○福島県警察被疑者取調べの監督に関する訓令の解釈、運用等について(通達)

令和4年4月28日

達(総)第246号

[原議保存期間 10年(令和15年3月31日まで)]

[有効期間 令和15年3月31日まで]

みだしのことについて、次のとおり定め、令和4年4月28日から施行することとしたので、運用上誤りのないようにされたい。

なお、福島県警察被疑者取調べ監督に関する訓令の制定について(令和元年5月24日付け達(総)第212号)は、廃止する。

1 趣旨

この度、警察庁の組織改正等を内容とする警察法の一部を改正する法律(令和4年法律第6号)等の施行により、関東管区警察局にサイバー特別捜査隊(以下「隊」という。)が設置され、重大サイバー事案に係る犯罪の捜査その他の重大サイバー事案に対処するための警察活動に関する事案をつかさどることとなり、隊に所属する警察官が被疑者取調べを含む職権を行使することが可能となった。

これを踏まえ、警察官の行う取調べの監督に関して必要事項を定めている被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則(平成20年国家公安委員会規則第4号。以下「適正化規則」という。)の一部が改正され、関東管区警察局に置かれる取調べ室において行われる被疑者取調べ、隊の警察官が行う被疑者取調べ等についても適正化規則が適用されることとなったことから、改めて本通達を発出し、被疑者取調べの更なる適正化を図るものである。

2 運用上の留意事項

(1) 定義等(第2条関係)

ア 被疑者取調べ(第3号第4号関係)

(ア) 「取調べ室」とは、警察施設内に設置された施設であって、取調べ室又はこれに類する呼称を付され、主として取調べのために使用されているものをいい、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第182条の2第1項に規定する「取調べ室」と同義である。

(イ) 「これに準ずる場所」とは、取調べ室の不足等の理由により、一時的に取調べ室の代用として使用した警察施設、拘置所等の施設内の応接室、会議室、警察車両内等をいい、犯罪捜査規範第182条の2第1項に規定する「これに準ずる場所」と同義である。

イ 監督対象行為(第5号)

取調べに係る不適正行為を未然に防止するため、取調べに係る不適正行為につながるおそれがある客観的で外形上明白な行為を監督対象行為として類型的に指定したものである。

(ア) 監督対象行為は、あくまでも不適正な被疑者取調につながるおそれがある行為であって、これが行われた被疑者取調べが直ちに不適正な被疑者調べに該当することを意味するものではない。

(イ) 「身体に接触すること」とは、具体的には、被疑者を殴打する行為のみならず、被疑者の肩を掴むこと等もこれに該当する。

なお、「やむを得ない場合」とは、警察官が警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)等、他法令の規定等に基づいて行う正当な職務行為が考えられ、具体的には、暴れる被疑者を制圧するために必要な場合、急病の被疑者を救護する場合等がこれに該当する。

(ウ) 「直接又は間接に有形力を行使すること」とは、人の身体に向けられた有形力の行使については、必ずしもそれが人の身体に直接接触することは要しないが、少なくとも、相手の五官に直接間接に作用して不快ないし苦痛を与える性質のものであることが必要であり、例えば、被疑者の手前を狙って鉛筆、ノートを投げつける行為等が該当する。また、物に対する有形力の行使としては、例えば、被疑者を驚かせるつもりで椅子を蹴り上げる行為等が該当する。

なお、物理力すなわち力学的作用のほか、音響、光、電気、熱等のエネルギーの作用を人に及ぼすことも有形力の行使に含まれる。

(エ) 「殊更に不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること」とは、例えば、殊更に「自白しないと家族を逮捕する」と申し向けるなど、任意性に疑念を生じさせるおそれのある行為等がこれに該当する。

(オ) 「一定の動作又は姿勢をとるよう不当に要求すること」とは、強制に至らない強い要求、例えば、取調べ室において被疑者に対して、取調べ中に床に正座することを要求することや壁に向かってしばらく立っているように強く申し向けること等が該当する。

(カ) 「便宜を供与し、又は供与することを申し出、若しくは約束すること」とは、取調べを行うに当たって、供述の代償として利益を供与することを約束すること等は、供述の真実性を失わせるおそれがあるものして、禁止される行為であり、このような行為を未然に防止するため、利益の供与等につながるおそれがある行為として規定したもので、例えば、自白すれば逮捕しないとか、自白すれば略式請求で済むように検察官に話をしてやるなどと申し出たり、約束するほか、接見禁止中の被疑者に対して取調べ室内で携帯電話等により外部と連絡させたりする便宜供与行為がこれに当たる。

また、被疑者に対する飲食物(湯茶を除く。)、たばこ等の提供もこの類型に当たり、監督対象行為に該当するか否かは、被疑者の供述を引き出す目的かどうかには関係がない。

(キ) 「人の尊厳を著しく害するような言動をすること」とは、被疑者及びその家族、友人等の身体的特徴をあげつらったり、その信条や思想を侮辱するなどの行為をいう。

(ク) 「被疑者取調べ」には、休憩時間やポリグラフ検査は該当しない。

ウ 取調べ監督業務推進室(第6号)

取調べ監督業務推進室は、捜査等の影響等を考慮して、監察部門及び留置部門とは分離するものとして総務課に置くこととした。また、取調べ監督業務推進室においては、被疑者取調べの監督の実施に当たり、関係部門と連携しつつ、実施要領の作成、実施に必要な指導教養等を行う。

エ 取調べ監督官(第2条第8号第4条関係)

取調べ監督官は、県本部及び署において被疑者取調べを監督する者で、県本部にあっては取調べ監督業務推進室の警部の階級にある者で本部長が指名したもの、署にあっては副署長、次長又は警務課長の職にある者で署長が指名したものをいう。

オ 取調べ監督補助者(第9号)

取調べ監督補助者は、県本部及び署において取調べ監督官の職務を補助する者で、県本部にあっては取調べ監督業務推進室の警部補の階級にある者並びに交通機動隊及び高速道路交通警察隊の副隊長及び管理係の職にある警部補の階級にある者で本部長が指名したもの、署にあっては警務係又は他係(捜査部門を除く。)の警部補及び巡査部長の階級にある者並びに閉庁時間帯における宿日直責任者及び同副責任者で署長が指名したものをいう。

(2) 留意事項(第3条関係)

ア 取調べ監督官の職務を行う者等は、被疑者取調べの監督に当たり、その保秘が徹底されなかった結果、関係者のプライバシーを侵害することとなったり、犯罪捜査の不当な妨げとなったりすることのないよう注意すること。

イ 被疑者取調べの監督が、必要な限度を超えて取調べ警察官その他の関係者の業務に支障を及ぼし、又は犯罪捜査の不当な妨げとなったりすることのないよう注意すること。

(3) 取調べ監督官の職務(第5条関係)

ア 訓令第16条の規定により巡察官が巡察を行う場合及び第19条の規定により取調べ調査官が調査を行う場合においては、取調べ監督官は、これに協力すること。

イ 取調べ監督官及び取調べ監督補助者(以下「取調べ監督官等」という。)が監督すべき取調べは、原則として自所属(県本部を含む。以下同じ。)において実施される被疑者取調べをいう。

したがって、甲署の署長の指揮に係る事件の被疑者を乙署の取調べ室において取り調べた場合における取調べ監督官等は乙署の取調べ監督官等であり、当該被疑者を県本部の取調べ室において取り調べた場合における取調べ監督官等は県本部の取調べ監督業務推進室の取調べ監督官等である。

ウ 取調べ監督官等の犯罪捜査への従事禁止(第3条第4項)

犯罪捜査と被疑者取調べの監督の分離を明らかにしたものであり、その趣旨を十分に踏まえた上で被疑者取調べの監督に係る事務を行うこと。

3 被疑者取調べの監督(第2章関係)

(1) 被疑者取調べ予定の連絡(第7条関係)

ア 被疑者取調べの予定の連絡は、被疑者取調べ監督部門における取調べ監督業務の円滑な実施に資するだけでなく、捜査部門における適切な業務管理にも資するものであることから、犯罪捜査に支障を生じない範囲で、あらかじめ福島県警察取調べ適正化管理システム(以下「システム」という。)に被疑者取調べの予定を入力し、取調べ監督官に連絡すること。

なお、捜査部門において犯罪捜査に特段の支障を生ずると認める場合には、必ずしも被疑者名や罪名まで入力する必要はなく、取調べ予定日時・場所、取調べ警察官等について入力すれば足りる。

イ 本条に基づく連絡とは、捜査主任官が被疑者取調べの状況等について取調べ監督官に対して行う連絡等をいう。

ウ 被疑者取調べを指揮する署と被疑者取調べの監督を行う署とが異なる場合においては、特に、取調べ監督官と捜査主任官の緊密な連絡を保つこと。

(2) 被疑者取調べ状況の確認等(第8条関係)

ア 取調べ監督官は、事件指揮簿、取調べ状況報告書及び取調べ状況を把握するためのシステムにより送信されたデータ等を閲覧して被疑者取調べの状況の確認を行うこと。

なお、捜査部門において犯罪捜査に特段の支障を生ずると認める場合には、必ずしも被疑者名や罪名まで明らかにする必要はない。

イ 「その他の方法」には、取調べの外部からの視認も含まれるが、視認を行うに当たっては、不定期な実施に努めること。

なお、視認は捜査部門が行うこととなるが、次のような例外的局面の場合には、取調べ監督部門において行うものとする。

○ 特定の捜査部門による取調べの適正確保に向けた取組が十分に機能していないと認められ、取調べ監督部門による視認や巡察を行う特段の必要性が生じる場合

○ 弁護人から苦情の申出がなされるなど不適正な取調べが行われる蓋然性が高い場合

○ 捜査部門から特に要請がある場合

ウ 他所属(県本部を含む。以下同じ。)で捜査中の事件に係る被疑者の取調べが自所属の取調べ室で行われる場合、取調べ監督官は、当該他所属の取調べ監督官等と緊密に連絡をとり、関係書類の写しの送付を受けるなどにより、必要な資料の共有に努め、当該被疑者取調べの状況を適切に確認すること。

(3) 被疑者取調べ状況の報告(第9条関係)

被疑者取調べを行った所属の捜査主任官は、取調べ警察官等をしてシステムに取調べ状況報告書の記載内容等を入力し、取調べ監督官に報告することとしているが、捜査部門において犯罪捜査に特段の支障を生ずると認める場合には、必ずしも被疑者名や罪名まで入力する必要はない。

(4) 捜査主任官に対する通知等(第11条関係)

ア 「必要があると認めるとき」とは、現に監督対象行為に該当するか判然としなかった際に、捜査主任官に所要の業務指導を促すことが適当であると判断された場合等をいう。

イ 明らかにすべき確認の結果とは、監督対象行為に該当するか判然としなかったこと等をいう。

(5) 現に監督対象行為を認めた場合の措置(第12条関係)

ア 取調べ監督官は、確認を行った際、監督対象行為があると認めた場合には、当該被疑者取調べに係る捜査主任官に対し、被疑者取調べの中止その他の措置を求めることができることとした。この場合において、捜査主任官は、速やかに、必要な措置を講ずるものとし、その結果を当該取調べ監督官に通知しなければならないこととした。

イ 「その他の措置」とは、取調べ監督官が現に監督対象行為があると認めるときであっても、その程度が非常に軽微な言動等であり、被疑者取調べを即時中止するまでの必要がないと判断される場合に、当該行為が繰り返されること等を防ぐため、捜査主任官に対して取調べ警察官を説諭するよう促すことや、被疑者取調べに他の職員を立ち会わせることを提案するなどの措置をいう。

(6) 巡察(第16条関係)

ア 巡察について、本部長が「必要があると認めるとき」とは、県下において不適正事案が発生したため、一斉に巡察を行わせるべきであると本部長が認めたときや諸情勢を踏まえ、巡察を行わせるべきであると本部長が認めたときなどをいう。

イ 巡察官については、取調べ監督官が兼ねることができるものとする。

(7) 苦情の通知及び処理(第17条第18条関係)

ア 被疑者取調べに関する苦情については、被疑者取調べの監督に関する所定の手続と併行して、福島県警察の苦情の処理に関する訓令(平成21年県本部訓令第4号)の規定に従って適切に処理するものとする。

イ 「苦情の申出」とは、警察法(昭和29年法律第162号)第79条第1項に規定する「苦情の申出」と同義であるが、同項と異なり、文書によることの要件が規定されていないことから、同項に規定する苦情以外の口頭による苦情のほか、本部長、署長等宛ての苦情等もこれに該当する。

ウ 本条は、被疑者取調べに係る苦情を取調べ監督官が把握すべき旨を規定しているものであり、警察法第79条第1項の規定による苦情やそれ以外の苦情の処理の在り方に変更を及ぼすものではない。いずれにせよ、取調べ監督業務推進室長と県民サービス課長との間で密接に連携すること。

エ 被疑者取調べに係る苦情について、捜査員が申出を受けたときは捜査主任官に、留置担当官が申出を受けたときは留置主任官に、その他の職員が申出を受けたときはその上位の職にある職員に、それぞれ報告することとし、報告を受けた者は、速やかにその旨及びその内容を自所属の取調べ監督官に通知すること。

当該通知を受けた取調べ監督官は、当該通知が他所属の取調べ室における被疑者取調べに係るものであるときは、その旨及びその内容を当該他所属の取調べ監督官に通知すること。

オ 上記エの通知を受けた取調べ監督官は、速やかにその旨及びその内容を所属長に報告すること。

(8) 調査(第19条関係)

ア 取調べ調査官が行う「調査」は、警察として、監督対象行為の有無を確定させるための作用である。

イ 調査の実施を判断する「その他の事情」としては、公判廷における被疑者の証言等がこれに該当する。

ウ 調査の実施(第1項)

(ア) 事実確認の結果を踏まえて調査の要否を判断するべきであるところ、事実確認の結果、監督対象行為に該当する行為が存在しないことを疎明する客観的な資料がある場合を除き、調査を行うものとする。

(イ) 捜査を担当する関東管区警察局及び都道府県警察(以下「都道府県警察等」という。)と取調べ場所を管轄する都道府県警察等とが異なる場合で、取調べ場所を管轄する都道府県警察等における調査が実施されるときは、当該調査が果たされるよう、捜査を担当する都道府県警察等において、これに適切に協力するものとする。

(ウ) 取調べ調査官が作成する調査結果報告書は、警察部内の報告書であって、捜査書類ではないものの、公判において立証上必要があると認められるときは、その謄本等を作成し、捜査報告書に添付するなど証拠化して送致して差し支えない。

エ 署長等に対する資料提出要求等(第2項)

「その他の職員」とは、取調べ補助官等をいう。

福島県警察被疑者取調べの監督に関する訓令の解釈、運用等について(通達)

令和4年4月28日 達(総)第246号

(令和4年4月28日施行)

体系情報
警務部
沿革情報
令和4年4月28日 達(総)第246号