○銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律の施行に伴う運用上の留意事項等について(依命通達)
令和6年7月18日
達(生企、生環)第379号
[原議保存期間 5年(令和12年3月31日まで)]
[有効期間 令和12年3月31日まで]
本年6月14日に公布された銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律(令和6年法律第48号。以下「改正法」という。)については、一部の改正規定(改正法第1条関係)が令和6年7月14日から施行された。
また、改正法の施行に伴い、銃砲刀剣類所持等取締法施行令の一部を改正する政令(令和6年政令第240号。以下「改正令」という。)、銃砲刀剣類所持等取締法施行規則の一部を改正する内閣府令(令和6年内閣府令第63号。以下「改正府令」という。)、技能検定、技能講習及び射撃教習に関する規則等の一部を改正する規則(令和6年国家公安委員会規則第10号)及び銃砲刀剣類所持等取締法施行令第二条第二号の銃砲の範囲を定める命令の一部を改正する命令(令和6年内閣府・文部科学省令第2号)が令和6年6月28日に公布され、令和6年7月14日から施行された。
今回施行される改正規定は、公共の空間における発射罪の対象への拳銃等以外の銃砲等の追加に関する規定、拳銃等以外の銃砲等の所持に関する罰則の強化に関する規定、銃砲等の所持のあおり又は唆しに関する罰則の整備に関する規定に関するものであり、その趣旨、内容及び留意事項は別紙のとおりであるので、改正規定が円滑に施行されるよう、事務処理上誤りのないようにされたい。
別紙
(凡例)
「法」:改正法第1条の規定による改正後の銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号)
「令」:改正令による改正後の銃砲刀剣類所持等取締法施行令(昭和33年政令第33号)
「府令」:改正府令による改正後の銃砲刀剣類所持等取締法施行規則(昭和33年総理府令第16号)
第1 公共の空間における発射罪の対象への拳銃等以外の銃砲等の追加に関する規定の整備(法第3条の13関係)
1 趣旨
公共の空間における発射罪は、不特定の者にいつ危害を受けるかもしれないという不安を感じさせ、公共の静穏を脅かすおそれのある行為を処罰するものであるところ、昨今、公共の空間において拳銃等以外の銃砲等が使用された、あるいは使用されかねなかった事案が発生していることを踏まえれば、こうしたおそれは、殺傷能力を有する銃砲等の発射であれば全て当てはまることから、公共の空間における発射罪の対象への拳銃等以外の銃砲等の追加に関する規定が整備された。
2 内容
(1) 改正法
何人も、法第3条の13各号のいずれかに該当する場合を除いては、道路、公園、駅、劇場、百貨店その他の不特定若しくは多数の者の用に供される場所若しくは電車、乗合自動車その他の不特定若しくは多数の者の用に供される乗物(以下「道路等」という。)に向かって、又は道路等において、拳銃等に加え、拳銃等以外の銃砲等を発射することが禁止された(法第3条の13)。
また、その法定刑については、法第31条の11第1項第3号イからハまでに掲げる場合を除き、拳銃等と同様、無期又は3年以上の有期懲役とし、法第31条の11第1項第3号イからハまでに掲げる場合については、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとされた(法第31条第1項及び第31条の11第1項第3号)。
(2) 改正令
法第3条の13各号には公共の空間における発射罪が適用されない場合が定められているところ、
○ 法第3条の13第4号には、法第4条第1項第1号の規定による狩猟又は有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃若しくは空気銃又はクロスボウの所持の許可を受けた者が、当該用途(有害鳥獣駆除の用途にあっては、政令で定める有害鳥獣駆除(特定有害鳥獣駆除)以外の有害鳥獣駆除(一般有害鳥獣駆除)の用途に限る。)に供するため、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)の規定によりこれらを使用して鳥獣の捕獲等をする場合が
○ 法第3条の13第5号及び第6号には、法第4条第1項第1号の規定による有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃若しくは空気銃又はクロスボウの所持許可を受けた者が、当該用途(有害鳥獣駆除の用途にあっては、特定有害鳥獣駆除の用途に限る。)に供するため、当該許可に係る猟銃若しくは空気銃又はクロスボウを使用する場合が
定められている。
改正令においては、この「政令で定める有害鳥獣駆除(特定有害鳥獣駆除)」として、「鳥獣保護管理法第9条第1項の規定による許可に基づく鳥獣の捕獲又は殺傷以外の有害鳥獣駆除」が定められた(令第1条)。この点、「鳥獣保護管理法第9条第1項の規定による許可に基づく鳥獣の捕獲又は殺傷以外の有害鳥獣駆除」とは、鳥獣の保護及び管理並びに適正化に関する法律第9条第1項の規定による許可に係る鳥獣の管理の目的でする鳥獣の捕獲等以外のもの、つまり、同法の規制の対象外である有害鳥獣駆除を意味する。
このほか、改正令においては、法第3条の13第5号の「道路等(射撃場を除く。)において銃砲を発射する必要がある産業」(特定銃砲使用産業)として建設業を(令第2条)、法第3条の13第6号の「道路等(クロスボウ射撃場を除く。)においてクロスボウを発射する必要がある産業として政令で定めるもの」(特定クロスボウ使用産業)として林業が定められた(令第3条)。また、法第31条の11第1項第3号ロの「法第4条第1項第2号の政令で定める銃砲のうち当該特定銃砲使用産業の用途に供するものとして政令で定めるもの」として建設用びょう打銃又は建設用綱索発射銃が定められた(令第47条)。
(3) 改正府令
ア クロスボウの射撃について危害予防上必要な措置が執られている場所
法第3条の13各号には公共の空間における発射罪が適用されない場合が定められているところ、法第3条の13第3号の規定には、クロスボウ射撃場(クロスボウの射撃について危害予防上必要な措置が執られている場所として内閣府令で定めるもの)においてクロスボウで射撃をする場合が定められている。
改正府令においては、この「クロスボウの射撃について危害予防上必要な措置が執られている場所として内閣府令で定めるもの」として、改正府令による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法施行規則第82条の4に定める場所に加え、適法にクロスボウを所持する主体によって適切に射撃の用に供されることが期待される場所が新たに規定された(府令第3条の4)。ただし、法第3条第1項第13号のクロスボウ製造事業者が業務のため、その所持(法第3条第3項の規定により、クロスボウ製造事業者の使用人が業務のため所持する場合を含む。)に係るクロスボウを用いて射撃を行う場合における射撃の用に供される場所については、その場所の所在地を管轄する都道府県公安委員会が危害予防上必要と認めて定める条件に適合するものに限ることとされた(府令第3条の4第2号柱書括弧書、同号ニ)。
イ 銃砲で射撃を行う施設
法第3条の13各号には公共の空間における発射罪が適用されない場合が定められているところ、法第3条の13第2号の規定には、指定射撃場、教習射撃場若しくは練習射撃場において、その指定射撃場、教習射撃場若しくは練習射撃場の指定に係る種類の銃砲で射撃をする場合のほか、銃砲で射撃を行う施設であって内閣府令で定めるものにおいて銃砲で射撃をする場合が定められている。
改正府令においては、この「銃砲で射撃を行う施設であって内閣府令で定めるもの」として、拳銃等以外の銃砲を適法に所持する主体によって適切に射撃の用に供されることが期待される施設が新たに規定された(府令第8条)。ただし、法第3条第1項第11号の捕鯨用標識銃等製造事業者が業務のため、その所持(法第3条第3項の規定により、捕鯨用標識銃等製造事業者の使用人が業務のため所持する場合を含む。)に係る銃砲を用いて射撃を行う場合における射撃の用に供される施設については、府令第3条の4第2号ニと同様の規定を設けることとされた(府令第8条柱書括弧書、同条第5号)。
3 留意点
(1) 公共の空間における発射罪と他の罪との関係
法第4条又は第6条の規定による許可を受けることなく銃砲等を違法に所持する者が、道路等に向かって、又は道路等において当該銃砲等を発射し、公共の空間における発射罪が成立する場合において、発射罪と所持罪は併合罪の関係となるものと考えられる。
また、法第4条又は第6条の規定による許可を受けた者であっても、公共の空間において銃砲等を発射をした場合は、発射の禁止の適用が除外される場合を除き、公共の空間における発射罪と発射制限違反(法第10条第2項)の両方が成立し得るところ、両者は観念的競合の関係となると考えられる。
(2) 府令第3条の4第2号ニ及び第8条第5号における「都道府県公安委員会が危害予防上必要と認めて定める条件」
上記2(3)のとおり、府令第3条の4第2号ニ及び第8条第5号に該当する場合について、その場所の所在地を管轄する都道府県公安委員会が危害予防上必要と認めて定める条件に適合する場所や施設に限って公共の空間における発射罪が適用されないこととなるところ、これは、クロスボウ製造事業者及び捕鯨用標識銃等製造事業者については、武器等製造法(昭和28年法律第145号)の規制に係らしめられている武器製造事業者や猟銃等製造事業者と異なり、特段の法令の規制に係らしめられていないことに鑑み、公共の空間たる場所や施設で射撃を行おうとする場合には、都道府県公安委員会が危害予防上必要と認めて定める条件に適合している場合に限り、射撃を認めることとされたものである。
この点、「都道府県公安委員会が危害予防上必要と認めて定める条件」としては、
○ 正当な権原に基づいて関係者以外の者が立ち入ることが禁止されていること
○ 標的の後方であって、矢又は弾丸の通常到達する場所に、当該矢又は弾丸の衝突による衝撃に耐えることができる材質のものでできているバックストップがあること
○ 発射された矢又は弾丸が頻繁に通過する部分に、電線等の架設物がないこと
といった、これらの事業者によって射撃の用に供される場所又は施設の周囲にいる者に発射された矢又は弾丸による危害が及ばないようにするため有効であると認められる措置が講じられるようにすることが想定されるところではあるが、クロスボウ製造事業者や捕鯨用標識銃等製造事業者の届出を受けた際に公共の空間たる場所や施設で射撃を行おうとしている場合には都道府県公安委員会が危害予防上必要と認めて定める条件に従う必要がある旨注意喚起を行うこと。
第2 拳銃等以外の銃砲等の所持に関する罰則の強化に関する規定の整備(法第31条の3関係)
1 趣旨
拳銃等以外の銃砲等について、所持罪の法定刑は拳銃等と比較して軽いものとされてきたが、拳銃等以外の銃砲等であっても、人の生命、身体又は財産を害する目的で不法所持された場合には、悪用される蓋然性が高く、危害予防上の観点から対策を行う必要性が高いことから、当該目的で拳銃等以外の銃砲等を所持した罪の罰則の強化に関する規定が整備された。
2 内容
人の生命、身体又は財産を害する目的で法第3条第1項の規定に違反して拳銃等以外の銃砲等を所持したときは、当該違反行為をした者は、1年以上10年以下の懲役に処することとされた。また、この場合において、拳銃等及び拳銃等以外の銃砲等の合計数が2以上であるときには、1年以上15年以下の懲役に処することとされた。
3 留意点
「人の生命、身体又は財産を害する目的で法第3条第1項の規定に違反して拳銃等以外の銃砲等を所持したとき」とは、拳銃等以外の銃砲等を使用して人の生命、身体又は財産を害することを目的として不法所持する行為を意味する。
この点、銃砲刀剣類等を使用してする違法な行為(法第5条の2第2項第3号参照)とは、銃砲刀剣類等を一般的な方法により手段として用いる場合をいい、銃砲等であれば、実際に発砲することまでは必要ではなく、銃砲等をちらつかせて恐喝行為をするような場合も当たると解されてきたことに鑑みれば、本罪についても、個別具体の事案の中で判断されるものではあるものの、例えば、
○ 殺人、強盗等の人の生命、身体又は財産を害する犯罪で拳銃等以外の銃砲等が実際に発砲された場合
はもとより、
○ 拳銃等以外の銃砲等を携えて被害者宅に押し入り、「痛い目に遭わせてやる」などと言って被害者を探し歩く場合
○ 「痛い目に遭わせてやる」などと言って鞄に入れていた拳銃等以外の銃砲等を取り出そうとしたが、被害者が逃走したため、鞄から当該銃砲等を取り出すに至らなかった場合
は、拳銃等以外の銃砲等を使用して人の生命、身体又は財産を害する行為であると評価することができ、そのような場面における所持行為は本罪にいう「人の生命、身体又は財産を害する目的で法第3条第1項の規定に違反して拳銃等以外の銃砲等を所持したとき」に該当し得るものと考えられる。
また、拳銃等以外の銃砲等を現に使用に供している状況が認められない場合であっても、個別具体の事案の中で判断されるものではあるものの、
○ 銃砲等を自作するために必要な部品の購入情報等を基に捜索差押えを行った結果、拳銃等以外の自作の銃砲等を発見するとともに、ある人物に対する襲撃事件を計画していたことや、その予行練習を行っていたことが判明した場合
には、本罪に該当し得るところ、様々な証拠資料から当該銃砲等を所持した経緯及び目的を明らかにすることで、当該目的を立証していくこととなる。
第3 銃砲等の所持のあおり又は唆しに関する罰則の整備(法第32条第7号関係)
1 趣旨
昨今、インターネット上には、銃砲等に関する情報が氾濫しており、銃砲等に関する情報を容易に入手し、容易かつ短期間で銃砲等を所持できる状況となっていることを踏まえ、銃砲等の違法な所持、ひいては違法に所持された銃砲等の悪用に至る危険性を高めるような行為自体を処罰する必要があることから、銃砲等の所持のあおり又は唆しに関する罰則の整備に関する規定が整備された。
2 内容
法第31条の3の罪に当たる行為を、公然、あおり、又は唆す行為をしたときは、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処することとされた。
3 留意点
「法第31条の3の罪に当たる行為」とは、拳銃等を所持した罪に当たる行為又は人の生命、身体若しくは財産を害する目的で拳銃等以外の銃砲等を所持した罪に当たる行為をいう。
「公然」とは、不特定又は多数人が覚知し得べき状態をいい、「あおり」又は「唆す」行為のいずれも「公然」と行われる必要がある。
「あおり」とは、その行為が、人に対して、法第31条の3の罪に当たる行為の決意を生ぜしめ、又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えるものを、「唆す」とは、人に対して、法第31条の3の罪に当たる行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をいう。
なお、本罪は、あおり、又は唆す行為によって実際に犯罪の実行行為がなされたことを要しないため、飽くまでもあおり、又は唆す行為それ自体について、その内容や客観的状況、当該行為を行った者の認識等から、客観的に該当性を立証することになる点に留意すること。
4 その他
ある行為が本罪により処罰されるか否かについては、個別具体の事案ごとに判断することになるが、本罪の典型的な事例としては、
○ インターネット上に、拳銃の自作方法を解説した動画や不法所持を呼びかけるメッセージを投稿する
○ インターネット上に、拳銃を販売する旨、価格や売主の連絡先を投稿する
○ インターネット上に、空気銃の自作方法を解説した動画や不法所持した空気銃により人を殺傷することを呼びかけるメッセージを投稿する
○ インターネット上に、自作した空気銃を販売する旨、価格や売主の連絡先や、不法所持した空気銃により店舗を強盗することを呼びかけるコメントを投稿する
といったものが想定される一方、
○ 銃の仕組みや構造について学術的な観点から解説するにとどまるものなど、およそ人に対して拳銃等の不法所持の決意を生ぜしめることがない内容のものであり、発信側の主観において明らかにあおり又は唆しの犯意がないもの
といったものについては、本罪の対象とならないものと考えられる。
第4 本部への報告等
今回施行される改正規定に係る事件を認知した場合には、銃砲等及び火薬類に係る関係統計等の報告について(令和5年11月6日付け達(生企)第395号)に基づき、速やかに事案の概要等を報告すること。
なお、特に、凶悪事件での拳銃等以外の銃砲等の悪用防止を図るために設けられた、公共の空間における発射罪への拳銃等以外の銃砲等の追加に関する規定や、発信側の主観において明らかにあおり又は唆しの犯意がないものについてはその対象とならないと考えられる、銃砲等の所持のあおり・唆しに関する罰則の適用に当たっては、より慎重な判断を要することから、事件を認知した場合には、確実に事案の概要等を報告すること。
第5 その他
1 関係部門間の連携の徹底
今回施行される改正規定は、特定のテロ組織等と関わりのない過激化した個人、いわゆるローン・オフェンダーその他不特定多数の者に危害を加えるおそれのある者等による銃砲等の悪用防止に当たっても活用可能な規定であることから、その取締りに当たっては、生活安全部門のみならず、関係部門間の連携を図ること。
2 いわゆるハーフライフル銃の所持許可申請への対応
改正法のうち公布の日から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される規定(改正法第2条関係)の具体的な施行日や運用上の留意事項等については改めて示すこととしているが、いわゆるハーフライフル銃のうち、法第5条の2第4項の規定が適用されないものは、改正法第2条の規定が施行される時点で所持許可がなされているものであり、所持許可申請がなされているものではない点に留意すること。
そのため、改正法第2条の規定が施行される前に、ハーフライフル銃の所持許可申請がなされた場合には、所持許可申請がなされた時点で、定められた具体的な処理期間を踏まえ、
○ 改正法第2条の規定が施行されるまでの間に当該申請に対する処分をすることが見込まれない場合は、法第5条の2第4項に該当することが必要となることを丁寧に説明し、トラブルの防止に努める
こととする一方、
○ 改正法第2条の規定が施行されるまで間に当該申請に対する処分をすることが見込まれる場合は、欠格事由の有無を確認するための調査を十分に行いつつ、処理期間内に適切に所持許可手続が行われるよう配意する
こと。
なお、所持許可申請がなされた時点で、改正法第2条の規定が施行されるまでの間に当該申請に対する処分をすることが見込まれた場合であっても、合理的な理由に基づき処理期間内に当該申請に対する処分を行うことができず、結果として、法第5条の2第4項に該当することが必要となったとしても問題はないが、その場合、当該合理的な理由を丁寧に説明し、トラブルの防止に努めること。