○臓器の移植に関する法律第6条第2項に規定する脳死した者の身体に対する検視等の実施要領について(依命通達)
令和6年6月3日
達(捜一、交指)第340号
[原議保存期間 10年(令和17年3月31日まで)]
[有効期間 令和17年3月31日まで]
対号 令和6年6月3日付け達(捜一、交指)第339号「臓器の移植に関する法律第6条第2項に規定する脳死した者の身体の取扱い等について(通達)」
臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号)第6条第2項に規定する脳死した者の身体に対する検視、実況見分、検証又は調査等の実施要領を別紙のとおり改めたので、各位にあっては、本要領に基づき脳死した者等の身体に対する適正な取扱いに努められたい。
なお、本通達の実施に伴い、「臓器の移植に関する法律第6条第2項に規定する脳死した者の身体に対する検視等の実施要領について(依命通達)」(令和3年2月1日付け達(捜一、交指)第16号)は廃止する。
別紙
臓器の移植に関する法律第6条第2項に規定する脳死した者の身体に対する検視等の実施要領
第1 趣旨
警察において、傷害部位が頭部に集中して意識不明状態にある等被害者に対して臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。)第6条第2項の判定(以下「脳死判定」という。)が行われる可能性のある傷害事件、交通事故等を認知した場合には、その後の治療状況等に留意しつつ、それぞれ下記の場合に応じた措置を採ること。
第2 犯罪性ありと判断される場合
脳死した者の身体(脳死判定がなされた者の身体をいう。以下同じ。)に対して鑑定処分許可状を得て解剖が行われる場合(以下「司法解剖」という。)には、脳死段階で臓器を摘出することはできないこととなるので(法第7条)、できる限り速やかに司法解剖の必要性の判断を行うこと。
1 脳死判定前における司法解剖の必要性の判断
直ちに、事件、事故発生現場における実況見分・検証、関係者、目撃者等からの事情聴取等所要の捜査を行い、司法解剖を行う必要があるかどうか判断すること。
この結果、司法解剖を行う必要があると認めた場合には、医師に対し、司法解剖を行う必要がある旨を速やかに連絡するとともに、心臓停止の時点での連絡を要請すること。
2 実況見分又は検証の実施
脳死判定前に司法解剖を行う必要がないと認めた場合又は司法解剖の必要性が判断できない場合においては、脳死判定後速やかに脳死した者の身体に対する実況見分又は検証(以下「実況見分等」という。)を実施すること(この場合の要領については後記「検視の準備」の(1)(2)及び「検視の実施」を参照すること。)。
この場合にあっては、検視官が臨場すること。
(1) 実況見分等終了後の措置
脳死判定前に司法解剖を行う必要がないと認めた場合においては、実況見分等終了後、医師に対し、犯罪捜査に関する手続が終了した旨を連絡し、事後の措置は医師にゆだねること。
実況見分等の終了後、司法解剖の必要性の判断を行う場合においては、可能な限り法医等の意見も参考にし、できる限り速やかに司法解剖を行う必要があるかどうか判断し、その結果に応じそれぞれ下記の措置を採ること。
ア 司法解剖を行う必要があると認めた場合
実況見分等の結果、脳死した者の身体に対し司法解剖を行う必要があると認めた場合には、医師に対し、司法解剖を行う必要がある旨を速やかに連絡するとともに、心臓停止の時点での連絡を要請すること。
イ 司法解剖を行う必要がないと認めた場合
実況見分等の結果、脳死した者の身体に対し司法解剖を行う必要がないと認めた場合には、医師に対し、犯罪捜査に関する手続が終了した旨を連絡し、事後の措置は医師にゆだねること。
3 司法解剖の実施
(1) 鑑定処分許可状の請求
脳死した者の身体に対する鑑定処分許可状の請求は、脳死判定後に行うものとし、被疑事実の死亡日時には脳死判定日時(2回目の脳死判定終了時刻)を記載すること。
この場合にあっては、必ず医師から、本人が脳死判定に従う意思を書面により表示している場合においては当該書面、臓器を提供する意思を書面により表示している場合においては当該書面、家族が脳死判定を行うこと及び臓器を摘出することを拒まないこと又は承諾することを記載した脳死判定承諾書及び臓器摘出承諾書、医師による法第6条第5項に規定する判定が的確に行われたことを証する書面(脳死判定の的確実施の証明書)、死亡診断書等(以下「脳死判定等資料」という。)を確認するとともに、その各写しの交付を求め、死亡日時(脳死判定日時)を確認すること。
なお、脳死判定がなされなかった場合においては、鑑定処分許可状の請求は、心臓の停止後に行うものとし、被疑事実の死亡日時には三徴候による死の判定日時を記載すること。
(2) 司法解剖の開始時期
司法解剖は心臓停止後に行うこと。
(3) 留意事項
司法解剖と同時に臓器摘出を行いたい旨の申出があった場合には、臓器摘出は司法解剖が行われた後でなければ行い得ないものとされていることから(法第7条)、これには応じられない旨を説明し、医師に混乱が生じないよう配意すること。
第3 犯罪によるか否かが明らかでなく検視を行う必要がある場合
脳死した者の身体に対して検視を行う必要がある場合には、医師は当該検視が終了するまでは当該脳死した者の身体からの臓器の摘出はできないので(法第7条)、臓器移植の必要性にも配慮し、脳死した者の身体に対する速やかかつ的確な検視が行えるよう必要な準備を行うなどすること。
1 検視の準備
脳死判定前においても、可能な限り事件・事故の現場の見分、関係者、目撃者等から事情聴取等所要の調査を行うなどし、臓器移植の円滑な実施に配慮すること。
(1) 医師への連絡
医師に対し、検視を行う旨を連絡すること。
なお、あらかじめ医師から脳死判定を行う旨の連絡を受けていた場合にあっては、検視が終了するまでは脳死した者の身体からの臓器摘出を行わないこと及び検視を終了した後であっても司法解剖を行うことがあり得ることについて連絡するとともに、あらかじめ次の事項について協力を求めること。
ア 脳死判定予定日時、場所、連絡責任者(医療機関の責任者の氏名、住所、電話番号及びこれに代わる者の氏名、住所、電話番号)等必要な事項の連絡
イ 検視への立会い、生命維持装置等の取扱い、脳死した者の身体を検視に必要な限度で動かすことなど検視を行うに当たって必要な補助
ウ 検視を行うための場所(警察官が待機する場所を含む。)の提供
(2) 医療機関への臨場
医師から検視の要請があった場合は、脳死判定後に速やかに検視を行うことができるよう、当該判定前にこれを行う医療機関に臨場して待機するなどの配慮を払うこと。
2 検視の実施
(1) 検視の開始時期
検視は、脳死判定後速やかに行うこと。
(2) 検視の実施場所
検視は、あらかじめ、医療機関から提供された場所において行うこと。
なお、検視の実施場所まで脳死した者の身体を移動することとなる場合には、必ず医師の補助を求めること。
(3) 検視担当者
脳死した者の身体に対する検視は必要最小限の人数で行うこと。
なお、脳死した者の身体に対する検視を行うに際しては、原則として、死亡原因発生場所を管轄する署の主管課長等及び検視官が臨場し、交通事件にあっては交通事故事件捜査統括官等も臨場すること。
(4) 死亡日時(脳死判定日時)の確認
脳死した者の身体に対する検視を行うに当たっては、必ず医師から、脳死判定等資料を確認するとともに、その写しの交付を求め、死亡日時(脳死判定日時)を確認すること。
(5) 死体観察の方法
脳死した者の身体の観察に際しては、医師の補助を求め、臓器移植に必要な機器以外のモニター、包帯、ギブス等を取り外すなどして可能な限り全身についての外表検査を行うとともに、受傷部位の状況、治療痕、損傷部位の入院時と検視時における違い等を確認すること。
この場合においては、可能な限り写真撮影に努めること。
なお、検視終了後臓器摘出が行われた後に、死体の確認を行うことは差し支えない。
(6) 医師からの説明等
入院時の受傷状況、治療状況、症状の経緯等につき、担当医師その他の適当な医師から説明を求め、必要により供述を録取しておくこと。また、医師が受傷部位等の写真等を保有している場合には、当該写真等の提出も求めること。
(7) 医師の立会い、補助
脳死した者の身体に対する検視については、脳死した者の身体が包帯、人工呼吸器等の医療器具等を装着していることに鑑み、必ず担当医師(当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の立会いを求めるとともに、脳死した者の身体を検視等に必要な限度で動かすことや人工呼吸器等の医療機器の操作等につき医師の補助を求めること。
なお、この場合においては、必要最小限の人数の医師の立会い、補助を求めること。
3 検視終了後の措置
(1) 司法解剖を行う必要があると認めた場合
検視の結果、脳死した者の身体について司法解剖を行う必要があると認めた場合には、医師に対し第2の2(1)アの連絡を行うこと。
(2) 司法解剖を行う必要がないと認めた場合
検視の結果、脳死した者の身体について司法解剖を行う必要がないと認めた場合には、医師に対し第2の2(1)イの連絡を行うこと。
第4 第2及び第3以外の場合
脳死した者の身体に対して死体調査(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年法律第34号)第4条第2項の調査をいう。以下同じ。)を行う必要がある場合であっても、当該調査の結果、刑事訴訟法に基づく手続に移行することもあり得ることから、第3の場合に行う検視の手続に準じた措置を採ること。
なお、病気により脳死に至った場合等警察が直接取り扱わない脳死した者の身体からの臓器摘出については、警察として格別の措置を採ることを要しないので、医師等から問合せがあった場合においては、その旨を回答すること。
第5 第2から第4に定める検視等に際しての留意事項
1 脳死判定が行われても移植のための臓器摘出が行われないことが判明した場合は、心臓の停止を待って検視等の手続を行うこと。
2 検視等に際しては、臓器移植の必要性についても配慮し、脳死した者の身体への感染を防止するため、衣服はできるだけ清潔なものを着衣するほか、検視等に使用する資機材についてもできるだけ清潔なものを使用すること。
3 検視等に際しては、臓器移植の円滑な実施に配意する必要はあるものの、これにより検視等に支障を生じ、犯罪を見逃すこととならないよう、留意すること。
特に、医師から迅速に検視等を行うよう要請を受けた場合にあっては、法第7条により、医師は、死体について検視その他の犯罪捜査に関する手続が行われるときは、当該手続が終了するまでは当該脳死した者の身体からの臓器の摘出はできないこととされている旨を説明の上、適正な検視等に努めること。
4 脳死判定・臓器提供の承諾の有無について、医師、家族等の間に争いがある場合においては、脳死判定・臓器提供は本人や家族により任意になされるべきものとされていることに鑑み、警察がその争いに介入することがないよう留意すること。
5 医師から臓器の摘出の可否や人工呼吸器の取り外しの可否について尋ねられた場合には、警察はその可否の判断を行う立場にないことを説明するに止めること。
6 医師が警察の要請に応じないで脳死した者の身体からの臓器摘出を行った場合は事案により証拠隠滅罪等が成立することもあることから、医師が警察の要請に応じないで脳死した者の身体からの臓器摘出を行おうとした場合は、必要な警告をした上、所要の証拠保全措置を採ること。
7 医師から、脳死判定・臓器摘出の要件の確認のため、検視等の対象となる者が臓器提供意思表示カード(運転免許証、健康保険被保険者証等の意思表示欄を含む。)等を所持しているか否かの問い合わせを受けた場合には、警察の捜査等の過程で知り得た範囲でこれに回答すること。
8 脳死判定される以前においては、医師は、患者の医療に最善の努力を尽くしている段階であるので、警察においても家族の感情等について十分配慮すること。
9 検視調書、実況見分調書又は記録書等の作成に当たっては、死亡推定日時欄に脳死判定日時(2回目の脳死判定終了時刻)を記載すること。
第6 医師、医療機関等移植関係者との協力
1 医師、医療機関等移植関係者との連絡体制の確立
平素から脳死判定が行われる医療機関との連絡体制を確立するなど医師、医療機関等移植関係者との連携を密にし、医師が脳死判定を行おうとする場合における所轄警察署長への連絡(当該判定の対象者が確実に診断された内因性疾患により脳死状態にあることが明らかである者を除く。)が速やかになされるよう要請しておくこと。
2 医師の協力の確保
平素から脳死判定が行われる医療機関との連携を密にし、脳死した者の身体に対する検視等に支障を生ずることなく、臓器移植を円滑に実施するため、速やかかつ適正にこれを行うために必要な事項についてあらかじめ説明し、医師の協力が得られるよう要請しておくこと。
3 検視等の場所の確保
平素から脳死判定が行われる医療機関と十分な打ち合わせを行い、検視等の業務に支障が生ずることのないよう、検視等を行うための適切な場所を確保できるようにしておくこと。
第7 検察官との連携
署長は、犯罪捜査に関する活動に支障を生ずることなく臓器の移植が円滑に実施されるよう、法第6条第2項の判定に係る医師からの連絡を受けた場合には速やかにその旨を検察官に連絡するなど、検察官と相互に協力すること。
第8 刑事部門と交通部門の連携
1 事務分担
脳死した者の身体に対する検視及び捜査については、当該脳死の原因である事件、事故を所管する部門においてこれを取り扱うこと。
なお、検視等の犯罪捜査に関する手続が終了した旨の医師への連絡については、検視官が行うこと。
2 両部門の連携
医師からの連絡受理や対応等、医師、医療機関との窓口業務は、事件、事故の所管に応じ刑事部門及び交通部門がそれぞれ行うものとし、刑事部門と交通部門とは相互に連携すること。
3 検視官の臨場
脳死した者の身体に対する検視等を行う場合には、検視官が臨場すること。
なお、この場合にあっては、検視官及び交通事故事件捜査統括官は、緊密に連携すること。
第9 検視等に係る都道府県警察間の協力
脳死判定の対象者がその原因となった事案の発生地から極めて遠く離れた医療機関に収容されたことにより、調査又は捜査を行う場所と脳死した者の身体に対する検視等を行う場所とが複数の都道府県間にまたがることとなる場合には、県本部主管課長に速報の上、主管課は関係都道府県警察と緊密に連携し、事案に応じ脳死判定前の調査又は捜査、検視の依頼等必要な共助を関係都道府県警察に依頼すること。
特に、他の都道府県警察に検視を依頼する場合においては、事案に係る情報の引継ぎ等を確実に行うこと。
第10 県本部への報告
臓器摘出のため脳死判定が行われる事案を認知した署長は、速やかに別記様式により県本部主管課へ報告し、以後、状況に応じて追加報告すること。
第11 虐待が行われた疑いがある児童の取扱いに係る留意事項
脳死判定を行う医療機関において、患者である児童について虐待が行われた疑いがあると判断した場合には、警察署へ連絡がなされることとされていることなどから、このような連絡を受けた場合は、刑事部門と少年部門は緊密な連携を図り、必要な調査又は捜査を行うこと。
報告様式
略