○児童の安全確保を最優先とした児童虐待への対応について(通達)
令和7年5月16日
達(少対、刑総、捜一)第265号
[原議保存期間 5年(令和13年3月31日まで)]
[有効期間 令和13年3月31日まで]
みだしのことについては、次の点に留意の上、児童の安全確保を最優先とした児童虐待の対応に万全を期されたい。
記
1 趣旨
児童虐待は、児童が自ら助けを求めることが困難である、被害を受けていること自体を認識できないなどの理由により、被害が潜在化・長期化し、深刻な被害に至る可能性が高いという特徴を有している。
また、警察が認知した段階では、事案の危険性・切迫性を正確に把握することが困難である一方、事態が急展開して重大な児童虐待事案に発展するおそれがあることから、認知の段階から本部対処体制(人身安全関連事案への対処体制等について(令和6年7月23日付け達(少対、県サ、刑総、捜一)第382号)4(1)の「本部対処体制」をいう。以下同じ。)が確実に関与するとともに、児童相談所等関係機関と緊密な連携を図りつつ、児童の安全確保を最優先に、迅速・的確かつ組織的な対応の徹底を図るものである。
2 児童の安全確保を最優先とした対応の徹底
(1) 児童虐待が疑われる事案等の認知時の速報等
110番通報や相談、関係機関からの情報提供によるほか各種警察活動を通じて児童虐待が疑われる事案(児童虐待と判明している事案を含む。以下同じ。)を認知した際には、署長に速報するとともに、本部対処体制に速報すること。
速報を受けた本部対処体制においては、事案の危険性・切迫性について総合的に判断した上で、児童の安全確保を最優先とした必要な措置が迅速に行われるよう、署に対する指導・助言、要員の派遣等の支援を適切に行うこと。
また、報告を受けた署長は、本部対処体制からの指導・助言を踏まえ、速やかに対処方針及び対処体制を決定し、本部対処体制に報告すること。
(2) 児童の安全確認の徹底
ア 早期の現場臨場
児童虐待が疑われる事案を認知した場合は、児童の安全の直接確認を徹底するため、早期の現場臨場、付近住民への聞き込み、警察が保有する各種情報の照会、児童相談所等関係機関に対する過去の取扱状況等の照会を行うほか、犯罪の捜査、警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)の権限行使等により警察として必要な措置を講ずるとともに、児童相談所に対しても、立入調査や一時保護等、児童の安全確認及び安全確保を最優先とした対応を執るよう求めること。
イ 児童の身体の直接確認等
児童虐待が疑われる事案のうち、児童の身体にあざ、傷、やけどの痕等の外傷が認められる事案は、重大な児童虐待事案に発展するおそれがあることを念頭に置き、児童の安全確認を実施する際は、確実に児童の身体の直接確認を行うこと。
児童の身体の直接確認に当たっては、児童の意向を確認するとともに保護者の同意を得るなどした上で、必要かつ適切な範囲で確認すること。保護者の同意が得られないなどの理由で直接確認ができない場合には、児童相談所に通告した後、児童相談所長からの援助要請を受けるなどして、児童相談所と連携し、確実に児童の身体の直接確認を実施すること。
また、対象児童が女児である場合においては、必ず女性職員が確認を行うこと。乳幼児の場合には、月齢・年齢に照らした発育状態にも留意した上で、市町村等による乳幼児健診等の受診状況やその結果について保護者から聞き取りを行い、保護者の説明と乳幼児の身体所見、母子健康手帳の記載内容等に矛盾がないかどうか確認すること。
(3) 児童相談所に対する通告等の確実な実施等
ア 通告等の確実な実施
児童の安全確認等の結果、虐待を受けたと思われる児童については、児童相談所に対して、速やかに、児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)第6条第1項に規定する通告(以下「通告」という。)を行うこと。
児童虐待が疑われる事案の認知後、対象家庭を特定したものの、対象家庭と連絡が取れないなど、警察が児童の安全を直接確認できない場合にも通告を実施し、児童相談所職員による速やかな児童の安全の直接確認を求めるとともに、その後警察が児童の安全を直接確認する際には同職員の同行を求めること。
通告に際しては、児童相談所に対し、後記(4)の警察の対応状況等の記録を用いて児童の身体の状況や保護者の対応等を客観的かつ具体的に伝達し、必要な措置を執るよう求めること。
なお、警察が認知した児童虐待が疑われる事案については、通告に至らない場合であっても、通告の場合と同様、児童相談所に対して、後記(4)の警察の対応状況等の記録を用いて児童の身体の状況や保護者の対応等を客観的かつ具体的に情報提供すること。
(ア) 児童の身体に外傷が認められる場合
児童の身体等を直接確認した結果、外傷が認められる場合については、本部対処体制の指導・助言を踏まえ組織的かつ総合的に判断した結果、当該外傷が虐待によるものでないことが客観的に明らかでない場合においては通告を行うこと。
(イ) 児童の身体に外傷が認められない場合
児童の身体等を直接確認した結果、外傷が認められない場合についても、児童虐待が伏在している可能性があることから、児童相談所等関係機関に対する当該児童に係る過去の取扱状況等に関する照会結果や児童・保護者からの聴取内容、対象家庭の家庭環境等を十分に勘案した上で、当該児童に係る通告の要否について、本部対処体制の指導・助言を踏まえ組織的かつ総合的に判断し、通告又は情報提供を行うこと。
なお、児童相談所への照会の結果、過去に取扱いがあったとされる児童については、児童虐待の蓋然性が高いものとして対応すること。
また、児童が同居する家庭において、児童の面前で配偶者やその他の家族等に対する暴力や暴言が行われるなどした場合には、当該行為は心理的虐待に該当することから、確実に通告を行うこと。
イ 通報元の保護等
保護者から通報元について質問された場合においては、通報者保護の観点から通報元(通報元が被害児童の場合を含む。)を明かさないこと。
また、通告に際しては、通告を受けた児童相談所等による対象家庭に対する継続支援等の事後対応が円滑に行われるよう配意すること。
ウ 通告後の情報共有等
通告後においては、児童相談所から、児童の安全確認の実施状況や一時保護、在宅指導、施設入所等の措置結果や当該措置後の対応状況のほか、これらを行う中で把握した児童や家庭環境等に係る新たな情報について情報提供を受けるとともに、警察が保有する関連情報を必要かつ相当な範囲で提供するなど児童相談所の適切な措置に資するよう配意すること。
また、通告後も、児童相談所の要請に応じ、児童相談所職員による安全確認に警察職員が同行すること。
エ 事案の継続的な管理
児童の身体にあざ、傷、やけどの痕等の外傷が認められる事案等、重大な児童虐待事案に発展するおそれのある事案については、児童相談所への通告等をもって事案の対処を終えることなく、児童相談所と連携を図りながら、継続的に事案の危険性・切迫性の評価を行うなど、事案の継続的な管理を徹底すること。
(4) 対応状況等の確実な記録化等
児童虐待が疑われる事案を認知した際には、前記(1)、(2)及び(3)の措置等並びにその結果について、適切に記録すること。
特に、前記(2)の児童の安全確認の際には、その経過、確認の方法等を記録すること。また、児童の身体に外傷が認められた場合には、その部位、程度等についても具体的に記録するとともに、同記録を事件主管課と確実に情報共有し、事案の危険性・切迫性の評価や事件化の可否及び要否の判断を行うこと。
なお、通告を行った場合は、福島県警察少年警察活動に関する訓令(平成20年県本部訓令第2号)に基づく少年事案処理簿に記録すること。
(5) 関係する警察本部間の情報共有
児童虐待が疑われる事案で取り扱った児童等の居住地が他の都道府県警察の管轄区域内である場合や、児童等が他の都道府県警察の管轄区域内に転居した場合には、関係する都道府県警察に取扱状況等の必要な情報を確実に共有すること。
3 迅速かつ的確な事件化の可否等の判断と捜査の遂行
児童虐待が疑われる事案の端緒を得た場合には、通告と並行して、本部対処体制の指導・助言を踏まえ、事件化の可否及び要否を迅速かつ的確に判断した上で、事件化する場合には、必要な捜査を可能な限り速やかに行い、捜査を契機とした児童の安全確保を図ること。
その際、事件主管課と県本部少年女性安全対策課は、相互に緊密に連携して、被害児童の保護、支援等に必要な情報の共有を図ること。
4 児童の安全確保に向けた関係機関との連携の強化
(1) 児童相談所等との情報共有及び援助要請に係る連携の強化
ア 実質的な情報共有による連携の強化
「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(平成30年7月20日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)(以下「緊急総合対策」という。)等において、児童相談所や市町村との間で共有することとされている
(ア) 虐待による外傷、ネグレクト、性的虐待があると考えられる事案等に関する情報
(イ) 通告受理後、子どもと面会ができず、48時間以内に児童相談所や関係機関において安全確認ができない事案に関する情報
(ウ) (ア)の児童虐待に起因した一時保護や施設入所等の措置をしている事案であって、当該措置を解除し、家庭復帰するものに関する情報
については、下記の点に留意し、児童相談所等と共に虐待行為のエスカレートや再発に係るリスク要因を点検するなどして、情報共有を実質的なものとし、児童相談所等と連携して対応すること。
a (ア)の情報が共有された場合の対応
(a) 事件化の可否及び要否を迅速かつ的確に判断した上で、事件化する場合には、必要な捜査を可能な限り速やかに行い、捜査を契機とした児童の安全確保を図ること。
(b) 事件化する場合には、児童相談所に対して、捜査手続の流れ、警察における過去の相談・110番通報受理状況、警察による聴取内容及び捜査の結果判明した事項について、捜査への支障に配慮しつつ、必要かつ相当と認められる範囲で情報を提供し、児童相談所における適切な措置に資するよう配意すること。
(c) 事件化に至らない場合には、必要に応じ、後記cと同様の対応を執ること。
b (イ)の情報が共有された場合の対応
(a) 緊急総合対策において、子どもとの面会が出来ず、安全確認が出来ない場合には、立入調査を実施することとなっていることを踏まえ、児童相談所に対し、立入調査等を促すこと。
(b) 児童相談所の要請に応じ、又は警察から児童相談所に申し入れるなどし、児童相談所職員による児童の安全確認に警察職員が同行すること。
c (ウ)の情報が共有された場合の対応
(a) 児童相談所側の再被害のリスクに関する認識とその根拠について聴取し、リスク要因があると判断される場合には、児童相談所側のリスクに関する認識に影響し得る警察が保有する情報を提供するなど、相互にリスク要因がないか点検すること。
(b) 児童の安全に対する不安要素が認められる場合には、児童の安全が継続的に確保されるよう、児童相談所に積極的に協力し、連携を密に対応すること。
イ 安全確認のための援助要請への対応
児童相談所から署長に対し、児童虐待防止法第10条に基づく援助要請がなされた場合には、児童相談所と連携して速やかに対応し、児童の安全確認及び安全確保を行うとともに、児童相談所におけるその後の対応状況について把握すること。
(2) 児童相談所の研修における連携の強化
児童相談所が行う立入調査や臨検・捜索に係る許可状請求事務等に関する研修への警察職員の講師等としての派遣要請に対しては、積極的に協力すること。
また、児童相談所と合同で研修を行う際には、具体的な事例を設定したロールプレイング方式の訓練のほか、過去の事例を踏まえた実務上の問題点や課題に即した議題を設定するなど、真に実効が上がるものとなるよう工夫すること。
(3) 学校・教育委員会との連携強化
学校・教育委員会における通告等の対応に関し、保護者から威圧的な要求や暴力の行使が予想される場合等には、警察が連携して対応することが求められることから、双方で窓口担当者を定め、対応要領を確認しておくなどした上で、通報や情報提供を受けた場合には、学校等及び児童相談所と連携して対応すること。
また、元警察職員の学校への配置に関する協力依頼がなされた場合にも、積極的に支援すること。
(4) 要保護児童対策地域協議会を活用した関係機関等との連携の強化
市町村から要保護児童対策地域協議会へ構成員として参画要請がなされた場合には参画するとともに、要保護児童対策地域協議会において、関係機関等と緊密な連携を図り、事案に応じて児童に対する具体的な支援の内容について意見を述べるなど被害抑止に向けた積極的な対応を行うこと。
5 関係機関との情報共有の実施に関する留意事項
児童相談所をはじめとする知事部局、市町村等の関係機関との情報共有に関しては、その範囲、実施方法、提供を受けた情報の取扱方法等について、関係機関との間で事前に十分な協議を行い、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)に照らして適切なものとするとともに、結果を書面で取り決めるなどして、運用等に疑義が生じないようにすること。
また、取決め等を策定した後においても、随時、情報共有の実施状況等について点検を行い、必要がある場合には関係機関と協議の上、取決め等の見直しを図るなどして、情報共有が円滑かつ適切に行われるよう留意すること。
6 被害児童等に対する配意及び支援
(1) 被害児童等の心情や特性に配意した聴取の実施
児童虐待が疑われる事案における、被害児童等からの聴取については、関係機関の代表者による聴取が児童の負担軽減及び児童の供述の信用性の担保の双方に資する有効な聴取方法であるとの認識の下、被害児童等の心情や特性に配意するとともに、検察庁、児童相談所等の関係機関と緊密な連携を図りながら対応すること。
(2) 少年警察補導員の活用
前記(1)を含め、被害児童等への対応においては、公認心理師等の資格を有するなど児童の心理・特性に関する専門的知識・知見を有する少年警察補導員を積極的に活用し、被害児童等の心情に配意した支援や児童相談所との緊密な連携を図ること。
7 児童虐待に関する対応力の強化
(1) 児童虐待の早期発見等に資する教養の徹底
ア 全警察職員に対する教養
児童虐待の早期発見のためには、児童虐待が疑われる現場への臨場時のみならず、非行少年等の補導時、被害少年・家出少年・迷い子の保護時、児童が同居する家庭における配偶者からの暴力事案の認知時、巡回連絡、交通検問、各種相談等あらゆる警察活動の過程において児童虐待につながり得る情報の収集に努める必要があること、また、児童虐待の疑いのある事案を認知した際には迅速に対処する必要があることを、あらゆる機会を捉えて教養すること。
また、児童虐待の具体例、児童虐待発見の着眼点、事案を認知した場合の対応要領等について、効果的な教養を実施するなどし、警察における児童虐待における対応力の向上を図ること。
イ 児童虐待担当者に対する教養
被害児童等の聴取に関する警察官の技能の更なる向上を図るため、事情聴取場面を設定した実践的なロールプレイング方式の教養を採り入れるなど、効果的な教養の実施に努めること。
(2) 児童虐待対策官の指定
県本部少年女性安全対策課対策官を児童虐待対策官に指定し、児童相談所等関係機関との連携や児童虐待の疑いがある事案等を認知した際の初動対応、被害児童等の心理を踏まえた事情聴取等の児童虐待に係る専門的対応に関する指導教養等の業務に従事させ、警察における児童虐待への対応力の一層の強化を図ることとした。