○取調べの一層の高度化・適正化の推進について(通達)

令和8年4月27日

達(刑総)第262号

[原議保存期間 5年(令和14年3月31日まで)]

[有効期間 令和14年3月31日まで]

みだしのことについて、次のとおり定め、令和8年4月27日から実施することとしたので、適正な運用を図り業務上遺漏のないようにされたい。

なお、取調べの一層の高度化・適正化の推進について(令和3年3月12日付け達(刑総)第69号。以下「旧通達」という。)は、廃止する。

記

1 趣旨

取調べの高度化・適正化については、旧通達により推進してきたところであるが、今般、取調べ指導官の指導・教養のあり方、被疑者取調べに係る承認、相手方の特性に応じた取調べ等一部内容を改め、引き続き、取調べの高度化・適正化に向けた取組を実施するものである。

2 取調べ指導官の設置等

(1) 取調べ指導官の設置

取調べに係る指導・教養等の司令塔として、刑事総務課に取調べ指導官を置き、同課指導官の職にある者をもって充てる。

(2) 取調べ指導官の任務

取調べ指導官は、次に掲げる任務を行うものとする。

ア 取調べの高度化・適正化を図るための指導・教養等の実施に関すること。

イ 事件の取調べに従事する警察官(以下「取調べ官等」という。)が取調べの相手方の年齢、性別その他の特性等に応じて必要な供述を適正かつ効果的に得ることができるよう、その取調べに際し、必要に応じた助言を行うこと。

(3) 取調べの指導・教養担当者の設置

取調べ指導官の下に、取調べの高度化・適正化を図るための指導・教養等を担当する課長補佐と係長を置き、当該指導・教養等について部門間の垣根を越え体系的かつ統一的に行う。

(4) 取調べ指導官の運用

ア 取調べの高度化・適正化を図るための指導・教養

(ア) 指導・教養の重点

取調べ指導官は、取調べに関する研修・訓練において、取調べに係る基本的知識及び技能はもとより、取調べの適正を確保しつつ、必要な供述を得るための効果的な質問や説得の方法、虚偽の供述が生まれるメカニズムとこれを防止するための方策をはじめとする心理学的な手法等の指導・教養を重点的に行うこと。

(イ) 実践的な指導・教養の実施

取調べ指導官は、上記(ア)において、相手方の年齢、性別その他の特性等に応じて必要な供述を適正かつ効果的に得るための質問、説得等の方法について、ケース・スタディをはじめとする実践的な指導・教養を行うこと。

(ウ) 効果的事例等の収集

取調べ指導官は、上記(イ)の指導・教養を的確に実施することができるよう、次に掲げるような、取調べの高度化・適正化を図る上で参考となり得ると認める事例について、その事件の捜査が終結したとき等の適切な時点において、必要事項の報告を求めて収集すること。

a 取調べ官の質問や説得が奏効して、相手方から必要な供述が得られたなどの事例

b 取調べ官が相手方との間に信頼関係を構築できなかったなどの事例

c 変遷などにより相手方の供述の任意性・信用性に疑義が生じた(又は生じる可能性のある)事例

d 精神又は身体に障害のある被疑者の取調べ事例

e dのほか、その取扱いに特に配慮を要する被疑者の取調べ事例

イ 取調べの高度化・適正化を図るための助言

(ア) 捜査主任官に対する助言の実施

取調べ指導官は、捜査主任官から、事件の取調べに関し、当該相手方の年齢、性別その他の特性等に応じて必要な供述を適正かつ効果的に得るための質問、説得等の方法について助言を求められた場合には、必要な助言を行うこと。

なお、当該相手方が精神又は身体に障害を有する者の場合には、その特性や障害の程度等に応じ、取調べを行う時間や場所等についての必要な配慮や適切な取調べ方法についても、必要な助言を行うこと。

(イ) 取調べに当たり特に配慮を要する被疑者に対する措置

捜査主任官は、上記アの(ウ)d及びeに掲げる者の取調べに際しては、上記(ア)の助言を求めるよう積極的に検討すること。

(ウ) 助言を受けた捜査主任官の措置

捜査主任官は、上記(ア)の助言を受けた場合には、当該相手方の取調べ官等に対し、必要な指導・教養を行うこと。

ウ 必要な知識の研鑽等

取調べ指導官は、取調べの適正を確保しつつ、必要な供述を得るための効果的な質問や説得の方法、虚偽の供述が生まれるメカニズムとこれを防止するための方策をはじめとする心理学的な手法等の研鑽に努めるとともに、必要に応じ、医師等の専門的な知見を有する者との連携にも配意すること。

3 被疑者取調べに係る承認

(1) 関係規定

「取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。この場合において、午後10時から午前5時までの間に、又は1日につき8時間を超えて、被疑者の取調べを行うときは、警察本部長又は警察署長の承認を受けなければならない。」(犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号。以下「規範」という。)第168条第3項)

(2) 留意事項

ア 承認に際して考慮すべき事項

本部長又は署長が承認を行うに当たっては、個別の事案ごとに、事案の概要、取調べ状況、供述状況、捜査の見通し、被疑者の事情等を総合的に勘案して判断した上で、具体的な指揮を行うこと。

なお、もとより、被疑者取調べについては、やむを得ない場合を除き、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならないことに一層留意する必要がある。

イ 事前の承認

本部長又は署長の承認が捜査指揮の一環として行われるものである以上、あらかじめ承認を得ることが原則である。

ウ 事前の承認を要しない場合

次に掲げるとおり、事前の承認を得ることが困難であるなど事後の承認を得ることとして差し支えない場合も存するところ、そのような場合には、個別具体的な状況に照らし、適切に判断することとされたい。

なお、事後の承認は、これを速やかに受けること。

(ア) 誘拐事件、逮捕監禁事件等、個人の生命及び身体に対する急迫不正の侵害の存在が合理的に推認される場合において、午後10時から翌日の午前5時までの間に被疑者取調べを行うとき、又は1日につき8時間を超えて被疑者取調べを行うとき。

(イ) 午後10時(近接する直前の時間を含む。)から翌日の午前5時までの間に被疑者が判明した事件(事件の発生自体は当該時間帯以前に認知していた場合を含み、職務質問が先行して行われる場合には、当該職務質問の開始時刻は問わない。)について被疑者を任意同行し、又は現行犯逮捕し、緊急逮捕し若しくは逮捕状を緊急執行して、被疑者取調べを行うとき。

(ウ) 午後10時(近接する直前の時間を含む。)から翌日の午前5時までの間に、追跡中(逮捕状の有無を問わない。)の被疑者(当該被疑者の人定事項が判明しているときに限る。)の身柄を確保して(職務質問が先行して行われる場合には、当該職務質問の開始時刻は問わない。)、被疑者取調べを行うとき。

エ 承認の専決

本部長指揮事件については本部事件主管課長が、署長指揮事件については副署長等が専決することができるものとする。ただし、事案の内容、社会的反響、捜査の進捗状況等を勘案の上、必要に応じて本部長又は署長の指揮を受けること。

オ 承認を受けた場合の記録

本部長又は署長の承認を受けた場合(専決により事前承認を受けた場合を含む。)は、その旨、承認を受けた日時、深夜に又は長時間にわたり取調べを行うことがやむを得ない理由及び指揮事項を事件指揮簿その他適当な書面に記録しておくこと。また、上記ウに該当する場合は、その旨を当該書面に明らかにしておくこと。

カ 未承認の取調べに係る報告

上記ウに該当する場合でないにもかかわらず、事前の承認を得ることなく被疑者取調べが行われた事案が発生したときには、刑事総務課に対し、所要の報告を行うこと。

4 相手方の特性に応じた取調べ

(1) 関係規定

ア 「取調べを行うに当たっては、事前に相手方の年令、性別、境遇、性格等を把握するように努めなければならない。」(規範第167条第2項)

イ 「取調べに当たっては、言動に注意し、相手方の年令、性別、境遇、性格等に応じ、その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。」(規範第167条第4項)

ウ 「警察官は、常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め、取調べに当たっては、その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。」(規範第167条第5項)

エ 「精神又は身体に障害のある者の取調べを行うに当たっては、その者の特性を十分に理解し、取調べを行う時間や場所等について配慮するとともに、供述の任意性に疑念が生じることのないように、その障害の程度等を踏まえ、適切な方法を用いなければならない。」(規範第168条の2)

(2) 留意事項

ア 人権への配慮

取調べの相手方には、障害を有する者や外国人、性的マイノリティ等、様々な者が含まれ得ることから、取調べに当たっては、相手方の文化や多様性を理解するとともに、人権への配慮を欠かないこと。

イ 特性に応じた取調べ

精神又は身体に障害のある者以外の者であっても、取調べによる暗示を受けやすかったり、取調べ官等に迎合しやすかったりするなどの特性を有することがあり得る。

そこで、これらの特性に応じた取調べを行うため、特に、以下の事項に留意すること。

(ア) 相手方の特性の事前把握

取調べ官等に迎合する可能性が高いなどの特性を有する者については、早い段階からその特性に応じた取調べ方法を用いるなど特段の配慮をする必要があることから、捜査主任官及び取調べ官等は、当該取調べの前に、身辺捜査、以前の取調べ等の結果を踏まえ、相手方の特性の把握に努めること。

(イ) 特性に応じた取調べ方法の指導教養

個別具体的な事件の捜査に当たり、捜査主任官は、必要に応じ、発問の仕方等、相手方の特性に応じた取調べの具体的な留意点について、事前に医師等の専門的な知見を有する者から意見を聴取するとともに、取調べの状況等を踏まえた具体的なアドバイスを求め、これを当該取調べにいかすよう、取調べ官等を指導すること。

なお、部外の専門家から意見を聴取し、アドバイスを求める場合には、その業務を通じて知り得た秘密を厳守させ、及び捜査の遂行に支障を及ぼし、又は被疑者、被害者その他事件の関係者の名誉を害することのないように配意させること。

5 被疑者の取調べ状況の把握

(1) 関係規定

「前号の報告(規範第20条第2項第4号)、取調べ状況報告書の確認、被疑者の供述及びその状況を記録した記録媒体の再生その他の方法により、被疑者の取調べの状況を把握すること。」(規範第20条第2項第5号)

(2) 留意事項

ア 捜査員からの報告

捜査主任官が、取調べを担当した捜査官から、被疑者の供述内容、態度等を詳細に報告させることは当然であるが、これに限らず、取調べ補助官等も含め、取調べに携わる捜査官から広く報告を求め、その状況を聴取すること。

イ 被疑者の供述及びその状況を記録した記録媒体の再生

「被疑者の供述及びその状況を記録した記録媒体の再生」とは、被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録した場合に、当該記録媒体を再生する方法をいう。このような方法による取調べ状況の把握は、その適正の確保や的確な捜査指揮に大いに資するものと考えられることから、捜査主任官自ら、録音・録画記録の視聴を積極的に行わなければならない。

ウ その他の方法

「その他の方法」としては、具体的には、捜査主任官が取調べ室内部に入って取調べ内容も含め実質的に把握する方法、透視鏡を通じた取調べ室外部からの視認による方法、録音・録画状況報告書の確認等が想定される。

エ あらゆる方法を通じた取調べ状況の正確な把握

なお、これらの方法は、そのいずれかを実施すれば足りるというものではなく、個別事件の具体的な状況に応じて、捜査主任官が、取調べの任意性や信用性を担保し、かつ、取調べの適正確保に向けて、必要な措置を的確に講じなければならない。

6 供述の吟味

(1) 関係規定

「被疑者の供述については、事前に収集した証拠及び前項(規範第173条第1項)の規定により収集した証拠を踏まえ、客観的事実と符合するかどうか、合理的であるかどうか等について十分に検討し、その真実性について判断しなければならない。」(規範第173条第2項)

(2) 留意事項

ア 吟味の在り方

(ア) 被疑者の供述については、供述を得るよりも前に収集した証拠及び裏付け捜査により収集した証拠を踏まえ、客観的事実と対照して、これと符合するか否かを検討すること。

(イ) 通常、こういう場合には当然こういう行動をとるはずであるといった推論に照らし、事後的に見て、被疑者の供述が合理性及び自然性を有するかどうかを吟味すること。

特に、犯人であれば体験しているはずの事項、あるいは容易に説明することができ、また言及するのが当然だと思われるような特異な出来事や犯行の内容について何ら説明がないなど不合理・不自然な供述が認められる場合には、虚偽自白の可能性をも考慮して、供述の信用性について検討すること。

(ウ) 記憶力には個人差があること、時間の経過と共に記憶が薄れることはやむを得ないこと等から、自白の内容に変遷が見られることは、むしろある意味では自然であって、そのことをもって直ちに供述の信用性が失われるものではないが、供述の変遷がある場合、特に、真摯な自白をしている犯人であれば間違えることは考えにくく、殊更嘘をつく必要もないと思われる犯行の手段、方法等の重要な事項について供述の変遷が見られる場合には、その合理的な理由について検討すること。

(エ) 事件発生直後から現場における聞き込み捜査や鑑識活動等徹底した初動捜査を行うなどした場合に、相対的に捜査員が知り得ない秘密性のある事項が少なくなることは当然であるが、供述の中に、あらかじめ捜査員が知り得なかった事項で、捜査の結果、客観的事実であると確認されたもの(いわゆる「秘密の暴露」)が含まれない場合には、その理由を検討すること。

イ 供述吟味担当官の設置等

(ア) 本部長、本部事件主管課長及び署長(以下「本部長等」という。)は、事件の重大性、悪質性、社会的反響の大きさ等に鑑み、捜査本部設置事件(規範第22条第1項)等における捜査指揮を強化するため必要があると判断した場合には、被疑者の供述と客観的証拠、裏付け結果等との関係を精査し、自白の信用性をチェックする専従の供述吟味担当官を本部事件主管課に所属する警部以上の階級にある警察官で捜査主任官以外の者から選任し設置すること。

供述吟味担当官は、供述調書の閲読、取調べ官等からの取調べ状況の聴取により、被疑者の供述の内容を把握した上で、裏付け捜査等によって得られた客観的証拠をも踏まえ、上記アにより供述を吟味し、捜査主任官の捜査指揮に反映させること。

(イ) 供述吟味担当官の設置等の眼目は、本部長等の捜査指揮が適切に行われるようにする点にあるところ、本部長等は、被疑者の供述を複眼的に吟味することを可能にするような捜査体制を構築した上、被疑者の供述の真実性の吟味に関し、具体的に捜査を指揮すること。

(ウ) 上記(ア)に基づき、供述吟味担当官を設置する場合に限らず、あらゆる事件捜査において被疑者の供述の吟味が徹底されなければならないことは当然である。

捜査主任官は、事件の重大性等を問わず、捜査すべき事項の決定並びに捜査方針の樹立及び検討に際し、自ら上記アにより検討を行うなどして、被疑者の供述の吟味を怠らないこと。

取調べの一層の高度化・適正化の推進について(通達)

令和8年4月27日 達(刑総)第262号

(令和8年4月27日施行)

体系情報
刑事部
沿革情報
◆ 令和8年4月27日 達(刑総)第262号