
(1) 地域精神科医療機関等とは、NPO法人等のほか、加害者からの相談を取り扱う支援団体等も幅広く含むものとする。
(2) 治療等の教示については、あくまでも加害者自身の立ち直りを支援するものであることを理解し、加害者の人権を尊重した丁寧な対応に努めること。
(3) 必要に応じて医療機関等と連携を図り、医療機関等との間に誤解等のトラブルがないように努めること。
別添3
危機意識の醸成の実施要領
1 趣旨
ストーカー事案の被害者やその親族等(以下「被害者等」という。)の安全確保を最優先とした対応を行うためには、その都度、被害者等への定期連絡によるリスク評価を適切に実施し、被害者等の保護対策に万全を期すことが重要であるが、被害者等の中には、事態の危険性や緊急性を正しく認識していなかったり、加害者に対する警戒心が一時的に弱まるなどの傾向が認められることから、こうした背景を踏まえ、被害者等に対する防犯指導の強化や積極的な携帯型緊急通報装置(以下「通報装置」という。)の貸出しにより、危機意識のより一層の醸成を図り、被害者等の安全を確保することを目的とする。
2 要領
(1) 被害者等への防犯指導の更なる強化
被害者等に対し、定期連絡時や適宜のタイミングにより、更なる被害を防止するため、説明用のリーフレット等を交付の上、過去の事例等を踏まえた繰り返しの注意喚起を行い、危機意識のより一層の醸成を図るものとする。
(2) 通報装置の貸出しの積極的な検討
警告又は禁止命令等の申出をした被害者等のほか、その他加害者から危害を加えられるおそれのある者に対し、加害者の不意な接近等に備えて、積極的に通報装置の貸出しを検討するものとする。
(3) 通報装置の実効性の確保
被害者等へ通報装置を貸し出す場合は、具体的な使用要領(通報装置の特性、操作要領等)を教示するほか、通報装置を常時携帯することがいかに保護対策の観点から有効であるかについて、その重要性を十分に説明の上、通報装置の実効性の確保に努めるものとする。
(4) 通報装置貸出し時の動作確認の実施
通報装置を貸し出す際、被害者等の面前により、可能な範囲内で通報装置の動作確認を実施し、被害者等が実際に通報装置を使用した際のイメージについて具体的に教示するものとする。
3 留意事項
通報装置の貸出し及び操作方法にあっては、人身安全関連事案の保護対策に係る携帯型緊急通報装置運用要領の制定について(令和6年3月28日付け達(少対、通信)第199号)等を踏まえ、効果的な対応を図ること。