○適正な死体取扱業務の推進上の留意事項について(依命通達)
令和6年5月22日
達(捜一)第324号
[原議保存期間 5年(令和12年3月31日まで)]
[有効期間 令和12年3月31日まで]
警察における死体取扱業務の留意事項については次のとおりであるので、遺漏のないようにされたい。
なお、「適正な死体取扱業務の推進上の留意事項について」(令和3年1月19日付け達(捜一)第8号)及び「死体の取り違え防止の徹底について」(令和5年4月13日付け達(捜一)第184号)は廃止する。
記
1 検視官が現場臨場することができない場合の措置
検視官が全ての死体取扱現場に臨場することが望ましいが、やむを得ず検視官が現場に臨場できない場合においては、映像伝送装置を用いて送られてきた死体やその周辺の映像等及び現場に臨場している警察官からの報告内容等を精査した上で、必要な指導・助言等を行い、犯罪死の見逃し防止を図ること。
なお、通信環境等により映像の送受信が困難な場合においては、場所を移動して映像の送受信を行うこと。
2 基本捜査等の徹底
(1) 死体及び現場観察の徹底
死体及び現場観察に際しては、一見自殺や事故死と見られる場合であっても、偽装工作が行われている可能性があることを念頭に置き、死体の状況と死体所見の整合性、死者の生前の動向、死亡に至る背景・手段・方法、発見場所の施錠の状況等について、必要な捜査・調査を徹底すること。
(2) 関係者供述の裏付け捜査等の徹底
過去には、配偶者や知人等の関係者が被疑者であった事案について、当該関係者の供述を鵜呑みにして犯罪死を見逃した事案があったことから、自殺の動機や目撃状況等に係る関係者の供述については、必ず裏付け捜査・調査を徹底すること。
特に、裏付けとなる客観証拠等が存在しない場合にあっては、一見して関係者の供述が一致し、現場の状況と符合する場合であっても、安易に鵜呑みにすることなく、別途、他の中立的な関係者から事情聴取を行うなど、供述の信用性を吟味すること。
また、複数の関係者から事情聴取を行う場合には、別々の場所やタイミングで聴取するなどして、一方の供述が他方の供述に影響を与えることのないよう配意すること。
(3) 自殺供用物とされる物に対する捜査等の徹底
自殺を装った殺人事件等において、自殺に使用されたとされる練炭、ロープ、薬物等が重要な犯行道具となっていることも多いことから、これらの物の入手経路等に対する捜査・調査を徹底すること。
(4) 生命保険加入状況、在籍照会及び既往症照会の徹底
生命保険加入状況の照会を実施することにより、保険金目的の殺人事件等による犯罪死の見逃しを防止できる可能性があることから、この種照会を積極的に実施すること。また、保険金受取のために偽装結婚や養子縁組が行われることも多いことから、家族構成や婚姻関係等に不審点が認められる場合には、在籍照会を確実に実施すること。さらに、独居者や若年者で既往症が不明な場合には、安易に病死と判断することなく、確実に既往症の照会を行うこと。
(5) 周辺捜査等の徹底
上記のほか、付近への聞き込み、防犯カメラ映像の確認、携帯電話の使用履歴の精査、遺言書作成状況や戸籍、銀行口座等の状況の確認を行うこと。
また、これまでに犯罪性の見極めが困難であった事案を参考としつつ、家族・親族の死因や死亡時期に不審点がないか、入所施設等において不審死が連続していないかなどについて、死者及び関係者の周辺捜査・調査を徹底するとともに、事故等の再現見分を適切に実施することにより、犯罪性の有無を総合的に判断すること。
3 薬毒物検査の積極的な実施
(1) 簡易薬毒物検査キットを用いた予試験の徹底
死体の血液、尿等の資料から、死体取扱現場において、早期に科学的判断を得ることができる簡易薬毒物検査キット(以下「簡易検査キット」という。)については、犯罪死の見逃し防止に有用であることから、現場や死体の状況に応じて、簡易検査キットを用いた予試験の徹底に努めること。
(2) 実施すべき簡易毒物検査の種別
ア 青酸化合物の検査
以下のとおり、死体の区分(状況)に応じた簡易毒物検査を実施する。
(ア) 測定器及び検知管を用いた簡易毒物検査
○ 検視を行った死体
○ 死体調査を行った死体であって、有害物質の摂取の有無を明らかにする必要性が高いと認められるもの(簡易薬物検査を行った死体等)
(イ) 試験紙を用いた簡易毒物検査
死体調査を行った死体であって、(ア)に掲げる死体以外の死体
イ アルコール及び一酸化炭素の検査
アルコール又は一酸化炭素の影響があると認められる死体については、測定器及び検知管を用いた簡易毒物検査を実施する。
(3) 科学捜査研究所との連携による薬毒物定性検査の実施
簡易検査キットによる予試験の結果が陽性である場合、簡易検査キットによる予試験を実施する必要性が認められるものの資料を採取することができず、予試験を実施することができない場合、簡易検査キットでは反応を示さない薬毒物を死者が摂取していると考えられる場合等、犯罪の有無を判断する上で必要と認められるときは、科学捜査研究所とも連携の上、分析機器を用いた定性検査を確実に実施すること。
4 死亡時画像診断の積極的な実施
(1) 死亡時画像診断の活用の推進
犯罪性の有無を判断するに当たって、死体内部の状況を可視的に把握し得る死亡時画像診断を活用することは、犯罪死の見逃し防止に有用であることから、その積極的な実施に努めること。
(2) 死亡時画像診断実施病院との協力関係の強化・構築
必要な死亡時画像診断を確実に実施することができるよう、地元医師会等とも連携し、死亡時画像診断実施病院等との協力関係の強化・構築に努めること。
5 部門間の連携
交通警察部門において取り扱った死体で病死と判断されたもの等、犯罪死が潜在している可能性が認められる事案については、関係部門と緊密に連携の上、積極的に情報を収集し、犯罪性の有無について判断すること。
6 死体の取り違え防止の徹底
(1) 死体取扱担当者による引渡し
遺族や葬儀業者等(以下「遺族等」という。)の関係者等に死体を引き渡すに当たっては、原則として、検視・死体調査の現場で当該死体を取り扱った警察官が直接立ち会い、これを引き渡すこと。
当該死体を取り扱った警察官が、他の用務等のためやむを得ず死体の引渡しに立ち会うことができない場合は、刑事課長等にその旨を報告するとともに、当該警察官は、死体の引渡しに立ち会う警察官に対し、死体の顔貌や識別表示等を目視により直接確認させるなどして、誤りのないよう引継ぎを徹底すること。
また、夜間、休日にかかわらず可能な限り警部以上の捜査幹部が責任者として死体の引渡しに立ち会うことにより、確実な引渡しを実施すること。
(2) 死体取り違え防止措置の徹底
死体取扱いに当たっては、死者名、発見場所、担当者等を記載した遺体票(検視等業務運用要領第15の2、同様式第8号)を遺体収納袋に貼付するなど死体の識別表示を確実に実施すること。
また、まさに死体を遺族等に引き渡す際は、死体の顔貌を直接目視して取扱い時の写真と照らし合わせるほか、遺族等に遺体票に記載された氏名等を告げた上、当該遺体票を共に目視確認すること。
(3) 捜査幹部による指導の徹底等
刑事課長等の捜査幹部は、部下職員に対する死体取り違え防止のための具体的な指導を徹底すること。