○刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律等の一部施行に伴う関係規定の適切な運用等について(通達)

令和5年7月13日

達(捜一、刑総、生企、少対)第290号

[原議保存期間 5年(令和11年3月31日まで)]

[有効期間 令和11年3月31日まで]

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号。以下「改正法」という。)及び性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和5年法律第67号。以下「性的姿態撮影等処罰法」という。)が令和5年6月23日に公布され、改正法第1条による改正後の刑法及び性的姿態撮影等処罰法第2章の罰則規定については令和5年7月13日から施行されることから、次の点に留意の上、関係規定の適切な運用等を推進されたい。

1 改正規定等の運用上の留意事項等

(1) 性的行為に関する規定の適切な運用

改正後の刑法(明治40年法律第45号)第176条(不同意わいせつ)及び第177条(不同意性交等)の規定は、現行法の強制性交等罪や準強制性交等罪等について、より明確で、判断のばらつきが生じないものとするため、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」を統一的な要件として規定し、その状態の原因となり得る行為や事由を具体的に列挙することとされ、これにより、現行法でも本来なら処罰されるべき、同意していないわいせつな行為又は性交等(以下「性的行為」という。)がより的確に処罰されるようになるものである。そして、このような文言を用いた要件とすることに鑑み、罪名については、不同意わいせつ罪及び不同意性交等罪に改めることとされたものである。

改正後の刑法第176条(不同意わいせつ)及び第177条(不同意性交等)に規定する行為については、一般に、児童福祉法(昭和22年法律第164号)、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「児童ポルノ法」という。)に規定する罪、福島県迷惑行為等防止条例(平成12年福島県条例第190号。以下「県条例」という。)に規定する「卑わいな言動」に係る罪等と保護法益を異にすると考えられ、これらの罪も成立し得る場合が想定されることから、個々の事案において把握した証拠関係に基づき、適切に適用罪名を検討すること。

なお、例えば、電車内における痴漢行為については、これまで、県条例に規定する罪のほか、事案の内容に応じて、改正前の刑法第176条の強制わいせつ罪を適用してきたところであるが、施行後は、不同意わいせつ罪又は不同意性交等罪が成立し得る場合があることから、改正の趣旨を踏まえつつ、個々の事案において把握した証拠関係に基づき、適切に適用罪名を検討すること。

(2) 性交同意年齢の引上げ

13歳未満の者に対して性的行為をした場合は、一律に処罰対象となるが、13歳以上16歳未満の者に対しては、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合に処罰対象となる。ただし、衆議院及び参議院の法務委員会における附帯決議の内容等にもあるように、13歳以上16歳未満の者に対する5歳未満の年長の者(とりわけ、行為をする者が18歳以上であり、かつ、その相手方が16歳未満である場合)の性的行為、性的姿態等の撮影行為又は性的姿態等の影像の影像送信行為を認知した場合は、直ちに構成要件に該当しないと判断せず、改正後の刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」等により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」の要件や、同刑法第176条第2項及び第177条第2項に規定する「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ」又は性的姿態撮影等処罰法第2条第1項第3号及び第5条第1項第3号に規定する「行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ」の要件に該当し得る場合があることに留意すること。

なお、同刑法第176条第3項及び第177条第3項に規定する年齢差の算定は、誕生日起算であることに留意すること。

(3) 膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為の取扱いの見直し

膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為でわいせつなもの(以下「異物挿入行為」という。)は、現行法上、強制わいせつ罪による処罰の対象とされているが、そのような行為については、性交、肛門性交及び口腔性交に匹敵する当罰性を有する行為であると考えられることから、これを性交等と同等に取り扱い、改正後の刑法第177条の罪として処罰の対象とされることとなる。

そのため、現行法の適用条文と異なる取扱いとなるほか、当該罪の未遂も同様に処罰の対象とされることに留意すること。

(4) 配偶者間において不同意性交等罪等が成立することの明確化

現行の刑法の下においても、行為者と相手方との間に婚姻関係があるか否かは、強制わいせつ罪等の成立に影響しないとする見解に基づいた運用がなされているところであるが、配偶者間におけるこれらの罪の成立範囲が限定的に解される余地をなくす等の観点から、改正後の刑法第176条第1項及び第177条第1項に「婚姻関係の有無にかかわらず」と規定されるものである。

(5) 16歳未満の者に対する面会要求等罪

本規定は、若年者に対する性犯罪を未然に防止し、性的自由・性的自己決定権の保護を徹底するため、性犯罪に至る前の段階であっても、性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態を侵害する危険を生じさせたり、これを現に侵害する行為を処罰対象とするものである。

本罪に規定する行為については、一般に、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(平成15年法律第83号)に規定する罪、県条例に規定する罪等と保護法益を異にすると考えられ、これらの罪も成立し得る場合が想定されるほか、当該行為の後の性的行為が認められれば、不同意わいせつ罪(改正後の刑法第176条)、不同意性交等罪(同刑法第177条)が、また、姿態映像の送信が認められれば、児童ポルノ法に規定する罪等が成立し得る場合が想定されることから、個々の事案において把握した証拠関係に基づき、適切に適用罪名を検討すること。

(6) 公訴時効期間の延長

性犯罪については、一般に、恥の感情や自責感により、被害申告が困難であること、また、被害者の周囲の者が被害に気付きにくいことから、他の犯罪と比較して、類型的に被害が潜在化しやすいという性質がある。このような特性を踏まえ、訴追可能性を確保するため、改正後の刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第250条第3項においては、性犯罪について公訴時効期間を5年間延長することとされたほか、同条第4項においては、性犯罪の被害者が18歳未満である場合には、犯罪が終わった時から被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間について、公訴時効期間に加算することとされている。

また、改正法附則第4条及び第5条において、改正後の刑事訴訟法第250条第3項及び第4項の施行前に犯された罪で、その施行の際既に公訴時効が完成しているものについては、これらの規定は適用されない一方、これらの規定の施行前に犯された強姦や強制性交等の罪であっても、その施行の際公訴時効が完成していないものについては、これらの規定が適用されることに留意すること。

(7) 被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則

いわゆる司法面接的手法を用いて性犯罪の被害者等から聴取した結果等を記録した録音・録画記録媒体については、改正後の刑事訴訟法第321条の3の規定に基づき、一定の要件の下、反対尋問の機会を保障した上で、主尋問に代えて証拠とすることができることとなる。

本規定の対象者については、性犯罪の被害者等のほか、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者とされており、本規定の適用を念頭に置いた聴取の実施に当たっては、児童を被害者等とする事案への対応における検察及び児童相談所との連携について(令和4年6月10日付け達(刑総、少対、捜一)第305号)性犯罪の被害者が精神に障害を有する事案における検察との連携の試行実施について(令和4年6月23日付け達(刑総、捜一)第325号)等を踏まえ、関係機関との連携を図ること。

(8) 性的姿態撮影等処罰法に規定する罪と他罪との関係

性的姿態撮影等処罰法第2章の罪は、意思に反して性的な姿態を撮影したり、これにより生成された姿態の記録を提供するといった行為がなされれば、当該記録の存在や拡散等により、他の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じる危険があることから、それらの行為を処罰するものであり、これらの罪は、意思に反して自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権を保護法益としている。また、同法第2条第3項及び同法第5条第3項は、同法第2条第1項及び第2項並びに第5条第1項及び第2項に規定する罪に当たる行為が不同意わいせつ罪及び監護者わいせつ罪にも該当する場合について、性的姿態等撮影罪又は性的姿態等影像送信罪の成立により不同意わいせつ罪又は監護者わいせつ罪の成否が影響を受けるものではないことに疑義が生じないよう、刑法第176条及び第179条第1項の適用を妨げない旨を確認的に規定している。

その上で、性的姿態等撮影罪(同法第2条第1項及び第2項)及び性的姿態等影像送信罪(同法第5条第1項及び第2項)に規定する行為については、一般に、不同意わいせつ罪(改正後の刑法第176条)及び監護者わいせつ罪(同刑法第179条第1項)も成立し得ること、また、児童ポルノ法に規定する罪、県条例に規定する「通常衣服で隠されている下着又は身体」の撮影等に係る罪等と保護法益が異なると考えられ、これらの罪も成立し得る場合が想定されることから、個々の事案において把握した証拠関係に基づき、適切に適用罪名を検討すること。また、性的姿態等撮影罪に該当しない撮影行為について、直ちにおよそ他の犯罪の構成要件にも該当しないものと判断することなく、個々の事案において把握した証拠関係に基づき、県条例に規定する「着衣等で覆われている他人の下着又は身体」の撮影等に係る罪や「卑わいな言動」に係る罪の適用を適切に検討すること。

2 職員に対する指導教養

改正法による改正事項は多岐にわたり、新たな罪も新設されること等から、改正法や性的姿態撮影等処罰法の内容に疑義が生じた場合は、県本部事件主管課と協議するなどして、警察が解釈や適用を誤ることのないようにすること。

なお、性犯罪の認知時においては、性犯罪捜査を担当する捜査員のみならず、様々な警察職員がその対応に当たる可能性があることから、被害者の心情に配意した適切な対応がなされるよう、職員に対し広く指導教養を実施すること。

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令和5年7月13日 達(捜一、刑総、生企、少対)第290号

(令和5年7月13日施行)

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