○恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対処の徹底について(通達)
令和6年7月23日
達(少対、県サ、刑総、捜一)第383号
[原議保存期間 5年(令和12年3月31日まで)]
[有効期間 令和12年3月31日まで]
対号 令和6年7月23日付け達(少対、県サ、刑総、捜一)第382号「人身安全関連事案への対処体制等について」
みだしのことについては、次のとおり定め、令和6年7月23日から施行することとしたので、適切な対応に万全を期されたい。
なお、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対処の徹底について(令和4年3月11日付け達(少対、県サ、刑総、捜一)第119号)は、廃止する。
記
1 趣旨
ストーカー事案や配偶者からの暴力事案等をはじめとする恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、加害者が被害者やその親族等(以下「被害者等」という。)に対して危害意識を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいものであることから、この種事案の対処に当たっては、対号通達に基づく対処のほか、本通達により迅速かつ的確な対処の徹底を図るものである。
2 組織的かつ継続的な対処の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいこと等の特徴があることを十分理解した上で、この種事案への対処に当たっては、被害者等の安全の確保を最優先に、刑罰法令を駆使した加害者の検挙等による加害行為の阻止、一時避難等による被害者等の保護措置等、組織的かつ継続的な対処を徹底すること。
3 本部対処体制における対処
(1) 本部対処体制における指導等
本部対処体制(対号通達4(1)の「本部対処体制」をいう。以下同じ。)は、署から速報のあった事案について、必要に応じて県本部の関係課と連携の上、署長による事案の認定及び危険性・切迫性の評価、対処方針及び署対処体制(対号通達4(2)の「署における対処体制」をいう。以下同じ。)の決定並びにその後の継続的な管理状況等について、署に対し指導・助言を行うとともに、事案に応じて現場支援班の派遣等必要な支援を行うこと。
また、署において、相談に係る行為が刑罰法令に抵触すると認められるにもかかわらず事件化しないこととする場合には、その対処の適否を判断し、必要な措置が執られていないと認めるときには、当該署に対して速やかに指導すること。
さらに、署から速報のあった事案については、本部対処体制において、報告受理の都度、各種照会業務により照会を行い、当該加害者に係る過去の取扱状況や、加害者が他の都道府県において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の当事者となっていないか確認すること。
(2) 関係場所が複数の都道府県にわたる事案への対処
ア 事案認知時の対応
認知した恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に関係する場所が複数の都道府県にわたるものについては、関係都道府県警察が連携を密にして確実に情報を共有すること。この場合において、当該事案の対処に当たってストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「ストーカー規制法」という。)等に基づく行政措置を講じる必要性を認めるときには、関係する都道府県警察と協議の上、当該措置の実施に向けた調整を主導的に行う主管となる警察本部(警視庁及び道府県警察本部をいう。以下同じ。)を決定すること。
イ 連絡担当者の指定
関係都道府県警察との情報共有は、県本部少年女性安全対策課の警部の階級にある警察官を連絡担当者に指定し、原則として緊急時も含め当該連絡担当者が行うこととする。
連絡担当者は、関係する警察本部との密接な連絡体制を維持するものとし、事案に係る関連情報を認知した場合は、他の関係する警察本部の連絡担当者全員に対し、即時にその旨を連絡すること。また、他の警察本部から連絡を受けた場合は、関係署において即応態勢を確立するなどにより対処できるよう措置を講じること。
ウ 被害者等の立場に立った対応
本部対処体制において、継続的に対処している事案の被害者等が県外に転居したとの情報又は他の都道府県警察で対処している事案の被害者等が転居してきたとの情報を把握した場合は、当該被害者等の求めに応じた切れ目のない保護措置が講じられるよう、関係警察本部との情報共有を徹底するとともに、関係都道府県警察と連携して被害者等の保護措置に当たること。
ストーカー規制法の警告等については、これらに係る申出をした者の住所若しくは居所若しくは行為者の住所等の所在地又は当該行為が行われた地を管轄する警察本部長等又は公安委員会が行うこととされている(同法第14条)ところ、警告等の申出があった場合には、申出人の保護に最も資するのはどこかという観点から、警告等の主体を決定すること。
被害届の受理に関しては、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第61条において、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず受理しなければならないとされているところ、被害の届出の申出を受けた場合は、被害者の便宜を十分に考慮し、関係都道府県警察と相互に連絡するなどして適切に対処すること。
4 署における対処
(1) 相談等への対応
ア 生活安全部門と刑事部門の連携
対号通達5(5)において、人身安全関連事案に係る相談等への対応に当たり、生活安全部門の担当者と刑事部門の担当者が共同で聴取を行うこととしている。したがって、より的確な判断に資するため、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談等について、その内容や相談等に至る経緯等からみて明らかに刑罰法令に抵触せず事件性が認められない場合、危険性・切迫性が認められない場合等を除き、原則として、両部門の担当者が共同で聴取を行うこと。
なお、共同で聴取した結果、その時点では事件性等が認められず生活安全部門において継続的に相談を受けることとなった事案及び生活安全部門において事件化することとした事案についても、刑事部門の担当者は、生活安全部門の担当者からの要請に基づき、引き続き共同で相談等の対応に当たること。
イ 制度等の教示
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の相談等への対応に当たっては、別に定める意思決定支援手続に基づき、可能な限り早期に、被害者に対し、執り得る刑事手続及び証拠の確保のために必要な事項並びにストーカー規制法又は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)に基づき執り得る措置について、それぞれの要件とその効果等を確実に説明し、積極的な意思決定を支援するとともに、有事の際に110番通報すべき旨や自衛手段を教示すること。
ウ 被害者の親族等との協力等
被害者の中には、被害の届出をするか否かを決めあぐねる者が見受けられることから、可能な限り、親族等の協力を得て被害者に被害の届出を促すとともに、加害者の行為が被害者の親族等にまで及ぶ可能性もあることから、その親族等に対し、警察の執り得る保護を含めた措置と被害防止上の注意事項を教示すること。
(2) 署長及び本部対処体制への速報
署において恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を認知した場合及び危険事象(対号通達5(1)の「危険事象」をいう。)を認知した場合には、その全てについて、署長に速報するとともに、並行して、本部対処体制に速報すること。
なお、例えば、元交際相手との金銭貸借をめぐるトラブルのように、直ちに恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案であると認定することが困難な事案も含まれることに十分留意し、署長及び本部対処体制への報告は幅広に行うこと。
(3) 署長による指揮
ア 組織的な対処の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談等については、加害者の検挙措置等と被害者等の保護措置等を並行して実施する必要性が高い場合が多いことから、署長以下の幹部が相談事案に関する情報を共有し、被害者にとって最も適切な解決策を講じる必要がある。
したがって、上記(2)の速報を受けた署長は、事案の内容を正確かつ詳細に把握した上で、対号通達4(2)により、あらかじめ指定している統括責任者のほか、必要と認める課長等の補佐を受けるとともに、本部対処体制の指導・助言を受けて、速やかに当該事案の対処方針及び署対処体制を決定すること。
対処方針及び署対処体制を決定した際は、本部対処体制に報告するとともに、その後も、対処の経過を本部対処体制に随時報告し、署対処体制を見直した場合には、新旧の担当者間で当該事案に関する情報を確実に引き継ぐよう指示すること。
イ 危険性・切迫性の評価と即応態勢の確立
当該事案の危険性・切迫性の評価及び事件性の的確な判断に当たっては、被害者等から加害者の具体的言動等を十分に引き出すとともに、危険性判断チェック票を活用するなどにより、組織的に実施すること。特に、
(ア) 加害者において、被害者等又は自己の生命・身体に対する危害言動がある。
(イ) 加害者において、被害者等へ物理的に接近しようとする行為がある。
(ウ) 加害者の居所が定まらず、又は所在不明である。
(エ) 加害者について、過去に粗暴犯や凶悪犯の犯罪歴や110番通報等による取扱いがある。
(オ) 近隣住民その他関係者等から、上記(ア)から(ウ)までのような内容の相談が複数にわたりなされている。
等の危険事象を認知した場合には、署長は即応態勢を確立し、本部対処体制と連携しながら対処すること。また、複数にわたる相談等がある事案については、個々の相談等ではなく、事案の全体像を俯瞰的に捉えて危険性・切迫性を評価すること。
ウ 事件化の判断等
相談事案に係る行為が刑罰法令に抵触するにもかかわらず、被害者等に被害の届出の意思がない場合、これをそのまま受け入れるのではなく、事件化を図らない場合に起こり得る事態について、被害者等に対して十分に説明した上で、被害者等に被害の届出の働き掛け及び説得を行い、説得等にもかかわらず被害の届出をしない場合であっても、警察に相談をするに至っているという事情を十分酌み取り、事案の危険性・切迫性を見極めること。署長は、担当者が被害者に被害の届出の意思がなく事件化を図らないと判断した場合には、更に慎重な検討を加え、事案を見極め事件化の要否を判断すること。
なお、被害者等の真意を酌み取り、より正確に当該事案の危険性・切迫性を評価するため、相談場所、対応者、同伴者を同席させるかどうかなどの対応方法等に十分配意し、被害者等がより相談しやすい環境を確保すること。
(4) 被害者等の保護措置
ア 保護措置の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対処に当たっては、事案を認知した段階から終結に至るまで、その危険性・切迫性を正確に評価し、被害者等の生命・身体の安全の確保のための措置を最優先に講じる必要がある。
したがって、危険事象を認知した場合には、被害者等を帰宅させることなく、安全な場所へ速やかに避難させることとし、やむを得ない事情があり避難させられない場合には、被害者等の身辺の警戒等の措置を確実に行うこと。また、危険性・切迫性が高いことを否定できないとき又は判断できないときについても、危険性・切迫性が高いものとみなして、同様に対処すること。
あわせて、被害者等の避難措置を円滑に行うため、当直時間帯においても、一時避難等安全確保のための措置が適切に執られるよう、平素より関係機関・団体と緊密な協力関係を確立しておくとともに、被害者等の一時避難等に係る公費負担制度の積極的な活用、避難措置及び身辺警戒の実施のほか、110番通信指令システムへの登録、ビデオカメラや緊急通報装置等の資機材の積極的な活用等、できる限りの保護措置を講じること。
イ 加害者に対する指導・警告等の実施
刑事事件として立件が困難と認められる場合であっても、被害者等に危害が及ぶおそれがある事案については、速やかに加害者を呼び出し、又は必要に応じて担当者が赴くなどして、事情聴取や指導・警告を行うこと。その際には、加害者の言い分に耳を傾けつつ、加害行為をしていることの自覚を促すなど、沈静化を図る観点からの対応にも配意すること。
なお、加害者への対応に当たる際には、被害者等の安全が確保されているかを常に念頭に置くこと。特に、加害者への接触の時期や方法については、加害者の性格、加害者と被害者等とのこれまでのやりとりや接触状況等を踏まえつつ、加害者が警察の関与に対し反発や逆上するおそれを十分に考慮し、加害者の現状を可能な限り把握した上で決定すること。
また、相談事案について事件化し、又は加害者に対する警告等を行った後は、加害者の再犯性や報復のおそれの有無等を考慮し、再被害防止対象者に指定するなど、被害者等の保護措置の万全を図ること。
(5) 各種照会等の実施
署長は、各種照会を行わせるなどして、当該事案の当事者に係る過去の取扱状況や、加害者が他の都道府県において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の当事者となっていないか等について、確実に確認すること。
(6) 夜間の当直体制時や交番・駐在所における相談受理時の措置
夜間の当直体制時や交番・駐在所において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談等を受理した場合でも、当該相談等を取り扱った担当者は、署長及び本部対処体制に速報し、必要な指揮等を受けること。また、署長の指揮等を受けるいとまがなく緊急の措置を執る必要があると認められるときは、当該措置を執った上で、実施した措置について速やかに報告し、必要な指揮等を受けること。
5 関係機関との連携
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る危険事象をいち早く認知し、被害の未然防止・拡大防止を図るため、関係行政機関、民間団体、学校等と緊密な連携を確保すること。
6 教養の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、相談窓口のみならず、110番通報や被害届の受理といった種々の警察活動の過程で認知し、対応する可能性があることから、全ての職員に対して、本通達及び対号通達に記載の事項についての教養を実施すること。特に当直責任者に対しては、署長及び本部対処体制への速報要領等に関する教養を徹底すること。