○私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律の運用上の留意事項等について(通達)
令和7年6月10日
達(少対、刑総、捜一、サ対)第312号
[原議保存期間 5年(令和13年3月31日まで)]
[有効期間 令和13年3月31日まで]
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成26年法律第126号。以下「法」という。)の運用については、次の点に留意し、積極的に取組を推進されたい。
なお、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律の運用上の留意事項等について(令和2年3月19日付け達(生企、少、生環、刑総、捜一)第139号)は、廃止する。
記
1 法の要点等
(1) 目的(第1条関係)
本法は、交際中に撮影した元交際相手の性的画像等をその撮影対象者の同意なく、インターネットを通じるなどして公表する行為により、被害者が長期にわたり多大な精神的苦痛を感じる事案が多数生じているという実情に鑑み、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止するため、私事性的画像記録の提供等を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって名誉又は私生活の平穏の侵害があった場合における特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号。以下「プロバイダ責任制限法」という。)の特例及び当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めるものである。
(2) 定義(第2条関係)
ア 私事性的画像記録
法において、「私事性的画像記録」とは、
① 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
② 他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
③ 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
のいずれかを撮影した画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影したものを除く。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録をいう。
「撮影対象者において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影したものを除く。」とは、第三者に公開することを前提として、撮影に応じたものや自ら撮影したものについては、これが第三者に提供等されたとしても、性的名誉及び性的プライバシーの侵害があったとは評価できないことから、こうしたものを除く趣旨である。これにより、例えば、誰にも見せない約束で撮影を許可した画像、交際相手だけに見せるつもりで自ら撮影した画像、交際相手に隠し撮りされた画像、第三者による盗撮画像等であって前記①から③までのいずれかの人の姿態が撮影されたものは、私事性的画像記録に該当し、法の保護対象となり得るが、アダルトビデオ、グラビア写真等、商業目的で作成された画像や第三者に見られることを認識して撮影を許可した画像、自ら撮影した画像等は、保護対象とはならないと考えられる。
なお、前記①から③の人の姿態は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項の「児童ポルノ」の定義を参考としているが、年齢要件は設けられていない。
イ 私事性的画像記録物
法において「私事性的画像記録物」とは、「写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」であって、アの①から③までのいずれかに掲げる人の姿態を撮影した画像を記録したものをいう。例えば、例示されている写真のほか、CD-ROM、USBメモリ等の電子データを記録した有体物がこれに該当すると考えられる。また、「その他の物」とは、例示されている写真に類する様々な物をいい、例えばアナログ方式のビデオテープ等が考えられる。
(3) 罰則(第3条関係)
ア 公表罪
(ア) 私事性的画像記録の公表罪
第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(イ) 私事性的画像記録物の公表罪
(ア)の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、(ア)と同様とする。
「第三者」とは、撮影対象者、撮影をした者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者をいう。また、「撮影対象者を特定することができる方法で」とは、撮影対象者の容貌や身体的特徴、背景として写っている部屋の状況など、公表された画像自体から特定可能な場合のほか、添えられた文言から特定可能な場合、同文言以外の部分から特定可能な場合を含むと考えられる。
イ 公表目的提供罪
アの(ア)又は(イ)の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
公表目的での提供行為は、公表の前段階の行為であるが、公表させる目的で提供した場合には、提供を受けた者がいつでも公表行為を行うことが可能な状態で提供されることが通常であり、撮影対象者に重大かつ回復困難な被害が生ずる現実的危険性が高いことなどから、処罰対象とされているものと考えられる。
ウ 親告罪
ア及びイの罪は、公訴が提起された場合は、更に被害者の性的プライバシーを害するおそれがあることから、告訴がなければ公訴を提起することができない。
エ 国民の国外犯
ア及びイの罪は、国民の国外犯を処罰する。
(4) プロバイダ責任制限法の特例(第4条関係)
私事性的画像記録がインターネットを通じて提供されると、その拡散は早く、被害者に重大かつ回復困難な被害が生じるおそれがあり、その記録の削除の緊急性が高いことに鑑み、プロバイダ等が私事性的画像記録について送信防止措置を講じた場合、発信者に生じた損害について当該プロバイダ等の賠償責任を免じる旨の特例措置を規定している。
すなわち、本特例は、プロバイダ等が、特定電気通信による情報の流通によって自己の名誉又は私生活の平穏を侵害されたとする者から送信防止措置を講ずるよう申出を受けて、送信防止措置に同意するか否かを発信者に照会し、当該照会を受けた日から2日を経過しても、発信者から同意しない旨の申出がない場合、必要な限度において当該情報の送信防止措置を講じても、当該プロバイダ等は損害賠償責任を問われない。また、送信防止措置の申出主体としては、撮影対象者本人に加え、撮影対象者が死亡している場合は、一定の者(その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)が申し出ることも認められている。
(5) 支援体制の整備等(第5条関係)
国及び地方公共団体は、私事性的画像記録の提供等による被害者の適切かつ迅速な保護及びその負担の軽減に資するよう、被害者が当該犯罪事実の届出を行いやすくするために必要な捜査機関における体制充実、私事性的画像侵害情報送信防止措置の申出先等に係る広報活動等の充実、被害者に関する各般の問題について一元的にその相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置を講ずる旨を規定している。
「一元的にその相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」とは、必ずしも、現存する複数の機関の相談窓口を一つの機関に集約するという趣旨ではなく、被害者がいずれの窓口にアクセスしたとしても、最も適切な関係機関からの援助を受けられるよう、相談を受け付けた機関が、相談者を相談内容に応じて最も適切な関係機関等に確実に引き継ぐことを期待するものと考えられる。
(6) 被害の発生を未然に防止するための教育及び啓発(第6条関係)
国及び地方公共団体は、私事性的画像記録及び私事性的画像記録物(以下「私事性的画像記録等」という。)が拡散した場合は、その被害の回復を図ることが著しく困難となることに鑑み、学校をはじめ、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、自己に係る私事性的画像記録等に係る姿態の撮影をさせないこと、自ら記録した自己に係る私事性的画像記録等を他人に提供しないこと、これらの撮影、提供等の要求をしないこと等、私事性的画像記録の提供等による被害の発生を未然に防止するために必要な事項に関する国民の十分な理解と関心を深めるために必要な教育活動及び啓発活動の充実を図る旨を規定している。
2 運用上の留意事項
(1) 恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案としての対応
私事性的画像記録等の公表等に係る事案は、ストーカー事案をはじめとする恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案が背景にあることも考えられるところ、相談や被害の届出を受理した際は、関係者から事案の内容等を十分聴取の上、人身安全関連事案への対処体制等について(令和6年7月12日付け達(少対、県サ、刑総、捜一)第382号)等に基づき、被害者の安全確保を最優先とした対処を徹底すること。
(2) 公表された私事性的画像記録の削除
私事性的画像記録がインターネットを通じて公表された場合の被害者の要望は、まずもって当該画像の削除である場合が多いと考えられることから、警察としても、被害の継続・拡大を防止するため、私事性的画像記録に係る相談を受理した場合は、捜査上の支障等がない限り、速やかに、当該画像の削除申出方法等を教示し、警察が直接削除依頼を行うことが適当と認められる場合は、サイト管理者等に対する迅速な削除依頼を実施するなど、当該画像の流通・閲覧防止のための措置を執ること。
なお、削除依頼を実施した場合は、インターネット上の違法情報及び有害情報に関する削除依頼実施要領について(令和7年4月8日付け達(サ対、刑総、公)第205号)に基づき、その状況について、サイバー犯罪対策課生活安全部参事官(サイバーセキュリティ担当)に報告すること。
(3) 公表罪等の取締り
ア 的確な捜査運営
私事性的画像記録等の公表等に係る事案については、私事性的画像記録等の公表は被害者に重大かつ回復困難な被害が生じることから、被害者の要望を十分踏まえつつ、厳正な捜査を行うこと。特に、私事性的画像記録を公表する行為はインターネットを通じて行われる場合が多いと考えられることから、事件主管課においては、捜査の初期段階からサイバー犯罪捜査部門や情報通信部門と連携して的確な捜査を推進すること。また、広域的な捜査が必要となると考えられる場合は、効率的な捜査を実施するため、関係都道府県警察による合同・共同捜査を積極的に推進すること。
イ 関係事業者に対する刑事責任の追及
インターネットを利用した私事性的画像記録等の公表等に係る事案の捜査においては、私事性的画像記録の公表等に利用されるサイト管理者やサーバー管理者に対する指導を徹底するとともに、当該行為への関与が疑われる悪質な事業者に対しては、共同正犯、幇助犯等の適用を視野に入れた積極的な捜査を行い、その刑事責任を追及すること。
ウ 被害拡大防止のための措置
私事性的画像記録等の公表等に係る事案については、被害拡大を防止するための措置が必須であり、加害者から私事性的画像記録等を漏れなく押収し、加害者の手元に当該私事性的画像記録等が残らないよう適切な措置を講ずる必要がある。
この点、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和5年法律第67号)は、第10条及び第11条において、検察官の権限として、その保管している押収物が、前記1の(3)ア及びイに規定する行為を組成し、若しくは当該行為の用に供した私事性的画像記録が記録されている物若しくは当該行為を組成し、若しくは当該行為の用に供した私事性的画像記録物又はこれらを複写した物である場合、当該押収物に記録されている私事性的画像記録に係る電磁的記録等を全て消去等する措置を執ることができる旨規定していることから、これらの規定を念頭に、押収した証拠物件を精査し、私事性的画像記録等の記録状況等を明らかにした上で、当該証拠物件を送致すること。
(4) 支援体制の整備等
ア 警察の相談窓口に対する周知徹底
私事性的画像記録等の公表等に係る事案の相談については、県本部及び署に設置している総合的な相談窓口のほか、いじめ110番、サイバー事案に関する相談窓口、性犯罪被害110番等の個別の相談窓口でも受ける可能性があることから、各相談窓口において相談対応に従事する職員に対して、処罰規定の内容、捜査における配慮、送信防止措置の内容等について確実に周知徹底を図ること。
イ 告訴受理体制の整備等
告訴の受理については、福島県警察告訴・告発センター運用要綱の制定について(平成25年2月26日付け達(刑総)第47号)等により、県本部及び署において、迅速・的確に対応するための体制を整備していることから、私事性的画像記録等の公表等に係る告訴相談がなされた場合、関係者等からの聴取、告訴の受理・不受理の判断、捜査等を迅速に行うとともに、担当者に対して、本法規定の罰則や私事性的画像等の削除等による送信防止措置の内容等について周知徹底すること。
ウ 被害少年への対応における配意
被害者が少年である場合には、少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)第36条、被害少年の状況に応じた適切な保護活動の推進について(令和6年5月15日付け達(少対)第313号)及び児童の性的搾取等に係る対策の強化について(令和4年9月22日付け達(少対、生環)第417号)に基づき、指導・助言等の適切な支援を行うものとし、その精神的被害を回復するため特に必要と認められる場合は、保護者の同意を得た上で、継続的支援を行うこと。その際、臨床心理学の専門家等の部外専門家や、学校等の関係機関、ボランティア等と緊密に連携し、状況に応じたきめ細やかな活動の実施に努めるとともに、再被害及び被害拡大の防止に必要な措置、被害少年に関する情報の保護、事情聴取における被害少年への配慮すべき事項等に十分に留意すること。
(5) 関係機関との情報共有・連携強化
私事性的画像記録等の公表等に係る事案の相談への対応は、警察のほか、地方公共団体、学校等の教育関係機関、女性のための相談支援センター、被害者支援センター、日本司法支援センター(法テラス)等が考えられる。他機関において警察が対応すべき事案を認知した場合には速やかに警察への連絡がなされるよう、また、警察に相談があった場合で、警察以外の機関による対応が必要と認められる場合には当該機関へ迅速に引き継ぐことができるよう、平素から関係機関との連携の確保に努めること。
(6) 広報啓発活動及び被害防止教育の推進
私事性的画像記録等が拡散した場合においては、その被害の回復を図ることが著しく困難となることに鑑み、各種広報啓発活動を通じて、私事性的画像記録等の公表等に係る事案の現状・対策、早期相談の重要性、削除申出方法等、被害防止のための広報啓発活動をより一層推進すること。また、非行防止教室や地域・職域等を単位とした防犯教室等、様々な機会を捉え、私事性的画像記録等をめぐる情勢、具体的事例、対応方法等を適切に教示するなどにより、被害者にも加害者にもならないための教育活動を推進すること。
(7) いじめ問題としての対応
学校におけるいじめの態様として、携帯電話で児童生徒(以下「児童等」という。)の性器の写真を撮り、インターネット上のサイトに掲載するなどの行為が想定され得るところ、法により規制される私事性的画像記録の公表等が学校におけるいじめとして行われることも考えられる。このような場合には、学校におけるいじめ問題への的確な対応について(令和6年6月12日付け達(少対)第345号)に基づき、被害児童等又はその保護者が犯罪行為として取り扱うことを求めるか、その意向を確認し、学校等と緊密に連携しつつ、被害児童等の立場に立った捜査・調査活動を推進するなど、警察として的確な対応を行うこと。
(8) 指導・教養の徹底
私事性的画像記録等の公表等に係る事案の相談、画像の削除等に対応し得る関係部門に対しては、本法の目的、処罰規定、捜査要領等に関する指導・教養を徹底すること。また、本法の内容等について、あらゆる機会を活用して幅広く教養を行うこと。