○高齢者虐待事案への対応に係る留意事項について(依命通達)
令和8年1月9日
達(少対)第8号
[原議保存期間 5年(令和13年3月31日まで)]
[有効期間 令和13年3月31日まで]
対号 令和5年2月28日付け達(少対、県サ、地企、刑総、捜一)第60号「高齢者虐待事案への適切な対応について」
みだしのことについては、令和8年1月9日から実施することとしたので、適正な運用に努められたい。
記
1 趣旨
高齢者虐待事案については、対号通達により対応しているところ、その対応にかかる留意事項について、次のとおりとし、高齢者虐待事案について適切な対応を図ろうとするものである。
2 養護者による高齢者虐待
養護者による高齢者虐待類型については、身体的虐待、介護・世話の放棄・放任、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待に分類され、その具体的な例については、別添「養護者による高齢者虐待類型(例)」を参考にすること。
なお、養護者に該当しない場合(養護、被養護の関係にない65歳以上の夫婦間での暴力等)は、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号。以下「高齢者虐待防止法」という。)の直接の対象とならず、事案に応じて、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)や刑法(明治40年法律第45号)等により対応すること。
3 市町村への情報提供
上記養護者に該当しない場合は、高齢者虐待防止法に基づく通報の対象ではないものの必要に応じ市町村に対して、情報提供を行い関係機関との連携が図られるよう、適切に対応すること。
4 被害高齢者等への説明
被害高齢者等については、市町村へ通報又は情報提供を行うこと、自治体職員の訪問があることなどを説明し、高齢者への円滑かつ適切な支援が図られるよう配意すること。
なお、被害高齢者等に説明した場合は、高齢者虐待事案通報票の参考事項欄に説明状況を記載すること。
別添
◇養護者による高齢者虐待類型(例)◇
区分 | 具体的な例 |
i 身体的虐待 | ① 暴力的行為で、痛みを与えたり、身体にあざや外傷を与える行為。 ・平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。やけど、打撲をさせる。 ・刃物や器物で外傷を与える。 など ② 本人に向けられた危険な行為や身体に何らかの影響を与える行為。 ・本人に向けて物を壊したり、投げつけたりする。 ・本人に向けて刃物を近づけたり、振り回したりする。(※1) など ③ 本人の利益にならない強制による行為によって痛みを与えたり、代替方法があるにもかかわらず高齢者を乱暴に取り扱う行為。 ・医学的判断に基づかない痛みを伴うようなリハビリを強要する。 ・移動させるときに無理に引きずる。無理やり食事を口に入れる。 など ④ 本人の行動を制限したり、外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為。 ・身体を拘束し、自分で動くことを制限する(ベッドに縛り付ける。ベッドに柵を付ける。つなぎ服・ボディスーツを着せて自分で着脱できなくする。意図的に薬を過剰に服用させて動きを抑制する。)。 ・外から鍵をかけて閉じ込める。中から鍵をかけて長時間家の中に入れない。 など |
ii 介護・世話の放棄・放任 | ① 意図的であるか、結果的であるかを問わず、介護や生活の世話を行っている者が、その提供を放棄又は放任し、高齢者の生活環境や、高齢者自身の身体・精神的状態を悪化させていること。 ・入浴しておらず異臭がする、髪や爪が伸び放題だったり、皮膚や衣服、寝具が汚れている。 ・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、脱水症状や栄養失調の状態にある。 ・室内にごみを放置する、冷暖房を使わせないなど、劣悪な住環境の中で生活させる など ② 専門的診断や治療、ケアが必要にもかかわらず、高齢者が必要とする医療・介護保険サービスなどを、周囲が納得できる理由なく制限したり使わせない、放置する。 ・徘徊や病気の状態を放置する。 ・虐待対応従事者が、医療機関への受診や処方通りの服薬、専門的ケアが必要と説明しているにもかかわらず、無視する。 ・本来は入院や治療が必要にもかかわらず、強引に病院や施設等から連れ帰る。 など ③ 同居人等による高齢者虐待と同様の行為を放置する。 ・孫が高齢者に対して行う暴力や暴言行為を放置する。 ・孫が高齢者に無心して無理にお金を奪っているのを放置する。 など |
iii 心理的虐待 | ○ 脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせ等によって、精神的苦痛を与えること。 ・老化現象やそれに伴う言動などを嘲笑したり、それを人前で話すなどにより、高齢者に恥をかかせる(排泄の失敗、食べこぼしなど)。 ・怒鳴る、ののしる、悪口を言う。 ・侮蔑を込めて、子どものように扱う。 ・本人の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行う。 ・排泄交換や片づけをしやすいという目的で、本人の尊厳を無視してトイレに行けるのにおむつをあてたり、食事の全介助をする。 ・台所や洗濯機を使わせないなど、生活に必要な道具の使用を制限する。 ・家族や親族、友人等との団らんから排除する。 など |
iv 性的虐待 | ○ 本人への性的な行為の強要又は性的羞恥心を催すあらゆる形態の行為。 ・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する。 ・排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下半身を裸にしたり、下着のままで放置する。 ・人前で排泄行為をさせる、おむつ交換をする。 ・性器を写真に撮る、スケッチをする。 ・キス、性器への接触、セックスを強要する。 ・わいせつな映像や写真を見せる。 ・自慰行為を見せる。 など |
v 経済的虐待(※3) | ○ 本人の合意なしに(※2)、又は、判断能力の減退に乗じ、本人の金銭や財産を本人以外のために消費すること。あるいは、本人の生活に必要な金銭の使用や本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること。 ・日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない。 ・本人の自宅等を本人に無断で売却する。 ・年金や預貯金を自分の借金返済等のために無断で使用する。 ・入院や受診、介護保険サービスなどに必要な費用を滞納する。 ・世帯の生活が苦しいため、本人に必要な使用より、他の家族の使用を優先する。 ・施設入所しているのに本人の同意なく自宅の改造費に預金を使う。 など |
(※1) 「暴行とは人に向かって不法なる物理的勢力を発揮することで、その物理的力が人の身体に接触することは必要でない。例えば、人に向かって石を投げ又は棒を打ち下せば、仮に石や棒が相手方の身体に触れないでも暴行罪は成立する」(東京高裁判決昭和25年6月10日)。
上記判例のとおり、身体的虐待における暴力的行為とは、刑法上の「暴行」と同様、高齢者の身体に接触しなくても、高齢者に向かって危険な行為や身体になんらかの影響を与える行為があれば、身体的虐待と認定することができます。
(※2) 本人の合意の有無については、認知症などで金銭管理状況や使途について理解の上で同意する能力がない場合や、養護者又は親族との関係性・従属性や従来の世帯の状況から、異議を言えず半ば強要されている場合等がありますので、慎重な判断が必要です。
(※3) 経済的虐待については、養護者に該当しない親族による場合であっても「養護者による虐待」として判断し対応します。
参考:社団法人 日本社会福祉士会,市町村・地域包括支援センター・都道府県のための養護者による高齢者虐待対応の手引き,2011,p5-6.を基に作成。
出典:令和7年3月_厚生労働省老健局発出「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」から抜粋