○ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(依命通達)

令和8年3月23日

達(人少)第174号

各所属長 あて
(概要)
【凡例】
「法」:ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)
「令」:ストーカー行為等の規制等に関する法律施行令(平成12年政令第467号)
「規則」:ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則(平成12年国家公安委員会規則第18号
「意見聴取規則」:ストーカー行為等の規制等に関する法律の規定に基づく意見の聴取の実施に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第19号)
第1 法の目的(法第1条関係)
法は、「個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資すること」を目的としている。これは、ストーカー行為等が、その相手方に不安を覚えさせ、生活の安全と平穏を害する行為であるとともに、次第に行為が悪質化して凶悪犯罪にまで発展しかねないものであることを捉え、犯罪等の被害の発生を防止する観点からストーカー行為等の規制を行うことを明らかにしたものである。
第2 規制の対象(法第2条関係)
法の規制の対象となるのは、「つきまとい等」、「位置情報無承諾取得等」及び「ストーカー行為」である。
1 つきまとい等(法第2条第1項)
特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、法第2条第1項各号の行為をすることをいう。
(1) 行為の目的
「好意の感情」とは、好きな気持ち、親愛感のことをいい、恋愛感情のほか、女優等に対する憧れの感情等が含まれるものと解される。
「怨恨の感情」とは、恨み、憎しみの感情である。好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情であることから、自分の好意が相手方に受け入れられないためにその好意の感情が怨恨の感情に転化したものであることが必要となる。
なお、これらの感情は男女間に限って抱かれるものではないが、不特定の者の中の一人に対して向けられた感情ではなく、特定の者に向けられた特別な感情を抱いている必要がある。
「充足する目的で」とされていることから、例えば、好意の感情が相手方に受け入れられることや相手方がそれに応えて何らかの行動を取ることを望んで当該行為を行うなど、好意の感情や怨恨の感情が充足される目的で法第2条第1項各号の行為がなされることが必要となる。
(2) 行為の相手方
「特定の者」とは、好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を抱かれている者である。
「社会生活において密接な関係を有する者(以下「密接関係者」という。)」とは、「特定の者」の身上、安全等を配慮する立場にある者であり、その者のために「特定の者」に対する好意の感情が満たされない、又は、その者に対して嫌がらせを行うことによって「特定の者」を心理的に圧迫し、その意思決定を左右しかねないというような場合が該当すると解される。具体的には、その恋人、友人、職場の上司等が考えられる。
(3) 具体的行為
ア つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと(第1号)
「見張り」とは、一定時間継続的に動静を見守ることをいう。
「押し掛け」とは、住居等の平穏が害されるような態様で行われる訪問であって社会通念上容認されないものをいう。
「うろつく」とは、あてもなく移動する、うろうろすることをいう。また、「みだりに」は、「正当な理由なく」という意味よりもやや広く、行為の態様を示す意味も含んでおり、社会的相当性がないような態様によることを意味する。
「その現に所在する場所」とは、相手方が実際に所在している場所であれば、いずれの場所であっても該当するものと解される。
「付近」とは、「見張り」や「うろつき」が相手方の身体の安全、住居等の平穏が害される不安を覚えさせるものである必要がある。
イ その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと(第2号)
「その行動」と規定されていることから、告げるなどする相手方、すなわち、好意の感情等を向けている特定の者に対して告げるなどする場合は当該特定の者の、密接関係者に対して告げるなどする場合は当該密接関係者の行動に関する事項となる。
「監視していると思わせるような事項」を告げたと認定するためには、行為の相手方の行動を監視していると思わせるような程度に至ることが必要である。
「告げる」とは、相手方に直接伝達することである。その方法について限定はなく、口頭又は文書(手紙、張り紙等)による伝達のほか、電子メールの送信等をする方法も含まれる(第7号及び第8号において同じ。)。
「その知り得る状態に置く」とは、直接相手方に伝達するものではないものの、相手方が日常生活において了知し得る範囲内に到達させることをいう(第6号、第7号及び第8号において同じ。)。
ウ 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること(第3号)
(ア) 一般的事項
「義務のないこと」とは、およそ問題となっているような要求をすることが第三者からみて不当であると評価できるものと解される。
要求の手段は限定されておらず、口頭又は文書(手紙、張り紙等)による伝達のほか、電子メールの送信等をして行う場合も対象となる。
(イ) 権利関係
真に「義務のないこと」と言えるのかどうかについて慎重に検討する必要がある。
また、実際に債権を有し、要求することについて行為者が正当な権利を有していると言える場合であっても、当該権利の濫用に当たる場合には、「義務のないことを行うことを要求する」に該当すると認められる。
エ 著しく粗野又は乱暴な言動をすること(第4号)
「著しく粗野な言動」とは、場所柄をわきまえない、相応の礼儀を守らないぶしつけな言動又は動作のうち、一般人から見て放置できない程度に強度な場合をいい、「乱暴な言動」とは、不当に荒々しい言語又は動作であって、刑法(明治40年法律第45号)にいう暴行や脅迫にまで至らないものも含まれると解される。
「著しく粗野又は乱暴な言動」の手段について特に限定はない。
オ 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること(第5号)
(ア) 「電話をかけて何も告げず」
「電話をかけて何も告げず」とは、行為の相手方に電話をかけ、その相手方が電話に出たにもかかわらず、何も言わないことであり、「電話をかけて何も言わないで沈黙を保つ」という行為のほか、「電話をかけて何も言わないで切る」という行為も含むものと解される。ただし、一旦は「電話がつながる」という状態が確保されることが必要であると解される。
(イ) 「拒まれたにもかかわらず」
「拒まれた」こと、すなわち、行為の相手方が電話をかけられることなどを拒絶していることが必要となる。この拒絶には黙示のものも含まれるが、行為者が拒絶を認識していることが必要である。
なお、相手方から行為者に対して直接拒む場合だけでなく、相手方が警察に相談し、警察から行為者に対して相手方が拒んでいることを告げ、行為者がそれを認識するような場合も該当すると解される。
(ウ) 「連続して」
「連続して」とは、「短時間や短期間に何度も」という意味であり、具体的には個々の事案により判断されることとなる。なお、電話や文書、ファクシミリ、電子メール等の内容は、どのようなものでもよい。また、電話、文書、ファクシミリ又は電子メール等のいずれかのみを連続して送信等を行う場合に限られるものではなく、これらのものの複数を連続して送信等を行う場合でも、つきまとい等に当たるものと解される。
(エ) 「電話をかけ」
「電話をかけ」とは、通話状態となる必要はなく、着信拒否設定されている場合においても、着信履歴から連続して電話をかけたことが認められれば、「電話をかけ」に該当するものと解される。
(オ) 「文書を送付し」
「文書」とは、一般には、文字や記号で人の思想を表したものをいい、具体的には、手紙、封書及びはがきのほか、相手方の氏名のみ記載されており便箋等が入っていない封筒等も含まれ得るが、白紙は含まれない。
「送付」とは、ある場所ないし人から他の場所ないし人に書類その他の物を送り届けることをいう。
(カ) 「電子メールの送信等をする」
「電子メール」とは、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成14年法律第26号)第2条第1号の電子メールと同様であり、特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号)。)であって、①その全部若しくは一部においてSMTP(シンプル・メール・トランスファー・プロトコル)が用いられる通信方式を用いるもの、又は②携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式を用いるものをいうと解される。①にはパソコン・携帯電話端末によるEメールのほか、Yahoo!メールやGmailといったウェブメールサービスを利用したものが含まれ、②にはSMS(ショート・メッセージ・サービス。携帯電話同士で短い文字メッセージを電話番号宛てに送信できるサービスをいう。)が含まれるものと解される。
「その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」(法第2条第2項第1号)とは、具体的には、LINEやFacebook等のSNSメッセージ機能等を利用した電気通信がこれに該当し、「特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為」(法第2条第2項第2号)とは、具体的には、相手方が開設しているブログ、ホームページ等への書き込みや、相手方のSNSのマイページにコメントを書き込む行為等が該当すると解される。
また、「電子メールの送信等をする」については、受信拒否設定をしていたり、電子メール等の着信音が鳴らない設定にしたりしているなどのために、個々の電子メール等の着信の時点で、相手方である受信者がそのことを認識し得ない状態であっても、受信履歴等から電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識し得るのであれば、「電子メールの送信等をする」に該当するものと解される。
カ 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと(第6号)
「著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物」とは、ひどく快くないと感じさせ、又は不愉快に感じさせるような物であるが、社会通念上、客観的にそのように評価できる物であることが必要であると解される。
なお、ここでいう「物」には、文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録に係る記録媒体等も含まれると解される。
キ その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと(第7号)
「名誉を害する事項」とは、相手方の社会的評価を害し、名誉感情を害する事柄を告げるなどすれば足り、事実を摘示することまでは要しないと考えられる。
ク その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと(第8号)
「性的羞恥心を害する」とは、望んでもいないのに性的に恥ずかしいと思う気持ちを起こさせて精神の平穏を害することをいい、刑法にいう「わいせつ」にまで至らないものも含まれると解される。
また、行為の相手方のみの性的羞恥心を害するものであっても対象となると解される。
「その性的羞恥心を害する電磁的記録に係る記録媒体」とは、具体的には、性的羞恥心を害する画像や動画を記録したCD-R等が該当すると解される。
また、「その性的羞恥心を害する電磁的記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと」とは、相手方の性的羞恥心を害する画像や動画を電子メール等で送信したり、インターネット上に掲載すること等が該当すると解される。
2 位置情報無承諾取得等(法第2条第3項)
特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、法第2条第3項各号の行為をすることをいう。
(1) 行為の目的
第2の1(1)のとおり。
(2)行為の相手方
第2の1(2)のとおり。
(3) 具体的行為
ア その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(当該装置の位置に係る位置情報(地理空間情報活用推進基本法(平成19年法律第63号)第2条第1項第1号に規定する位置情報をいう。以下同じ。)を記録し、又は送信する機能を有する装置で政令で定めるものをいう。)(ウの行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること(第1号)
(ア) 「承諾を得ないで」
「承諾を得ないで」とは、行為者と相手方との合意がない場合のほか、脅迫された場合又はだまされて誤信した場合のように任意かつ真意に基づく承諾とはいえない場合も該当すると解される。
また、交際関係にある相手方との合意の下で位置情報を互いに共有していたものの、その後、関係が悪化し、今後の位置情報の共有を断る旨を伝えられてもなお引き続いて相手方の位置情報を取得した場合は、「承諾を得ないで」に該当し得るほか、相手方が拒絶の意思を直接告げた場合や、相談を受けた警察官や第三者が行為者に対して相手方が拒絶している旨を告げた場合も「承諾を得ないで」に該当し得ると解される。
(イ) 「所持」
「所持」とは、ある人が物を事実上支配していると認められる状態をいう。現実にその物を把握している必要はなく、留守宅に保管し、又は使用人に保管させていても、その物が事実上その人の支配下にあれば「所持」といえ、相手方が自動車等を駐車場に保管している場合も「所持」に含まれる。
(ウ) 「位置情報記録・送信装置」
「位置情報記録・送信装置」とは、地理空間情報活用推進基本法第2条第4項に規定する衛星測位の技術を用いて得られる当該装置の位置に係る位置情報を電磁的記録として記録し、又はこれを送信する機能を有する装置をいう(令第1条)。具体的には、GPSを用いて位置情報を記録・送信する機能を有するスマートフォン)、GPSを用いて位置情報を記録する機能を有する装置)、GPSを用いて位置情報を送信する機能を有する装置)等が該当すると解される。
(エ) 「政令で定める方法」
令第2条各号に掲げる方法をいう。
a 位置情報記録・送信装置の映像面上において、電磁的記録として記録された位置情報を視覚により認識することができる状態にして閲覧する方法(令第2条第1号)
「閲覧する」とは、内容を調べたり見たりすることをいう。
b 位置情報記録・送信装置により記録された電磁的記録に係る記録媒体を取得する方法(当該電磁的記録を他の記録媒体に複写する方法を含む。)(令第2条第2号)
「位置情報記録・送信装置により記録された電磁的記録に係る記録媒体」とは、具体的には、位置情報記録・送信装置により記録された位置情報の電磁的記録が蔵置されたハードディスク、メモリーカード、USBメモリー等をいう。
また、「当該電磁的記録を他の記録媒体に複写する」とは、位置情報記録・送信装置により記録された位置情報の電磁的記録を、他のハードディスク、メモリーカード、USBメモリー等にコピーすることをいう。
c 位置情報記録・送信装置により送信された電磁的記録を受信する方法(当該方法により取得された位置情報を他人の求めに応じて提供する役務を提供する者から当該役務を利用して当該位置情報の提供を受ける方法を含む。)(令第2条第3号)
「受信」とは、電信、電話等を受けること、郵便物、電報等を受け取ることをいう。 
イ その承諾を得ないで、その所持する位置特定用識別情報送信装置(当該装置を識別する情報を送信する機能を有し、当該装置の周辺において当該情報を受信した識別情報送受信装置(位置情報記録・送信装置その他の装置であって、当該情報を受信し、及び送信する機能を有するものをいう。)の位置に係る位置情報を利用して、その所在する地点又は区域の位置を特定するために用いられる装置をいう。以下同じ。)(ウの行為がされた位置特定用識別情報送信装置を含む。)の位置に係る位置情報を取得すること(第2号)
(ア) 「承諾を得ないで」
ア(ア)のとおり。
(イ) 「所持」
ア(イ)のとおり。
(ウ)「位置特定用識別情報送信装置」
「位置特定用識別情報送信装置」とは、当該装置の識別情報を送信する機能を有し、当該装置の周辺に所在する識別情報送受信装置(詳細は(エ))の位置に係る位置情報を利用して、その所在する地点又は区域の位置を特定するために用いられる装置をいう。具体的には、紛失物の発見の補助等に用いられるいわゆる紛失防止タグや、紛失時に容易に発見できるように紛失防止タグと同様の位置特定機能が備えられたイヤホン等が該当すると解される。
(エ) 「識別情報送受信装置」
「識別情報送受信装置」とは、位置特定用識別情報送信装置が送信する識別情報を送受信する機能を有する装置をいう。具体的には、位置情報記録・送信装置であるスマートフォン等のほか、GPSではなく、設置場所が固定されていることによりあらかじめ定まっている当該装置の位置に係る位置情報が位置特定用識別情報送信装置の位置特定に用いられており、位置情報記録・送信装置に該当しない、公共施設や商業施設に設置されるアクセスポイント等も該当すると解される。
ウ その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置又は位置特定用識別情報送信装置(以下「位置情報記録・送信装置等」という。)を取り付けること、位置情報記録・送信装置等を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置等を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること(第3号)
「承諾を得ないで」行われた行為かどうかについては、上記ア(ア)のとおり。
(ア) 「その所持する物に位置情報記録・送信装置等を取り付けること」
「取り付ける」とは、機器等を一定の場所に設置したり他の物に装置したりすることをいう。
(イ) 「位置情報記録・送信装置等を取り付けた物を交付すること」
「交付する」とは、物を他人に渡すことをいい、郵便によるものも含まれる。
(ウ) 「その移動に伴い位置情報記録・送信装置等を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為」
令第3条各号に掲げる行為をいう。
a その所持する物に位置情報記録・送信装置等を差し入れること(令第3条第1号)
「差し入れる」とは、中へ入れることをいう。
b 位置情報記録・送信装置等を差し入れた物を交付すること(令第3条第2号)
「差し入れる」については上記a、「交付する」については上記(イ)のとおり。
c その移動の用に供されることとされ、又は現に供されている道路交通法(昭和35年法律第105号)第2条第1項第9号に規定する自動車、同項第10号に規定する原動機付自転車、同項第11号の2に規定する自転車、同項第11号の3に規定する移動用小型車、同項第11号の4に規定する身体障害者用の車又は道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)第1条第1号に規定する歩行補助車(それぞれその所持する物に該当するものを除く。以下「自動車等」という。)に位置情報記録・送信装置等を取り付け、又は差し入れること(令第3条第3号)
その移動の用に「供されることとされている」自動車等とは、相手方が所持する物には該当しないものの、将来的に相手方の移動のために利用されると認められる自動車等が該当する。
他方、その移動の用に「現に供されている」自動車等とは、相手方が所持する物には該当しないものの、現に相手方の移動のために利用されている自動車等が該当する。
3 ストーカー行為(法第2条第4項)
(1) 「反復してすること」
「ストーカー行為」とは、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等を反復してすることである(法第2条第1項第1号から第4号まで及び第5号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)。
なお、「ストーカー行為等の規制等に関する法律第2条第2項の「ストーカー行為」とは、これは、同条第1項第1号から第8号までに掲げる「つきまとい等」のうち、いずれかの行為をすることを反復する行為をいい、特定の行為あるいは特定の号に掲げられた行為を反復する場合に限るものではないと解すべき」とする最高裁判所の判例(最高裁判所第二小法廷平成17年11月25日、平成16年(あ)第2571号、最高裁判所刑事判例集59巻9号1819頁)も示されており、法第2条第1項各号又は同条第3項各号に定められた行為が全体として反復したと認められれば、ストーカー行為が成立するものと解される。
(2) 「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」
ア 基本的考え方
「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」とは、社会通念上、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害されるのではないか、又は行動の自由が著しく害されるのではないかと相手方を心配させると評価できる程度のものである必要がある。
この方法は、相手方に直接向けられたならば不安を覚えさせる行為であると社会通念上認められるものであれば、相手方が不在時に行われた当該行為も含まれる。
なお、「不安を覚えさせるような方法」の判断は、通常一般人をして通常「不安を覚えさせ」る方法と評価できるかどうかで判断することとなる。ただし、特定の者に対し恋愛感情等を充足する目的で反復して行われる行為を規制する法の趣旨に鑑みれば、仮に通常一般人が当該行為を受けた場合は不安を覚えない方法であっても、行為者と相手方の人的関係、行為の具体的態様、同種行為の回数や頻度、更には警察による警告や禁止命令等の先後関係等を総合的に勘案し、相手方にとって「不安を覚えさせるような方法」であると一般人をして認められる場合にはこれに該当すると解される。
イ 「電子メールの送信等をする」における考え方
「電子メールの送信等をする」については、現在既に存在する多様なSNSのサービスはもとより、今後、情報通信技術の進展に伴って登場する可能性がある新たな電気通信手段にも対応することができるよう、ある程度の包括性を有する規定とされている。
これらの行為は、「拒まれたにもかかわらず、連続して」行われる場合には、相手方に不安を覚えさせるのが通常と考えられるが、規定の包括性を踏まえると、対象となり得る電気通信手段の中には、連続して送信等をすることで直ちに相手方に不安を覚えさせるとは評価できないようなものもあり得なくはないため、「不安を覚えさせるような方法」の限定が付されたものである。
その際、既に規制の対象とされている電子メールについても、電気通信手段の一種であり、SNSと実質的に異ならない機能を有するものもあることから、電子メールの送信も含め「電子メールの送信等をする」全体に対して、一律に方法の限定が付されることとされた。
この点、電子メールの送信については、平成28年の法改正まで方法の限定が付されていなかったところであるが、「拒まれたにもかかわらず、連続して」行われる場合には、通常相手方に不安を覚えさせるものと評価されると解される。
第3 つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして不安を覚えさせる行為の禁止(法第3条関係)
法第3条では、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせることを禁止している。どのような方法でつきまとい等又は位置情報無承諾取得等が行われようが、その相手方が前記不安を覚えていれば、法第3条に違反したこととなる。
なお、行為が行われた時点では不安を覚えさせない場合、例えば、相手方が不在の場合の押し掛け、相手方に直接向けられていない粗野若しくは乱暴な言動が行われた場合又は相手方の知らない間にその所持する物に位置情報記録・送信装置等が取り付けられた場合であっても、後で相手方がこれらの言動を認識した時点で不安を覚えたときは、同様に法第3条違反となる。
第4 警告(法第4条関係)
1 警告の主体(法第14条第3項)
警告は、①警告に係る法第3条の規定に違反する行為(以下「法第3条違反行為」という。)の相手方の現在の住所若しくは居所の所在地、②当該相手方の当該法第3条違反行為が行われた時における住所若しくは居所の所在地、③当該法第3条違反行為をした者の現在の住所(日本国内に住所がないとき、又は住所が知れないときは居所。以下「住所等」という。)の所在地又は④当該法第3条違反行為が行われた地(以下「事案関係地」という。)を管轄する警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)が行う。
警告に係る法第3条違反行為の相手方は、住所地以外の場所に居住していることがあることから、申出の便宜のため、また、警告により行為者に相手方の所在する場所を推察されないようにするため、相手方の現在の居所や行為者の住所地を管轄する警察本部長等も警告をすることができることとされたものである。
また、相手方が転居した場合において、以前から相談等をしていた都道府県警察による対応を希望する場合があること等から、法第3条違反行為が行われた時における当該相手方の住所又は居所の所在地を管轄する警察本部長等も警告をすることができることとされたものである。
このような趣旨に鑑み、事案関係地が複数の都道府県警察や警察署の管轄にわたる場合における警告の主体の決定は、申出人の保護に最も資するのはどこかという観点から行わなければならない。
2 警告の申出等(法第4条第1項)
(1)警告は、申出により、又は職権で行う。従来、警告は法第3条違反行為の相手方の申出に基づいて行っていたが、令和7年の法改正により、職権によっても警告をすることができることとされたものである。
警告の申出の受理は、警察本部長等が規則第1条に規定する別記様式第1号の警告申出書の提出を受けることにより行われる。
警告の申出があった場合には、申出に係る行為がつきまとい等又は位置情報無承諾取得等でないことが明らかな場合を除き、受理すること。
(2) 令和7年の法改正により、職権によっても警告をすることができることとされた趣旨は、行為者からの報復や逆恨み等を恐れているなどの事情から、相手方の申出を受理することが困難な場合があることを踏まえ、法の適時的確な適用を可能とするためであるところ、職権で警告を行う場合であっても、法第3条違反行為の相手方の意向を踏まえ、職権警告の適切な活用を図ること。
3 警告の要件(法第4条第1項)
警告の要件は、①法第3条違反行為があると認められること、具体的には、法第2条第1項各号又は第3項各号に掲げる行為をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせたと認められること、かつ、②当該法第3条違反行為をした者が更に反復して当該法第3条違反行為をするおそれがあると認められることである。
4 警告の内容(法第4条第1項)
警告は、「更に反復して当該行為をしてはならない旨」を伝達するものである。「当該行為」とは、法第2条第1項及び第3項に規定する全ての号に係る法第3条に違反すると認められる行為であると捉えることが相手方の保護に資することから、相手方に対して法第2条第1項に規定するいずれかの号又は同条第3項に規定するいずれかの号に該当する法第3条違反行為があり、かつ反復のおそれが認められれば、第2条第1項及び第3項に規定する全ての号に係る行為をしてはならない旨を警告すること。
5 「警告をする理由」欄の記載
上記3の反復のおそれの認定内容も含めて、警察が認定した事実と法的判断について、警告を受ける者が理解できる記載とすること。
また、申出による警告か職権による警告かを明らかにすること。
6 警告の方式(規則第2条)
警告は、規則第2条第1項に規定する別記様式第2号の警告書を交付して行う。ただし、緊急を要し警告書を交付するいとまがないときは、口頭で行うことができる。
(1) 警告を実施するに当たっては、警察署であれば警察署長の、警察本部であれば人身安全・少年課長の指揮を受けて行うこと。
(2) 警告書の交付は、警告を受ける者に直接手渡すことを原則とする。警告を受ける者が他の都道府県警察管内に居住している場合には、相互に連携をとり、警告の実施を依頼するなどして差し支えない。やむを得ない事情がある場合には、郵送により送達して行うこととする。また、その際は郵便物を配達した事実が記録される手法を用いること。
(3)警告の効力は、客観的に警告を受ける者が内容を了知できる状態となった時点から発生するから、警告書を交付して警告したにもかかわらず、警告を受ける者が警告書を受け取らなかった場合であっても、既に警告は実施されていることとなり、効力は生じることとなる。
(4) 口頭による警告は、既に警告をすることの決裁がなされている場合において、相手方に対して正に警告を受ける者が警告に係るつきまとい等又は位置情報無承諾取得等を行おうとしているのを現認した場合等、真に必要な場合に限定して行うこと。
また、口頭で警告を行った場合には、可能な限り速やかに警告を受けた者に警告書を手交又は送付すること(警告書の日付は、口頭で警告を行った日とすること。)。
7 警告に係る通知(法第4条第3項及び第4項)
(1) 警察本部長等が警告をしたときは、速やかに、その内容及び日時を当該警告に係る法第3条違反行為の相手方に通知すること。
当該通知は書面によることを要しないが、相手方から書面による通知の申立てがあった場合には、法第7条第1項に基づく援助の申出を受けた上で、同項及び規則第16条第7号に基づき、行政措置実施証明書(別記様式第8号)を交付すること(詳細は第8)。書面による通知は、書面を相手方に直接手渡すことを原則とする。直接手渡すことが困難な場合等には、郵送等により送達して行うこととして差し支えないが、その際は郵便物を配達した事実が記録される手法を用い、また、相手方の元に届くよう、送付先に留意すること。
なお、ストーカー行為等の相手方の氏名、住所、電話番号等を把握しておらず、通知を行うことができない場合は基本的には想定されないところであるが、特に職権による場合には、例えば、相手方が法第3条違反行為の被害を訴え出つつ、自らの氏名や連絡先等を警察に伝達することを拒否するといった場合や、相手方が警察に連絡なく転居し、転居後の所在が分からないといった場合のように、通知をすることができない場合も想定し得るため、こうした場合には通知をすることを要しない旨のただし書が規定されている。
(2) 警告の申出を受けた警察本部長等は、警告をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を当該警告の申出をした者に規則第3条に規定する別記様式第3号の通知書により通知すること。
なお、通知書は原則として直接手渡すこととし、その際、申出人に対し口頭で当該通知の内容を説明するなど、警告をしなかったことについて理解が得られるよう努めること。直接手渡すことが困難な場合等には、郵送等により送達して行うこととして差し支えないが、その際は郵便物を配達した事実が記録される手法を用い、また、申出人の元に届くよう、送付先に留意すること。
8 都道府県公安委員会への報告
都道府県公安委員会(方面公安委員会を含む。)に対する報告については、法律上、警告の都度一律に報告を行う義務はないものの、都道府県警察を管理する立場にある公安委員会に対する適切な報告の実施の観点から、警告の実施状況について適宜の報告を行うこと。
第5 禁止命令等(法第5条関係)
1 禁止命令等の主体(法第14条第1項)
禁止命令等は、①禁止命令等に係る法第3条違反行為の相手方の現在の住所若しくは居所の所在地、②当該相手方の当該法第3条違反行為が行われた時における住所若しくは居所の所在地、③当該法第3条違反行為をした者の現在の住所等の所在地又は④当該法第3条違反行為が行われた地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)が行うこととされている。
相手方は、住所地以外の場所に居住していることがあることから、申出の便宜のため、また、禁止命令等により行為者に相手方の所在する場所を推察されないようにするため、相手方の現在の居所や行為者の住所地を管轄する公安委員会も禁止命令等をすることができることとされたものである。
また、相手方が転居した場合において、以前から相談等をしていた都道府県警察による対応を希望する場合があること等から、法第3条違反行為が行われた時における当該相手方の住所又は居所の所在地を管轄する公安委員会も禁止命令等をすることができることとされたものである。
このような趣旨に鑑み、事案関係地が複数の都道府県にわたる場合における禁止命令等の主体の決定は、相手方の保護に最も資するのはどこかという観点から行わなければならない。
なお、禁止命令等は、違反した場合に罰則が設けられていることから、その手続に慎重を期すため、発出は公安委員会の権限に属するものとされたものと解されるが、一方で、ストーカー事案の中には事態が急展開して重大事件に発展するおそれが高いものも含まれているため、より迅速かつ効果的に命令を発出することが求められる。これを踏まえ、法第17条の規定により、禁止命令等の手続の慎重性の確保と迅速かつ効果的な命令の発出という2つの要請の調和を図る観点から、禁止命令等の主体を公安委員会としつつも、その判断により、警察本部長等にその権限に属する事務を委任することができることとされた(詳細は第11)。
2 禁止命令等の申出等(法第5条第1項)
禁止命令等は、申出により、又は職権で行う。従来から禁止命令等は申出人の申立てに基づいて、又は公安委員会としての独自の判断により行っていたが、平成25年の法改正により、申出によっても禁止命令等をすることができることが明確にされたものである。
法第5条第1項の申出の受理は、公安委員会が規則第4条に規定する別記様式第4号の禁止命令等申出書の提出を受けることにより行う。
禁止命令等の申出があった場合には、申出に係る行為がつきまとい等又は位置情報無承諾取得等でないことが明らかな場合を除き、受理すること。
職権での禁止命令等に係る留意事項については、第4の2(2)と同様である。
3 禁止命令等の要件(法第5条第1項)
禁止命令等の要件は、①法第3条違反行為があったこと、具体的には、法第2条第1項各号又は第3項各号に掲げる行為をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせたこと、かつ、②当該法第3条違反行為をした者が更に反復して当該法第3条違反行為をするおそれがあると認められることである。
4 禁止命令等の内容(法第5条第1項、第19条及び第20条)
禁止命令等の内容は、「更に反復して当該行為をしてはならないこと」(第1号)又は「更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項」(第2号)であり、第1号の命令は、法第2条第1項各号に規定する全てのつきまとい等に係る法第3条違反行為及び同条第3項各号に規定する全ての位置情報無承諾取得等に係る法第3条違反行為を更に反復してはならない旨を命ずるものである。
第2号の命令は、あくまで第1号の命令の実効性を担保するための補充的なものであり、第2号の命令のみを行う意味はない。第2号の命令の具体例としては、写真、画像データ等が送付されている場合にその記録、記録媒体等を廃棄等することを命ずるなど、第1号の命令の対象となっている行為を継続する手段となるものを廃棄等させる措置が考えられる。
また、第2号の命令には、行為者の近況等や相手方への執着の程度等を把握し、加害行為の再発防止措置に係る支援の向上を図るため、「本件命令に関し、〇〇県警察の職員により行われる電話、対面その他の方法による連絡、質問又は確認に応じること」を命じることも含まれる。
なお、第1号の命令については罰則の対象となっているが、第2号の命令については罰則の対象となっていない。
5 「命令をする理由」欄の記載
禁止命令は行政処分であることから、行政手続法第14条第1項に基づいて、被処分者に対して処分の理由を示さなければならない。その趣旨は、処分の適正性と被処分者の防御権確保のためとされている。
よって、「命令をする理由」欄の記載は、抽象的な法令の引用では足りず、警察が認定した事実と法的判断の関係について被処分者が理解できる記載とする必要がある。
また、申出による禁止命令等か職権による禁止命令等かを明らかにすること。
6 聴聞(法第5条第2項)
禁止命令等を行うに当たっては、事前手続として聴聞を行うこととなっている。行政手続法(平成5年法律第88号)第13条第1項の基準に従えば弁明の機会を付与すれば足りるものの、法で規制されているつきまとい等が日常生活において容易に行われるものを含んでいるため、特に手続に慎重を期するために聴聞を行うこととされたものと解される。
具体的な手続は、行政手続法及び聴聞及び弁明の機会の付与に関する規則(平成6年国家公安委員会規則第26号)に従って行うこととなるが、次のことに留意すること。
(1) 聴聞は、非公開とすること。
(2) 聴聞の主宰者は、公安委員会の委員又は聴聞を主宰するについて必要な法律に関する知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができると認められる警察職員のうちから指名されることとなるが(聴聞及び弁明の機会の付与に関する規則第3条第2項)、警察職員のうちから指名することが望ましい。
主宰者の指名は、あらかじめ特定の者を指定しておくことが望ましいが、警察職員のうちから指名する場合には、原則として、警視以上の階級の者の中から指名しておくこと。
ただし、所管の業務運営に支障が生じることが懸念される場合には、各都道府県警察における組織規模その他の実情に応じ、警部である者を指名することも可能である。
7 緊急時の禁止命令等(法第5条第3項)
平成28年の法改正により、一定の緊急性がある場合、聴聞を経ずに禁止命令等を発出した上で、事後的に意見の聴取を行う制度が設けられた(以下この場合の禁止命令等を「緊急時の禁止命令等」という。)。
(1) 緊急時の禁止命令等の要件(法第5条第3項)
「相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するために緊急の必要がある」とは、行為の態様、頻度、期間及び法第3条違反行為の相手方の心理状態等から判断して、当該相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するためには、聴聞等の手続を経ずに禁止命令等を行う必要があると認められる場合であると解される。
この緊急の必要性の判断は、慎重に行わなければならない。また、正に相手方に危険が迫っている場合には、相手方に対する何らかの犯罪が成立していることも考えられるため、行為者を検挙し隔離することにも配意すること。
緊急時の禁止命令等は、相手方の申出により行うことを原則としているが、「相手方の身体の安全が害されることを防止するために緊急の必要があると認めるとき」には、当該相手方の生命又は身体の保護の必要性が特に高いことから、例外的に、職権により、緊急時の禁止命令等を発出することができることとされているところ、具体的にこれに該当する場合としては、行為者が相手方に直接に接近するような態様でのつきまとい等が行われている場合や、そうでなくとも、例えば、電子メールや電話等の内容から、殺人、傷害、暴行等の相手方の身体等に直接向けられた犯罪が行われる危険性が高いと認められるような場合等が該当すると解される。
(2) 意見の聴取(法第5条第3項)
意見の聴取は、緊急時の禁止命令等を受けた者に当該命令が不当でなかったかどうかについて意見陳述の機会を与えるものであり、緊急時の禁止命令等の事後手続である。
したがって、意見の聴取においては、緊急時の禁止命令等の正当性、すなわち、緊急時の禁止命令等を行った時点において法第3条違反行為の事実があったか、反復のおそれが認定されるものであったか、緊急の必要が認められるものであったかについて審理されることとなる。
意見の聴取は、行政手続法第3章第2節(第28条を除く。)の規定が準用されているほか、意見聴取規則に従って行うこととなるが、次のことに留意すること。
ア 意見の聴取は非公開とすること。
イ 意見の聴取の主宰者は、公安委員会の委員又は聴取を主宰するについて必要な法律に関する知識、経験を有し、かつ、公正な判断をすることができると認められる警察職員のうちから指名されることとなるが(意見聴取規則第2条第2項)、警察職員のうちから指名することが望ましい。この点、意見の聴取の事務を警察本部長等に委任する場合には、当該警察職員のうちから指名すること。
また、主宰者の指名は、あらかじめ特定の者を指定しておくことが望ましいが、警察職員のうちから指名する場合には、原則として、警視以上の階級の者の中から指名しておくこと。
ただし、所管の業務運営に支障が生じることが懸念される場合には、各都道府県警察における組織規模その他の実情に応じ、警部である者を指名することも可能である。
ウ 意見の聴取を行った結果、緊急時の禁止命令等が不当なものと認められた場合には、速やかに、人身安全・少年課長に報告すること。
8 禁止命令等に係る通知(法第5条第6項及び第7項)
(1) 公安委員会が禁止命令等をしたときは、速やかに、その内容及び日時を当該禁止命令等に係る法第3条違反行為の相手方に通知すること。
その他の留意事項については、第4の7(1)のとおり。
(2) 禁止命令等の申出を受けた公安委員会は、禁止命令等をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を当該申出をした者に規則第5条に規定する別記様式第5号の通知書により通知すること。
その他の留意事項については、第4の7(2)のとおり。
9 禁止命令等の有効期間・延長処分(法第5条第8項から第10項まで)
(1) 有効期間(法第5条第8項)
禁止命令等の効力は、当該命令をした日から起算して1年とする。
「禁止命令等をした日」とは、禁止等命令書を禁止命令等を受ける者に交付するなどして、その内容を了知させた日である。
(2) 禁止命令等有効期間延長処分(法第5条第9項及び第10項)
ア 禁止命令等有効期間延長処分を行う主体
禁止命令等の有効期間の延長の処分(以下「禁止命令等有効期間延長処分」という。)を行うことができる公安委員会は、元となる禁止命令等を発出した公安委員会となることに留意すること。
イ 禁止命令等有効期間延長処分の申出
禁止命令等有効期間延長処分の申出の受理は、規則第8条に規定する別記様式第6号の禁止命令等有効期間延長申出書の提出を受けることにより(当該申出が口頭によるものであるときは、当該書面に記入を求め、又は警察職員が代書することにより)、行われる。
ウ 禁止命令等有効期間延長処分の要件
「継続する必要があると認めるとき」とは、元となる禁止命令等に係る法第3条違反行為の相手方の不安の状況、行為者のこれまでの行為、当該相手方以外の者へのつきまとい等又は位置情報無承諾取得等の状況等を総合的に勘案して、禁止命令等の効力を継続する必要があると認められる場合をいう。
(3) 禁止命令等有効期間延長処分に係る通知(法第5条第10項の規定により準用する同条第6項及び第7項)
ア 公安委員会が禁止命令等有効期間延長処分をしたときは、速やかに、その内容及び日時を当該禁止命令等有効期間延長処分に係る法第3条違反行為の相手方に通知すること。
その他の留意事項については、第4の7(1)のとおり。
イ 禁止命令等有効期間延長処分の申出を受けた公安委員会は、禁止命令等有効期間延長処分をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を当該申出をした者に規則第9条に規定する別記様式第7号の通知書により通知すること。
その他の留意事項については、第4の7(2)のとおり。
10 禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分の方式(法第5条第11項)
(1) 基本的事項
禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分は、書類を送達して行う。禁止命令等にあっては規則第10条第1号に規定する別記様式第8号の禁止等命令書を、禁止命令等の有効期間延長処分にあっては同条第2号に規定する別記様式第9号の禁止命令等有効期間延長処分書を送達して行う。ただし、緊急を要するため当該書類を送達するいとまがないときは、口頭ですることができる。
ア 禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分の効力は、当該命令等を受ける者が内容を了知し得る状態となった時点、すなわち本人若しくはその使用人等に禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書を交付した時点又は送達すべき場所に当該書類を差し置いた時点から生じることとなる。
イ 禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書の送達に当たっては、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を受ける者に対し、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第82条第1項の規定に基づき審査請求ができる旨、また、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第46条第1項の規定に基づき取消訴訟の提起ができる旨、それぞれ、書面で教示する必要があることから、禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書の2頁目を活用して教示を行うこと。
ウ 口頭による禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分は、既にこれらの処分をすることの決裁がなされている場合において、法第3条違反行為の相手方に対して正に当該命令等を受ける者が当該命令等に係るつきまとい等又は位置情報無承諾取得等を行おうとしているのを現認した場合等、真に必要な場合に限定して行うこと。
また、口頭で禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を行った場合には、可能な限り速やかに当該命令等を受けた者に禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書を送達すること(禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書の日付は、口頭で命令等を行った日とすること。)。
(2) 送達の方法
ア 交付送達
禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書は、交付送達により送達することを原則とする。
(ア) 交付送達は、警察職員が、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)において、その送達を受けるべき者に書類を直接交付して行うものとする。
(イ) ただし、その送達を受けるべき者に異議がないときは、警察署、その送達を受けるべき者の職場その他の場所において交付することができる。
 なお、当該書類の送達を受けるべき者が他の都道府県警察管内に居住している場合は、相互に連携を取り、当該書類の交付を依頼するなどして差し支えない。
(ウ) 次に掲げる場合のいずれかに該当するときであって、送達を受けるべき者に書類を交付しないで当該書類を送達すべき差し迫った必要があるときは、交付送達は、警察職員による交付に代え、それぞれ次に掲げる行為により行うことができる。「送達を受けるべき者に書類を交付しないで当該書類を送達すべき差し迫った必要があるとき」とは、行為の態様、頻度、期間及び相手方の心情等から判断して、早急に対応しなければ相手方の身体、自由及び名誉に対する危害が生じるおそれが強いと判断される場合等が該当すると解される。
a 送達すべき場所において書類の送達を受けるべき者に出会わない場合にあっては、その使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。
 「同居の者」とは、親族又は生計を一にしている者であることを要しない。
 また、「相当のわきまえのある者」とは、送達の意義を理解し、受領した書類をその送達を受けるべき者に交付することを期待し得る程度の能力を備えている者のことをいう。
b 書類の送達を受けるべき者その他前記aに規定する者が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合にあっては、送達すべき場所に書類を差し置くことができる。
差し置くことのできる「送達すべき場所」は、書類の送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)の建物の玄関内、郵便受け箱等の書類を受領するにふさわしい場所が該当すると解され、例えば、行為者の住居の郵便受け箱に禁止等命令書等を投函することは「差し置く」行為に該当する。
また、「正当な理由」とは、宛名の誤記等のように書類の内容に瑕疵がある場合等送達を受けるべき者の責めに帰すべきでない理由がある場合が該当すると解される。
イ 郵便又は信書便による送達
禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書は、交付送達により送達することが原則であるが、交付送達により送達することができないやむを得ない事情があるときは、郵便又は信書便による送達により送達することができる。
(ア) 「交付送達により送達することができないやむを得ない事情があるとき」とは、例えば、書類の送達を受けるべき者が重篤な感染症に罹患しているために、警察職員が面会し、直接書類を交付することができない場合等が該当すると解される。
(イ) 郵便又は信書便による送達を行う場合については、その送達を受けるべき者の住所又は居所に郵便物を配達した事実が記録される手法を用いて書類の送達を受けるべき者の元に書類が確実に届くよう、送付先に留意すること。
11 公示送達
(1) 公示送達の要件(法第5条第12項)
禁止等命令書又は禁止命令等有効期間延長処分書について、その送達を受けるべき者の住所及び居所が明らかでない場合には、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分をする公安委員会は、その送達に代えて公示送達をすることができる。
「住所及び居所が明らかでない場合」とは、その送達を受けるべき者の所在を把握するための措置を尽くしたにもかかわらず、その者の所在が判明しない場合をいう。
(2) 公示送達の方法(法第5条第13項及び第14項)
公示送達は、送達すべき書類の名称、その送達を受けるべき者の氏名及び公安委員会がその書類をいつでも送達を受けるべき者に交付する旨を記載した公示送達書(別記様式第9号)を当該公安委員会の掲示板に掲示して行う。
(3) 禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分の効力の発生
 公示送達を行った場合においては、掲示を始めた日から起算して2週間を経過したときは、書類の送達があったものとみなす。
12 公安委員会への報告
禁止命令等及び禁止命令等有効期間延長処分に係る公安委員会の事務は警察本部長等に委任することが可能とされているが、当該委任がなされた場合であっても、これらの事務の元々の実施主体であり、かつ、都道府県警察を管理する立場にある公安委員会に対する適切な報告の実施の観点から、禁止命令等及び禁止命令等有効期間の延長の処分の実施状況について適宜の報告を行うこと。
第6 特定相手方情報の提供の禁止等(法第6条関係)
1 特定相手方情報の提供の禁止(法第6条第1項)
 ストーカー行為又は法第3条違反行為(以下「ストーカー行為等」という。)をする「おそれがある」とは、情報を提供すれば、その者がストーカー行為等を行うこととなる蓋然性があることをいい、法第6条第1項の違反となるためには、情報提供者において、少なくとも被提供者がストーカー行為等をすることとなる「おそれがある者」であることを未必的にせよ認識している必要があるものと解される。
「おそれがある」ことを知っていたか否かは、提供者と被提供者との関係や被提供者の日常の状況、言動等から総合的に判断することとなるが、例えば、情報提供者において、被提供者が警告や禁止命令等を受けた事実を知っている場合のほか、被提供者がストーカー行為等をする意向である旨を聞いている場合等は、「おそれがある者であることを知りながら」に該当すると解される。
また、「特定相手方情報」とは、「当該ストーカー行為の相手方に係る情報でストーカー行為等をするために必要となるもの」であり、例えば、相手方の通学先・勤務先・避難先等の情報、通勤・通学の経路、電話番号、ファックス番号、メールアドレス、SNSのアカウント名、使用車両の車両番号、駐車場所等が該当すると解される。
本規定が設けられたのは、こうした行為が法律に違反する行為であることを明確にすることにより、社会的に警鐘を鳴らすことができるといった点で有益と考えられたことによるものである。
なお、本項に違反する行為には罰則はないものの、ストーカー行為等の幇助に該当し得る場合があると考えられるほか、探偵業者が探偵業務に関し本項に違反した場合には、探偵業の業務の適正化に関する法律(平成18年法律第60号)に基づく営業停止等の行政処分の対象となり得ると考えられる。
2 相手方情報保有者等への通知等(法第6条第2項)
情報提供者が、情報提供先がストーカー行為等をするおそれがある者であることを「知らないで」情報提供を行ってしまう場合もあることを踏まえ、情報提供者に情報提供先がストーカー行為等をするおそれがある者であることを通知して、情報提供を行わないよう求めることで、同条第1項の実効性を担保するため、本項の規定が設けられたものである。
(1) 通知等の要件
警告又は禁止命令等(以下「警告等」という。)があった場合において、当該警告等に係る法第3条違反行為の相手方に係る情報を保有し、又は保有しようとしている者(以下「相手方情報保有者等」という。)が、当該警告等を受けた者であって現にストーカー行為等をするおそれがある者に対して当該相手方に係る特定相手方情報を提供するおそれがあると認められることである。
ア 「…警告等…があった場合において、当該警告等に係る第三条の規定に違反する行為の相手方に係る情報を」
本項に基づく通知等は、既に警告等がなされている場合で、当該警告等に係る法第3条違反行為の相手方に係る情報を提供しようとしている場合を対象としている。
したがって、
○ 情報提供先である行為者について警告等がなされていない場合
○ 情報提供先である行為者について警告等がなされているが、当該警告等に係る法第3条違反行為の相手方とは異なる者に係る情報の提供をしようとしている場合
等は、法第6条第2項の規定による通知及び求め(以下「通知等」という。)の対象とはならない。
イ 「情報を保有し、又は保有しようとしている者」
既に情報を保有している者に加え、「保有しようとしている者」も相手方情報保有者等に含まれていることから、依頼等を受けこれを承諾した時点や、情報を取得するため調査を行っている時点等においても通知等を行うことができる。
ウ 「当該警告等を受けた者であって現にストーカー行為等をするおそれがあるもの」
本項の規定による通知等は、「警告等があった場合において、…当該警告等を受けた者」に対して情報提供するおそれがあると認められることを要件としているが、禁止命令等の有効期間内であることは要件とされておらず、警告等があった日から○年以内といった期間の要件も定められていないため、警告等から長期間が経過していたとしても、通知等の対象となり得る。
他方で、警告等を受けた者は、当該警告等を受けた時点においては、警察本部長等又は公安委員会により、更に反復して法第3条違反行為をするおそれがあると認められた者ではあるが、時間の経過等により、ストーカー行為等をするおそれは認められなくなっている状況において、例えば、民事訴訟の提起といった正当な目的で相手方の住居等の情報の提供を弁護士等に依頼するといった場合も想定されることから、こうした場合を通知等の対象から除くため、「警告等を受けた者」であることに加え、「現にストーカー行為等をするおそれがあるもの」であることを要件としている。
「現にストーカー行為等をするおそれがあるもの」に該当するか否かは、当該警告等を受けた者の近況等や相手方への執着の程度、情報提供を依頼している状況等から判断することとなるが、警告等から間もない場合には、特段の事情のない限り、「現にストーカー行為等をするおそれがあるもの」に該当するものと解して差し支えない。
エ 「特定相手方情報を提供するおそれがあると認めるとき」
通知等に当たっては、例えば、ストーカー行為等をするおそれがある者から現に情報提供の依頼を受けているなど、当該ストーカー行為等をするおそれがある者に対して特定相手方情報を提供する蓋然性が、ある程度具体的にあると認められることが必要である。
したがって、例えば、警告等に係る法第3条違反行為の相手方の自宅の大家等については、当該相手方に係る特定相手方情報を保有しているのみで、具体的な情報提供のおそれが何ら認められない場合には、通知等の対象とはならない。
オ その他
本項に基づく通知等は、類型的に通知等を行う必要性の高い場合について、要件や方法を定め、法律上に明確に位置付けることで、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)との関係で問題なく迅速に通知等を行うことができるようにするため、令和7年の法改正により新設されたものである。
 この点、本項の要件に該当しない場合において、ストーカー行為等の相手方の情報をストーカー行為等をするおそれがある者に対して提供するおそれのある第三者に対し、情報提供先がストーカー行為等をするおそれがある者である旨を知らせることが一切許されないわけではなく、個別の事案に応じて必要性が認められ、また個人情報保護法等に照らして許容されると認められる場合には、本項に基づく通知等としてでなくとも、こうした警察から第三者への情報提供をすることはできるものと解される。
(2) 通知等の方式(規則第14条)
通知等は、規則第14条に規定する別記様式第10号の通知・要請書を交付して行う。ただし、緊急を要し通知・要請書を交付するいとまがないときは、通知・要請書に記載すべき内容を口頭で告げて、通知等を行うことができる。
通知等に際しては、以下の内容も併せて教示すること。
○ ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に対し、特定相手方情報の提供を行うことは法第6条第1項で禁止されていること。
○ 法第6条第1項に違反して情報提供をする行為は、当該情報提供を受けた者がストーカー行為等をした場合には、ストーカー規制法違反の幇助犯等として検挙される可能性があること。
○ (探偵業者に対しては)法第6条第1項に違反した場合、探偵業の業務の適正化に関する法律(平成18年法律第60号)に基づく営業停止等の行政処分の対象となり得ること。
その他の通知等の実施に係る留意事項については、第4の6(1)、(2)及び(4)と同様である。
(3) 通知・要請書の「ストーカー行為等をするおそれがある者」欄及び「ストーカー行為等の相手方」欄の記載
通知・要請書の「ストーカー行為等をするおそれがある者」欄及び「ストーカー行為等の相手方」欄には、典型的には、それぞれ、行為者又は相手方の氏名、住所等を記載することとなる。
しかし、通知等を受ける相手方情報保有者等が行為者又は相手方の氏名、住所等を把握していない場合、警察がそれらの情報を記載することは、その時点で相手方情報保有者等が把握していなかった情報を警察から伝えることとなり、行為者に対する無用の権利侵害を惹起するおそれがあることや相手方の保護の観点から不適当であるため、相手方情報保有者等が保有する情報の範囲内で、相手方情報保有者等が、それぞれ、氏名、住所その他の行為者又は相手方を特定するに足りる事項を記載すること。
具体的には、相手方情報保有者等がSNSを通じて行為者に特定相手方情報の提供を依頼され、そのSNSアカウントしか把握していない場合には、「ストーカー行為等をするおそれがある者」の欄には、例えば、「○○(SNSの名称)のアカウント名「△△」、ユーザーID「××」の者」などと記載することが考えられる。また、行為者からの依頼を契機に調査中であるが、相手方情報保有者等がいまだ相手方の氏名、住所等を把握していない場合には、「ストーカー行為等の相手方」欄には、例えば、「○年○月○日に△△(依頼者)から所在調査を依頼された「▽▽」なる女性」などと記載することが考えられる。
緊急を要する場合で口頭で通知等を行う場合についても、同様に対応すること。
第7 警察本部長等の援助等(法第7条関係)
警察本部長等が、ストーカー行為等の相手方が自ら当該ストーカー行為等に係る被害を防止しようとする努力を支援する措置を講ずるよう、本条の規定が設けられたものである。
1 援助の主体
援助の申出人等の住所には関係なく、援助を受けたい旨の申出があった場合には、当該申出に係る行為がストーカー行為等でないことが明らかなとき、又は、当該申出が相当と認められないときを除き、申出のあった警察本部長等がこれを受理して援助を行うこととなる。ただし、援助の内容によっては、特定の警察本部長等が行うことが適当な場合もあるため、このような場合は、当該特定の警察本部長等が申出を受理し、援助を行うこととする。
ただし、規則第16条第2号における「申出に係るストーカー行為等をした者の氏名及び住所その他の連絡先を教示すること」の援助を求める申出の場合は、当該申出に係るストーカー行為等について警告や禁止命令等の申出、被害の届出等を受けている警察本部長等があれば当該警察本部長等が、同条第7号における「申出に係るストーカー行為等について警告、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を実施したことを明らかにする書面を交付すること」の援助を求める申出の場合は、当該申出に係る警告、禁止命令等若しくは禁止命令等有効期間延長処分を行った、又は、禁止命令等若しくは禁止命令等有効期間延長処分に関する事務を処理した警察本部長等が申出を受理することとする。
2 援助の要件
ストーカー行為等の相手方から援助を受けたい旨の申出があり、その申出が相当と認められることである。
申出の受理は、規則第15条に規定する別記様式第11号の援助申出書の提出を受けることにより行われる。
「申出を相当と認めるとき」とは、援助の規定が設けられた趣旨に照らし、当該申出を求める理由、内容が適当であると認められるときと解される。すなわち、当該申出に係る行為がストーカー行為等でないことが明らかなもの、又は行為者に対して仕返しするなどの援助の規定を悪用しようというものは、相当と認められないこととなる。
平成29年の規則改正における援助申出書の簡素化により、当該書面にはストーカー行為等をした者の行為の態様等を記載することを要しなくなったことから、援助の相当性を判断するに当たって必要な事項については、申出人から聴取の上、事情聴取書に記載すること。
3 援助の内容
援助の内容は、次のとおりである。
(1) ストーカー行為等に係る被害を自ら防止するための措置の教示(法第7条第1項)
(2) 申出に係るストーカー行為等をした者に対し、当該申出をした者が当該ストーカー行為等に係る被害を防止するための交渉(以下「被害防止交渉」という。)を円滑に行うために必要な事項を連絡すること(規則第16条第1号)
(3) 申出に係るストーカー行為等をした者の氏名及び住所その他の連絡先を教示すること(同条第2号)
(4) 被害防止交渉を行う際の心構え、交渉方法その他の被害防止交渉に関する事項について助言すること(同条第3号)
(5) ストーカー行為等に係る被害の防止に関する活動を行っている民間の団体その他の組織がある場合にあっては、当該組織を紹介すること(同条第4号)
(6) 被害防止交渉を行う場所として警察施設を利用させること(同条第5号)
(7) 防犯ブザーその他ストーカー行為等に係る被害の防止に資する物品の教示又は貸出しをすること(同条第6号)
(8) 申出に係るストーカー行為等について警告、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を実施したことを明らかにする書面を交付すること(同条第7号)
(9) その他申出に係るストーカー行為等に係る被害を自ら防止するために適当と認める援助を行うこと(同条第8号)
4 援助の実施
(1) 援助の対象は、ストーカー行為等の相手方であるが、次の援助を受けたい旨の申出があった場合には、申出に係る行為が明らかにストーカー行為等に該当しない場合を除き、援助を行うこと。
○ 被害を自ら防止するための措置の教示(法第7条第1項)
○ 被害防止交渉を行う際の心構え、交渉方法その他の被害防止交渉に関する事項について助言すること(規則第16条第3号)
○ ストーカー行為等に係る被害の防止に関する活動を行っている民間の団体その他の組織がある場合にあっては、当該組織を紹介すること(同条第4号)
○ 防犯ブザーその他ストーカー行為等に係る被害の防止に資する物品の教示又は貸出しをすること(同条第6号)
○ その他申出に係るストーカー行為等に係る被害を自ら防止するために適当と認める援助を行うこと(同条第8号。ただし、弁護士、医師の紹介等その場で対応できるものに限る。)
(2) 被害防止交渉を行う場所として警察施設を利用させる場合(同条第5号)には、その場に第三者を立ち会わせるとともに、緊急の場合に対応できるよう警察職員を待機させること。申出人が第三者を立ち会わせることができない場合は、両当事者の了解を得て警察職員を立ち会わせること。
(3) 警告、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を実施したことを明らかにする書面の交付(同条第7号)については、行政措置実施証明書により行うこと。また、当該書面については、ストーカー行為等の相手方が関係行政機関や事業者等に被害防止措置を要請する際に、自らがストーカー行為等の相手方であることを明らかにすることで迅速な協力を得られるようにするためのものであることを踏まえ、特段の必要のない限り、警告、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を受けた者の氏名、住所等の人定事項を記載しないこと。
5 関係行政機関等との連携(法第7条第2項)
警察本部長等が援助を行うに当たって、関係行政機関又は関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならないこととされている。
関係行政機関又は関係のある公私の団体とは、ストーカー行為等の相手方に対する支援活動を行っている機関その他の被害防止に資する活動を行っている機関、団体である。ストーカー行為等の相手方に対する被害を防止するためには、警察による活動だけでは限界があることから、相手方に対する適切な支援を行うため、これらの機関等との連携強化に努めること。
6 警察本部長等によるその他の措置(法第7条第3項)
援助のほか、事案に応じてストーカー行為等に係る被害を防止するための措置を講ずるよう努めなければならないこととされている。
すなわち、具体的な事案に応じて、ストーカー行為等の相手方に対する防犯指導、パトロール強化等の警戒措置等の必要な措置を講ずるものとする。
第8 国、地方公共団体等の責務
法第8条から第12条においては、国、地方公共団体等の責務に関する規定が設けられている。
これらの規定を踏まえ、警察においても、引き続き、ストーカー行為等の相手方等の安全確保及び秘密の保持(個人情報の管理)の徹底、関係者への必要な研修及び啓発の実施並びに相手方の避難に当たっての支援のほか、ストーカー行為等の防止及びその相手方の保護等に資するための各種措置に努めるとともに、これらの措置を講ずるに当たっては、地方公共団体、女性相談支援センター、日本司法支援センター(法テラス)、保護観察所、学校、医療機関、NPO等の関係機関・団体との緊密な連携に配意すること。
1 職務関係者による配慮等(法第8条関係)
ストーカー事案における行為者は、相手方に対する強い執着心や支配意識を持ち、様々な手段を用いて相手方の住所等に関する情報を入手し、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等を行う傾向にある中で、行為者が第三者から相手方の個人情報を取得するケースも多くあり、その結果、重大事件に発展する事例も見られる。
これを踏まえ、ストーカー行為等の相手方の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者による相手方の安全の確保と秘密の保持への配慮等に係る責務を明確化するため、本条の規定が設けられたものである。
(1) 職務関係者による配慮(第1項)
「職務関係者」とは、職務としてストーカー行為等の相手方の身辺の安全の確保と秘密の保持を図るべき立場にある者をいい、具体的には、ストーカー事案に携わる警察官・検察官・裁判官、女性相談支援センターの職員及び相手方からの支援措置の申出を受けるなどして相談に対応する行政機関の職員等が考えられる。
(2) 職務関係者に対する必要な研修及び啓発(第2項)
「必要な研修及び啓発」とは、国及び地方公共団体が、ストーカー行為等の相手方の保護の観点から、職務関係者に対して、相談の聴取方法、執り得る支援措置、ストーカー事案の特徴・危険性、自己防衛手段、早期の相談の必要性等についての理解を深めるための研修を実施したり、マニュアルの整備を行うことなどが考えられる。
(3) 個人情報の管理に係る必要な措置(第3項)
「国及び地方公共団体等」の「等」とは、国と地方公共団体以外の者として、日本年金機構、UR(独立行政法人都市再生機構)等、職務関係者以外であって個人情報を保有している公的な組織が想定されている。また、「個人情報」については、ストーカー行為等をするのに必要となる相手方の個人情報を想定しており、具体的には、氏名、住所、電話番号、メールアドレスが該当すると解される。
「ストーカー行為等の防止のために必要な措置」とは、行為者に対してストーカー行為等の相手方の個人情報が伝わらないようにするための措置をいい、具体的には、地方公共団体が、相手方の申出を受けて行為者に対する住民基本台帳の閲覧防止等の措置を講ずる際に、住民票交付に使用する端末に閲覧防止措置の対象者に係る警告が表示されるようにシステムを構築すること等が該当すると解される。
2 国、地方公共団体、関係事業者等の支援(法第9条関係)
ストーカー事案においては、ストーカー行為等の相手方に危害が及ぶことを避けるために、安全な場所への避難のための措置を講じなければならない場合があることを踏まえ、国、地方公共団体、関係事業者等の相手方への支援に係る責務を明確にするため、本条の規定が設けられたものである。
(1) 国、地方公共団体(法第9条第1項)
国及び地方公共団体は、ストーカー行為等の相手方に対する女性相談支援センターその他の施設による支援、民間の施設における滞在についての支援及び公的賃貸住宅への入居についての配慮に努めなければならないとされている。
「民間の施設における滞在についての支援」とは、具体的には、危険性・切迫性の高いストーカー事案の相手方がホテル等の宿泊施設へ一時避難する際の費用を公費で負担する措置等が考えられる。また、「公的賃貸住宅への入居についての配慮」とは、具体的には、長期的な避難が必要な相手方を地方公共団体が整備する公営住宅等の公的賃貸住宅へ優先的に入居させること等が考えられる。
(2) 関係事業者(法第9条第2項)
ストーカー行為等に係る役務の提供を行った関係事業者は、当該ストーカー行為等の相手方からの求めに応じて当該ストーカー行為等が行われることを防止するための措置を講ずること等に努めるものとされている。具体的な措置を講ずることを義務付けるものではないが、関係事業者は、相手方からの求めに応じて可能な範囲で必要な措置を講じていくべきものと解される。
(3) 地域住民並びにストーカー行為等の相手方を雇用する者及び当該相手方が就学する学校の長(法第9条第3項)
ストーカー行為等が行われている地域の住民並びに当該ストーカー行為等の相手方を雇用する者及び当該相手方が就学する学校の長は、当該ストーカー行為等の相手方に対する援助に努めるものとされている。
(2)同様、具体的な措置を義務付けるものではないが、相手方の安全確保を図る観点から、上記の者との的確な連携を図り、相手方の被害認知時や緊急時に速やかに警察へ通報することや、助けを求める相手方を警察に引き継ぐまで一時的に保護すること等の援助が積極的に得られるよう周知すること。
3 調査研究の推進(法第10条関係)
  ストーカー事案においては、検挙等をされてもストーカー行為等を止めない行為者が存在することから、そういった行為者に対するカウンセリングや治療といった精神医学的・心理学的手法についての調査研究を推進する必要性が指摘されているほか、ストーカー行為等の相手方についても、強い不安や恐怖にさらされているため、心のケアができる体制を構築する必要性が指摘されている。これを踏まえ、ストーカー行為等をした者を更生させるための方法、相手方の心身の健康を回復させるための方法等に関する調査研究の推進に係る国及び地方公共団体の責務を明確にするため、本条の規定が設けられたものである。
4 ストーカー行為等の防止等に資するためのその他の措置(法第11条関係)
  ストーカー行為等の防止及びストーカー行為等の相手方の保護を図るためには、個別の事案ごとに、行為者の検挙措置、相手方の保護等の措置を的確に行うことも重要であるが、国や地方公共団体が、平素から、担当する職員の養成及び資質の向上を図るとともに、当該行為等の実態を把握した上で、ストーカー行為等に係る知識の普及・啓発、民間の自主的な組織団体との連携強化を図り、社会でストーカー行為等を防止し、ストーカー行為等の相手方を保護するための環境整備を図ることも重要である。
これを踏まえ、ストーカー行為等の防止及びストーカー行為等の相手方の保護に資するための措置に係る国及び地方公共団体の責務を明確にするため、本条の規定が設けられたものである。
(1) ストーカー行為等の実態の把握(第1号)
「ストーカー行為等の実態の把握」とは、警察、地方公共団体、女性相談支援センター、学校等において、インターネットの普及やコミュニケーションツールの変化といった最近の社会情勢を踏まえた被害実態等を把握すること等が考えられる。
(2) 人材の養成及び資質の向上(第2号)
「人材の養成及び資質の向上」とは、ストーカー行為等の防止及びストーカー行為等の相手方の保護に資するよう、相手方からの相談を受け得る様々な機関において、研修やマニュアル等の充実を図ること等が考えられる。
(3) 教育活動、広報活動等を通じた知識の普及及び啓発(第3号)
「教育活動、広報活動等を通じた知識の普及及び啓発」とは、国及び地方公共団体において、ストーカー行為等の具体例、ストーカー行為等の被害を受けた場合の対処方法、相談窓口・支援機関等について周知することのほか、教育現場において、インターネットを利用したコミュニケーションの留意事項、適切な人間関係の育み方等、ストーカー行為等の被害者にも加害者にもならないための具体的な教育を行うこと等が考えられる。
(4) 民間の自主的な組織活動との連携協力及びその支援(第4号)
国及び地方公共団体は、民間の自主的な組織活動との連携協力及びその支援に努めることとされている。
5 支援等を図るための措置(法第12条関係)
国及び地方公共団体は、2の(1)、3及び4の支援等を図るため、必要な体制の整備、民間の自主的な組織活動の支援に係る施策を実施するために必要な財政上の措置その他必要な措置を講ずることが必要であることを踏まえ、本条の規定が設けられたものである。
「その他必要な措置」とは、例えば、法第9条第1項の支援(ストーカー行為等の相手方に対する女性相談支援センターその他適切な施設による支援等)を適切に実施するためのマニュアルの整備等が考えられる。
第9 報告徴収等(法第13条関係)
警告、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を実施するために必要な報告徴収の規定が設けられている。
報告等を求める相手方は、法第3条違反行為をしたと認められる者その他の関係者である。その他の関係者とは、法第3条違反行為等に関する事実、背景等を知っている者、当該法第3条違反行為の実行に関係した者等と解される。
法第13条の規定により報告等を求められた者は、原則として報告すべき義務を負うものと解されるが、当該義務の履行を強制する方法はない。
調査に当たって本規定の趣旨を説明して関係者に迅速な報告等を求めるなど、適時的確な警告又は禁止命令等の実施に向け、本規定の効果的な活用を図ること。
第10 禁止命令等を行う公安委員会等(法第14条関係)
1 管轄権の所在
第4の1及び第5の1のとおり、禁止命令等及び聴聞をすることのできる公安委員会又は警告をすることのできる警察本部長等は、事案関係地を管轄する公安委員会又は警察本部長等(以下「公安委員会等」という。)とされている。
(1) 「住所」とは、人が生活の本拠とする場所のことをいうと解される(民法(明治29年法律第89号)第22条)。
また、「居所」とは、人が多少継続して居住している場所であるが、その場所とその人との生活の結びつきが住所ほど密接でないものをいうと解される。
(2) 禁止命令等又は警告に係る法第3条違反行為の相手方の「居所」については、特段の事情のない限り当該者が居所として申告したものをもって「居所」として取り扱うこととして差し支えない。
(3) 行為者の住所については、当該行為者やその関係者からの聴取等により生活の本拠とする場所を特定すること。
 「住所が日本国内にないとき」とは、生活の本拠が日本国外にある場合又は日本国内外いずれにもない場合をいい、例えば、海外で生活している行為者が、一時的に日本にいる相手方の元に押し掛けるような場合が考えられる。「住所が知れないとき」とは、住所がどこであるのか、警察の調査によっても確知できない場合をいい、例えば行為者が知人宅等を転々とし、生活の本拠とする場所が一に特定できないような場合が考えられる。
(4) 「当該行為が行われた地」とは、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等であって、相手方に不安を覚えさせると認められる行為を行った地である。待ち伏せる、押し掛ける、著しく粗野又は乱暴な言動をするなどの場合は当該行為を行った地、汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させる物等を送付した場合は当該物品を行為者が送付するための行為を行った地、電話をかける、電子メール等を送信するなどの場合は、当該電話をかけ、電子メール等を送信するための行為を行った地であると解される。
(5) 禁止命令等又は警告に係る法第3条違反行為の相手方の「現在の住所若しくは居所」の所在地を管轄する公安委員会等とは、禁止命令等又は警告をする時点における住所又は居所の所在地を管轄する公安委員会等を指すため、相手方が、当該法第3条違反行為に関して警察に相談した後、警察が禁止命令等又は警告に係る所要の調査・手続を行っている間に住所又は居所を当該公安委員会等の管轄区域外に移転した場合には、他の事案関係地を引き続き管轄している場合を除き、当該公安委員会等は禁止命令等又は警告の権限を失うこととなる。
 したがって、特に相手方の現在の住所又は居所の所在地を管轄することのみを根拠に禁止命令等又は警告を実施する際は、把握している住所又は居所から変更はないか確実に相手方に対して確認をすること。
また、行為者に関しては、住所が日本国内にないとき又は住所が知れないときに限り居所の所在地を管轄する公安委員会等が禁止命令等又は警告の主体となるため、行為者の住所が判明すれば、居所の所在地を管轄する公安委員会等は禁止命令等又は警告を行うことができないものと解される。そのため、行為者の居所の所在地を管轄する公安委員会等が禁止命令等又は警告等を実施する場合には、この点に留意すること。
2 事案に関する情報の共有
 一の事案に関し、禁止命令等又は警告について管轄権を有する公安委員会等がそれぞれ複数存在することが考えられることから、申出を受けた都道府県警察は、当該事案における事案関係地を把握し、速やかに管轄権を有する都道府県警察と情報を共有すること。
 また、事案関係地の変更や追加があった場合には、これらの情報を認知した警察本部は、その連絡担当者を介し、他の関係する警察本部の連絡担当者全員に対し、速やかにその旨を連絡して情報の共有を図ること。
3 禁止命令等を行う公安委員会等の決定
(1) 一の事案について禁止命令等又は警告をする必要が認められた場合において、事案関係地を管轄する公安委員会等が複数存在するときは、禁止命令等又は警告に係る法第3条違反行為の相手方の意思、相手方等の安全確保、事後の調査・捜査の効率的遂行、行為者の特性等を踏まえ、事案関係地が複数都道府県に所在する場合には関係都道府県警察間で調整を図り、相手方の保護に最も資するのはどこかという観点から当該事案に係る禁止命令等又は警告を行うべき公安委員会等を決定すること。 
管轄権を有する複数の公安委員会等のうち一の公安委員会等が禁止命令等又は警告の申出を受けている場合、当該申出を受けた公安委員会等が禁止命令等又は警告を行うことを原則とするが、このような場合であっても、上述の各種事情を踏まえて禁止命令等又は警告を行うべき公安委員会等を決定すること。
(2) (1)に基づく決定がなされた後であっても管轄権を有する公安委員会等に変更・追加が生じたときはその都度、禁止命令等又は警告を行うべき公安委員会等を変更する必要があるかについて、関係都道府県警察間で調整を図り、変更の必要があると認められる場合には、禁止命令等又は警告を行うべき公安委員会等を新たに決定すること。
(3) (1)及び(2)の結果、禁止命令等又は警告の申出を受けていない公安委員会等が当該申出に係る事案について禁止命令等又は警告を行うべきこととなった場合には、申出人に再度禁止命令等又は警告の申出を行わせることなく、当該申出を受理した公安委員会等が当該申出に係る禁止命令等申出書又は警告申出書(以下単に「申出書」という。)及び関係書類等を、関係資料送付書(別記様式第10号)により、禁止命令等又は警告を行うこととなった公安委員会等に送付することとし、当該送付を受けたことによって当該公安委員会等は当該申出人から禁止命令等又は警告の申出があったものと扱うこととする。
この場合、禁止命令等又は警告の申出を受理した公安委員会等は、申出人にその旨連絡し、申出書等の送付を受けた公安委員会等は、当該申出書に受理番号を付すなどの受理手続を行うこと。
4 申出の受理に当たっての留意点
(1) 事案関係地を管轄しない警察署に警告の申出があった場合であっても、当該警察署の属する都道府県警察の警視総監又は道府県警察本部長(以下「警察本部長」という。)が法第14条第3項の警察本部長等であるときは、当該警察署において警察本部長の名により申出を受理し、当該申出に係る事案の概要等を考慮して、人身安全・少年課の調整により申出に係る事案を処理するのに適切な所属に引き継ぐこと。
(2) 事案関係地を管轄しない公安委員会等に禁止命令等又は警告の申出があった場合は、当該申出に係る事案関係地を管轄する都道府県警察と連携し、例えば、申出人の同意の下に禁止命令等又は警告を行うべき公安委員会等に代わって事情聴取を行うなど申出人の負担に配意した適切な対応を取ること。
5 禁止命令等又は警告を行った際の留意点
禁止命令等又は警告が重複して行われることを防ぐため、事案関係地が複数の都道府県にわたる事案について公安委員会等が禁止命令等又は警告を行った場合には、事案関係地を管轄する都道府県警察に対し、速やかにその旨を連絡すること。
6 申出人等の住所等の移転に伴う対応
(1) 住所又は居所の移転に関する届出(規則第6条)
 禁止命令等又は警告の申出をした者は、警察署の管轄区域を異にして住所又は居所を移転しようとするときは、移転後の住所又は居所を、現在の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に届け出なければならないこととされている。届出の方法は口頭等でもよい。申出人の保護のためには住所及び居所の確実な把握が肝要であることについて、申出人に説明を尽くすとともに、申出人が、当該移転前に、第5の9の禁止命令等に係る通知又は第4の9の警告に係る通知を受けた場合には、届出は要さないことについても説明すること。
(2) 住所又は居所の移転に関する通知(規則第7条)
ア 警察本部長は、規則第6条の届出をした者がその住所又は居所を他の都道府県警察の管轄区域内に移転したときは、速やかに、当該届出をした者の氏名、住所及び居所を当該他の都道府県警察の警察本部長に通知することとされている。
イ このほか、規則第7条の規定による通知の対象とはなっていない場合、例えば、
○ 行為者が住所又は居所を移転したことを把握した場合
○ 職権により禁止命令等又は警告の準備をしている間に、当該禁止命令等又は警告に係る法第3条違反行為の相手方が住所又居所を移転したことを把握した場合
○ 申出人が規則第6条の届出をしていなかったが、当該届出以外で住所又は居所を移転したことを把握した場合
等についても、相手方の保護等のため、「人身安全関連事案連絡票」(人身安全関連事案への対処に係る留意事項について(令和8年1月23日付け達(少対、刑総、捜一)第27号)別添1)を活用するなどして、相手方又は行為者の住所等の移転の情報を移転先の警察本部長に確実に通知すること。
第11 都道府県公安委員会の権限に属する事務の委任(法第17条関係)
1 法第17条の趣旨
禁止命令等は、その相手方に対して一定の作為・不作為義務を課すものであり、その実効性が罰則で担保されているため、その手続に慎重を期する必要があることから、公安委員会がその発出主体とされている。
一方、ストーカー事案については、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが高いものが含まれており、迅速な対応が必要となるところ、禁止命令等を公安委員会が行う場合には、その決定を得る手続に相応の時間を要することから、その迅速かつ効果的な発出が求められている。
法第17条の規定は、慎重な手続の確保と迅速な命令の発出という2つの重要な要請を調和させる観点から、禁止命令等を始めとする公安委員会の事務を、公安委員会の判断により、警察本部長又は警察署長に行わせることができるようにしたものである。
2 法第17条の内容
第17条の規定による委任の対象となる事務としては、
○ 禁止命令等(法第5条第1項)
○ 禁止命令等を行う際の聴聞(同条第2項)
○ 緊急時の禁止命令等(同条第3項)
○ 緊急時の禁止命令等を行った際の意見の聴取(同条第4項)
○ 禁止命令等有効期間延長処分(同条第9項)
○ 禁止命令等有効期間延長処分を行う際の聴聞(同条第10項)
等が挙げられるところ、公安委員会が法第17条によりこれらの事務を委任する場合には、それぞれの事務ごとに、その委任先を、警察本部長と警察署長の両方、あるいは、いずれか一方とすることが可能となる。
公安委員会は、委任にあたっては、都道府県公安委員会規則等の法形式による委任行為を行うこと。
3 委任についての基本的な考え方
公安委員会がその権限に属する事務を委任するに当たっては、法第17条の規定の趣旨を踏まえ、以下を基本とすること。
(1) 通常時の禁止命令等関係
通常時の禁止命令等については、慎重な手続の確保と迅速な命令発出の調和を図る観点から、県下のストーカー事案に一元的に対応するため警察本部長が行うこととすること。また、その場合には、その事前手続である聴聞についても、警察本部長が行うこととすること。
(2) 緊急時の禁止命令等関係
緊急時の禁止命令等については、緊急の必要がある場合に行われるもので、より迅速な発出を期する必要があるため、ストーカー行為等の相手方からの相談を受理する部署の責任者が行うことが適当であることを踏まえ、警察本部長及び警察署長が行うこととすること。この点、相手方の現在の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長名で緊急時の禁止命令等を発出しようとする場合には、相手方の住所及び居所が推察されるおそれがあることに十分留意してその是非を判断すること。
また、緊急時の禁止命令等を警察本部長と警察署長のどちらが行う場合であっても、その事後手続である意見の聴取については、警察本部長は、警察署長を指揮監督する立場として県下のストーカー事案に一元的に対応し、仮に緊急時の禁止命令等が不当なものと認められる場合には、警察本部長は警察署長を指揮監督し、当該命令を撤回させることができることを踏まえ、警察本部長が行うこととすること。
(3) 禁止命令等有効期間延長処分関係
禁止命令等有効期間延長処分については、罰則で担保された通常時の禁止命令等及び緊急時の禁止命令等の効力を延長する重要なものであるとともに、対象となる命令の件数が継続事案の蓄積により、年々増加することが予想されることから、能率的な運用を図る必要があるため、警察本部長が行うこととすること。また、その場合には、その事前手続である聴聞についても、警察本部長が行うこととすること。
(4) その他
通常時の禁止命令等、緊急時の禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分の申出があった場合における申出人への通知(法第5条第6項、第7項及び第10項)やこれらの処分をするに当たって行う報告徴収等(法第13条第2項)の事務については、それぞれの処分の実施主体が行うこととすること。
第12 罰則
1 ストーカー行為罪(法第18条関係)
ストーカー行為をした者は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処せられる。
本罪については、法制定時は親告罪であったものの、被害者の利益という観点からは、加害者を処罰するかどうかが被害者本人の意思に委ねられることにより、かえって被害者を、加害者の怨恨感情の矢面に立たせ、被害を受けて不安を感じながら生活する被害者に対し、告訴という重大な判断も求め、精神的負担をかけているという現状があること、また、ストーカー事案の被害者の中には、加害者が身近な人物であるなどの理由から、告訴を躊躇する者もおり、当該被害者が逡巡している間に告訴期間(犯人を知った日から6か月)が経過してしまい、告訴ができなくなる事案もあることなどから、非親告罪とされたものである。
親告罪ではなくなったが、引き続き、被害者の意思を十分確認しつつ、事案の危険性・切迫性を勘案した上で捜査を進めることが肝要である。
2 禁止命令等違反罪(法第19条及び第20条関係)
禁止命令等違反の認定に当たっては、当該違反に係る行為が禁止命令等の原因となった行為の反復であると評価できる場合に禁止命令等違反を認定すること。
(1) 法第19条第1項
 禁止命令等(法第5条第1項第1号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金に処せられる。
 禁止命令等に違反してストーカー行為を行った場合であるから、禁止命令等を受けた者が、当該禁止命令等を受けた後に反復して当該禁止命令等に係るつきまとい等又は位置情報無承諾取得等を行った場合の罰則である。
(2) 法第19条第2項
 禁止命令等に違反してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をすることにより、ストーカー行為をした者は、2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金に処せられる。
 禁止命令等に違反してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等を行った場合において、当該禁止命令等の対象となった行為と命令違反の行為を通じて評価すると、結果としてストーカー行為が成立している場合の罰則である。
(3) 法第20条
 禁止命令等に違反した者は、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられる。
 「前条に規定するもののほか」とは、法第19条が適用される場合には同一事実について併せて本条を適用することができないことを示すものであって、法第19条に該当する事実について、同条ではなく本条を適用することを妨げるものではないものと解される。
第13 行政措置と捜査との関係
  ストーカー事案を始めとする恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の特徴は、警察が認知した時点においては、暴行、脅迫等外形上は比較的軽微な罪状しか認められない場合であっても、人質立てこもり事件や誘拐事件と同様に、正に現在進行形の事件であり、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいことに加えて、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強く、また、被害者やその親族等に対して強い殺意を有するに至っている場合、検挙される危険性を考慮することなく大胆な犯行に及ぶことがあるところにある。
そのため、「人身安全関連事案への対処体制等について(通達)」(令和7年9月4日付け警察庁丙人少発第28号ほか)にも示されているとおり、この種事案の加害者に対しては、警告等の行政措置が犯行を阻止するのに十分な有効性を持たない場合もあることから、こうした措置を優先する考え方を排除し、例えば、被害者に対する脅迫文言等を捉えて速やかに検挙するなど、被害者等に危害が加えられる危険性・切迫性に応じて第一義的に検挙等による加害行為の防止を図ること。
また、被害者に被害の届出の意思がない場合であっても、過去の事例から被害者のみならず親族等にまで生命の危険が及び得ることを十分に説明した上で、被害者等に被害の届出の働き掛け及び説得を行い、説得等にもかかわらず被害の届出をしない場合であっても、当事者双方の関係を考慮した上で、必要性が認められ、かつ、客観証拠及び逮捕の理由がある場合には、加害者の逮捕を始めとした強制捜査を行うことを積極的に検討すること。その際、適時的確な事案対処に向け、刑法やストーカー規制法に限らず、いわゆる迷惑防止条例や特別法を含め、あらゆる法令の活用に留意すること。
なお、警告等は、現に被害者に生じている不安を早期に解消することを目的としており、刑事罰とはその目的を異にするものであることから、犯罪捜査(ストーカー規制法違反に係る捜査を含む。)と並行して警告等を行うこと(又はその逆)は当然に可能である点にも留意すること。
第14 適用上の留意事項
1 法の適切な運用(法第21条)
法の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならないこととされている。法第2条第1項各号の行為の中には、日常生活において容易に行われやすいものも含まれており、法の運用いかんによっては人権侵害との非難を受けるおそれがあるため、法の適切な運用に留意すること。
なお、同一事案について警告及び禁止命令等が行われることを避けるほか、法の運用を効率的に行うため、警告及び禁止命令等の申出の受理、警告及び禁止命令等の実施状況等の法の運用に関する情報を、人身安全・少年課において一元管理すること。
2 個人情報の適切な取扱い
ストーカー行為者は相手方に強い執着心と支配意識を抱いていることが多く、相手方が住所等を変えた場合には、当該場所を探し出そうとする傾向にある。事案対応を通じて警察には多くの個人情報が保有されているが、相手方の氏名、住所及び居所については、相手方の生命・身体を保護する上で特に重要な個人情報であることを認識し、書類への記載はもとより、言動等においても相手方に係る情報等の扱いには十分留意すること。

ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(依命通達)

令和8年3月23日 達(人少)第174号