福島県警察 犯罪被害者支援特集

福島県警察本部

インタビューInterview 01

被害者支援室長 佐藤 淳「業務を通して感じた被害者支援の重要性」

■ 現在の仕事内容について教えて下さい。
写真01 今私は、警務部県民サービス課被害者支援室長として仕事をしています。
 警察が被害者支援を行っていることを意外に思う方もいらっしゃると思いますが、警察は捜査の過程で被害者の方と密接に関わります。このため、被害の回復、軽減を図ることを目的として、被害直後から被害者の方に対して、情報提供や付添い等の様々な支援を行っています。
 被害者支援室は、私以下6名が勤務しています。また、県内で大きな事件・事故が起きた場合には、警察署や発生現場に派遣され、実際の支援に当たることもあります。支援室には心理カウンセラーの女性職員が在籍しており、カウンセリングも行っています。
 被害の内容、被害者の方の心理状態等、毎回それぞれ異なる状況の中で我々がどのような支援ができるのか、上司や部下と相談しながら最善の方法を検討しています。施策の企画立案と現場活動の両方を行うのは大変ですが、被害者の声や現場で感じたことを施策に反映できるので皆やりがいを持って取り組んでいます。


■ 警察が行う被害者支援施策には何があるのでしょうか。
 警察が行う施策として、大きく2つあります。
 1つ目は、被害者の方の心理的負担をなるべく軽減する取組みです。例えば、被害者支援要員制度があります。この制度は、重大な被害にあった直後から被害者の方の側に警察職員が付き添い、今後の手続きを説明したり要望を伺ったりするものです。この他にも、性犯罪被害の場合に事情聴取する警察官の性別を選択できる制度、その後の捜査状況を定期的にお知らせする制度(被害者連絡制度)などがあります。また、事情聴取する際に落ち着いた雰囲気の相談室を活用しているほか、被害者支援専用車両を整備しています。
 2つ目は、経済的負担を軽減する取組みです。具体的には、事件立証上必要となる診断書料、性犯罪被害にあったときの治療費、司法解剖した遺体の搬送経費、再び犯罪に遭う危険性が高く自宅から一時的に避難するときの宿泊料等について、県警察が被害者の方に代わって負担する制度があります。また、後遺障害が残った場合や被害者がお亡くなりになった場合には、国から犯罪被害者等給付金が支給されます。
 これらの制度に関しては、まだまだ県民の皆さんに浸透していません。警察が行う施策を今後も周知していきたいと思っています。(詳しくはこちらをご覧ください)


写真02 − 犯罪や交通事故の被害者と聞いても、なかなか身近には感じづらいです。
  そういった意味で広報活動は重要ですね。

 はい。
 事件や事故は毎日報道されていますが、身近なこととして受け止めることは難しい面があります。被害者の方に対して、「かわいそうな弱々しい人」、「何か落ち度があったから被害を受けたのではないか」という偏見を持つ人も少なからずいます。そのような周囲の偏見で傷つき、深い孤独を感じている被害者の方も大勢いるのです。
 そこで、被害者の方やご遺族の講演、手記の朗読を通して、実際の被害者の声を県民に届け、被害者支援を理解してもらおうという取組み(被害者に優しい『ふくしまの風』運動)を公益社団法人ふくしま被害者支援センターとともに推進しているところです。
 特に中学生・高校生には、「命の大切さを学ぶ授業」と題して、被害者支援だけでなく命の大切さについても被害者遺族にお話しいただいています。平成21年4月から今年8月までに、「命の大切さを学ぶ授業」は約2万6千人、それ以外にも約2万人を超える方々に聴講していただきました。
 講演を聞いた中学生からは、
 「途中から涙が止まりませんでした。今までニュースで毎日のように見ていた『交通事故』や『通り魔』などの事件は、自分とは果てしないほど無関係な世界だと思っていましたが、もう今日にでも起こりうる事なのだとわかりました。そして、文面では『1名』などの数字でしかない被害者も、『1名』だけでなく、ひとりの人生、その人を大切に思っている人、その他すべてに深い悲しみを与えるのだと痛感しました」
 「私たちの身近にも東日本大震災で傷ついている人がたくさんいると思うので、今回の授業で学んだことを生かし、少しでも心の支えになりたいと思いました」
 「今日から1秒1秒は、生きられなかった人たちの分まで一生懸命生きたいです。そして、今すぐにでも両親にありがとうの一言を伝えたいです」

等の感想が寄せられており、大きな反響が見られているところです。


■ 支援してきた中で、印象深かった出来事はありますか。
 いろいろありますが、最近では今年7月に発生した会津美里町における強盗殺人事件の支援です。何の落ち度もないご夫婦が、強盗目的で押し入った面識のない男に殺害された誠に痛ましい事件でした。
 当室の係長以下が発生当日から犯人が起訴されるまでの23日間、捜査本部被害者支援班の一員としてご遺族の支援にあたり、捜査手続き時の付添い、告別式での支援、関係自治体との調整など、ご遺族に寄り添い、その要望に応えようと懸命に活動しました。その彼らに、ご遺族から感謝の言葉をいただきました。大変有難かったですし、私としても誇りに思います。


− 被害にあわれた方を思うと、とても心が痛みます。
  被害者の方たちは、その後どのようになっていくのでしょうか。

 人それぞれ異なりますが、長い時間をかけて徐々に回復されていく方が多いと思います。
 被害者の回復というのは、決して元に戻ったり、忘れたりすることではないのです。「消し去ることのできない被害体験を抱えながらも、人生の希望や意味を再び見出していくこと」と言い換えることができるかもしれません。


■ このページをご覧になっている方にメッセージをお願いします。
 「被害者」という言葉に対して、どのようなイメージを持つでしょうか。
 理不尽な犯罪や交通事故に巻き込まれる前までは、被害者の方も私たちと同じように喜び、悲しみ、笑い、悩みながら普通の生活を送っていました。犯罪被害には誰もが遭遇する可能性があります。そういった意味で、被害者とは、私たちの隣人であり、私たちの家族であり、私たち自身でもあるのです。
 被害者の方は、苦しみ、悩みながら長い時間をかけて回復の道を進んでいきます。被害者の方に対する偏見や誤解はその道を遮り、反対に温かい理解はその道を拓きます。理不尽な犯罪被害で、社会への不信感や孤独感を余儀なくされた被害者の方にとって、周囲の方々の共感はその回復を支える大切な礎になります。
 県民の皆さんには、被害者の方に対する理解を深められ、共感を持って接していただきたいと願っています。

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